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死体格差 異状死17万人の衝撃

山田敏弘 新潮社 2021.9.15
読書日:2022.1.4

日本で病院の外で亡くなった異状死、約17万件のうち死体解剖が行われるのは11.5%に過ぎず、ほとんどの異状死は原因の究明がなされないまま放置されている上に、独立した死因究明組織はなく、警察が主導権を取る弊害を報告した本。

死因を究明する法医学を行うのは大学の先生が多く、各都道府県にわずかな人数しかおらず、だいたいは1、2名しかいないんだそうだ。人数が少ない上に大学の先生は研究を行う義務もあり、あまり時間が取れない。しかもちゃんとした究明のためには1件あたり40万円ほどの経費がかかるが、その費用は予算化されていない場合が多く、謝礼として10万円弱が支払われることがほとんどだそうだ。この結果、ほとんどの異状死では解剖が行われない。結果、かなりの犯罪が見過ごされていると推定できる。

さらには設備が不十分で、オーム真理教のサリン事件以前は、毒物の検出もできない状態だったのだという。死因がサリンによるものだったかどうかは、かなりあとになって確認されたそうだ。

しかも解剖をするかどうかの判断は警察が行い、その死因には警察が描くストーリーに合わせて作るというプレッシャーが常にかかっているという。

一方、欧米の場合は、ほぼすべての異状死の原因を究明することが求められていることも多く、独立した究明機関により行われているという。その目的も事件性の確認にあるのではなく、保険行政をはじめとする各種行政の改善のための基本的な調査という扱いだ。給与も非常に高く、優秀な医師が目指すには十分な給与のようだ。(カリフォルニアで年収35万ドル)。

日本でも独立した機関の設立が求められるが、17万件で1件あたり50万円かかるとすると単純計算で850億円となるから、年間予算は1000億円規模になる。こういう予算を新規に獲得するのはなかなか難しいだろうなあ、というのは、わしですら容易に想像がつく。

警察から独立した仕組みにするとしても、どこが担当するのがいいのか。法医学者は大学にほとんどいるが、大学は文部科学省の管轄で、彼らは基本的に研究者なので、死因究明のエキスパートとして適任ではない。やはり厚生労働省なんでしょうかねえ。

予算低減のひとつの方法として、Ai(オートプシー・イメージング)というのがあるそうだ。これは解剖をしないまでも、CTスキャン、MRIの画像をとりあえず撮っておくという方法だそうで、あとから確認したいときに少なくともデータが残る。しかし、血管の中の映像が残らないという問題があって、死因の中で多い血管系の心筋梗塞脳梗塞などの情報は残らないことになり、実際に死因の究明率は低いようだ。ただ今後技術が進めば、こうした画像だけで特定できることも多くなることが期待できるのではないか。

最近、法医学をテーマにしたドラマがよく作られているが、その主人公は女性である場合が多いという。実際に法医学の先生には女性が多いのだという。なぜならば、劣悪な条件だから男がなりたがらないから、だそうだ。女性にとってのスキマ産業的な位置づけらしく、地道にやっていると成果が出る仕事だという。しかし、県に1、2人しかいないとなると、いつ事件が起きるかも分からず、土日も半分スタンバイしているような状況らしいので、やっぱり予算をつけて、人数を増やさないとどうしようもないなあ、という感じです。

こういった法医学の問題は以前から指摘されていたらしいけど、コロナの影響でさらにクローズアップされているらしい。死体がコロナ陽性だと死因はコロナということで、事件性は考慮されず、まったく解剖されていないらしい。コロナで日本のいろんな弱点が顕になってきたけど、死因究明もそのひとつだそうです。

★★★★☆

 

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