伊東ゆう 青弓社 2021.5.20
読書日:2021.7.22
万引きGメンを20年以上やり、5000人以上を捕捉し、映画「万引き家族」の監修もしたベテランが、最近のコロナ禍を含めた最近の万引き状況を多数の実例をあげて報告する本。
わしはけっこう貧困問題に関心があって、こういうものとかこういうものをこれまでにも読んできた。というのは、わしは貧困問題は解決可能だと信じているからで、具体的にはベーシックインカム的な政策により解決できると思っている。そういうわけで、本書も読んでみようと思った次第。
著者は万引きGメンとして、スーパーを中心に活躍している人であるが、これまでも万引きの実情に関する著書がある。この本ではコロナ禍での状況が含まれているのが新しい。
一般的には、コロナで職を失い、生活に困って万引きに及ぶ人はもちろん多いわけであるが、個人の飲食店の事業者が、店で提供する食材を万引きするケースが多数あることが珍しい。つまり、売り上げが減り、店がつぶれそうなので、なんとかコストを下げるために材料の調達に万引きを行うという事例である。このケースがコロナ禍で増えているようだ。
ふだん著者は、自分の住んでいる近所では活動を行わない。そりゃそうだ。もしかしたら知っている人の万引き現場を見てしまうかもしれないからだ。だれだってそんなものを見たくないだろう。しかしやむを得ず、住んでいる地域の店を担当した時、どこかで見た夫人が次々に食材を持っていこうとしたのを捕まえたところ、つい昨日食べたばかりの定食屋の奥さんだったという。ご主人はこのことを知らず、店の経営を助けるために行っていたのだ。
なかにはスーパーの店員たちが普段利用している飲食店がそのスーパーで万引きした食材を提供していたという事例があって、とられた食材を自分でお金を払って買っていたということなので、さすがに店の人もあきれていたという。
万引きする人はどうせとるなら高価なものをという傾向があるというが、コロナ禍では逆にもやしなんかの安いものをとるケースが多いという。ふだんのちょっとしたものが不足しているということでしょうか。
コロナで言えば、マスクはもちろんだが、店の店頭においてあるアルコール消毒薬が次々に盗まれたという。消毒薬に限らず、無料で提供しているビニール袋とかをまとめて持って行ったり、トイレットペーパーの持ち去りも多い。レジ袋が有料になってからは、レジ袋の万引きも増えているようだ。
テクノロジーの発展で、自分でスキャンして支払うセルフレジでは、わざと高価なものをスキャンしたように見せかける万引きも増えているという。こういうのはスキャンしたかどうかをそばで見ていなくてはいけないからなかなか確認が大変だ。
わしはちょっとした買い物なら、自分のスマホでバーコードをスキャンしてそのままスマホで支払うシステムを使うことが多いが、スキャンしたものは自分の買い物袋にすぐ入れてしまうから、端から見てれば、次々に棚に並んだ商品を自分の袋に入れている限りなく万引っぽいおっさんになってしまう。この場合、どうやって万引きかどうかを見極めるのだろう。技術の発展で万引きをとらえるのがとても難しくなっていくような気がする。きっと今後は人ではなく、機械が全部お金を支払ったかどうかをカメラ映像などで確認して行く方向になるんじゃないかと思う。
支払い方法の多様化で万引きの確認は難しくなるかもしれないが、そもそも万引きする人は店に入った時からわかるようだ。この著者がよく説明するのは目つきで、狐目の目つきとか、名探偵コナンに出てくる黒ずくめのひとたちの目つきとか表現している。やはり犯罪を犯す気が満々な人は態度にでてしまうらしい。
万引き常習者はホームレスや困窮老人も多いが、最近は若年困窮者が多いというのは、考えさせられる。しかも彼らはあっけらかんとして、事態の重要性に気が付いていないみたいだ。わしはこういう食料にも事欠く人たちは一定数必ずいるんだから、やっぱり国民みんなにあらかじめお金を配ってしまった方がいろいろ効率的な気がしますね。
ほかにもいろんなケースが書かれてあって、まるで調査報告書のように1件数ページで次々書かれてある。店の従業員が自分の店で万引きしている例とか、家族でやっている例とか、最近多い外国人が組織的にやってる例とか、本当にいろいろです。
わしは大学時代にイオン系のスーパーでバイトをした時があって、あるとき、きれいな女性から「事務所はどこですか」とひどく緊張した表情で聞かれ、教えてあげたことがある。あまりに余裕のない表情だったので不思議に思っていると、そばにいたひどく平凡なおばさんが「ああ、万引きした女の子の母親ね」と教えてくれた。その普通のおばさんはよく見るので誰だろうと思っていたんですが、実はその店担当の万引きGメンなのでした。わしはびっくりしておばさんの顔を見ると、おばさんはウフフと笑ってどこかに消えていきました。今考えると、もうちょっといろいろ話を聞いておけばよかった。
★★★☆☆