夢遊病者たち―第一次世界大戦はいかにして始まったか 1・2

クリストファー・クラーク (著), 小原 淳 (翻訳) みすず書房 (2017/1/26)
読書日:2019年9月7日

近年、第1次世界大戦に注目が集まっている。単純に勃発した1914年から100年たったからという意味もあるが、今日の世界情勢が第1次世界大戦の頃と酷似しているのではないか、という思いが皆にあるからである。

ではどの辺が似ているのかというと、国際情勢のグタグタ感である。

1990年代、冷戦が終わったときには、アメリカの1強になると思われ、それで世界は安定するのかと思われた。しかし現実はそうなっていない。中国、EU、ロシアなどあちこちで覇権争いが常態化し、今後もどこかが強力な覇権を握るというよりは、このグタグタが長期間続くのではないか思われる。

このグダグダ感は、日本では応仁の乱ブームを引き起こしているが、世界史でも、この第1次世界大戦にいたる国際情勢が注目を集めている、、、のではないか、とわしは思う。少なくとも、わしはそういう気持ちでこの本を読んだ。

では、どのへんが当時グタグタしていたのであろうか。単純に言えば、新たにドイツという新興国が勃興して、そのドイツにフランスが普仏戦争で負け、もうひとつの大国ロシアは日露戦争で負け、一方、消えゆく大国と言われていたオーストリア=ハンガリー帝国もまだ健在だった。そして当時世界の海上の覇権を握っていたイギリスは、フランスと協商関係を結びなから、大陸に対してどっちつかずの態度を示していた。さらに中東の大国だったオスマン帝国が後退し、空白となったバルカン半島で地域戦争が起こり、セルビアオーストリアに挑戦的な態度を見せ始めていた。

というわけで、新たに発生した国に、衰えていく国も混じって、圧倒的な国もなく、大陸の力関係はぐちゃぐちゃだったうえ、バルカンの半島情勢は不安定だった。

第1次世界大戦は、ドイツが負けたあと、ドイツが一方的に悪いということになっているが、この本で述べられた戦争に進む状況を振り返ると、そうではない。

ここで、中心的役割を果たしたのは、フランスである。普仏戦争に負けたフランスは、ドイツの強さを身に沁みて知ったから、次に戦うときのために、ロシアと手を結ぶ。西と東の両面からドイツを攻撃するためである。

そして、ドイツとの戦争がどのように起こるかも、フランスは正確に読んでいた。バルカン半島セルビアオーストリアの間で戦争が起こると、セルビアと同じスラブ民族であるロシアが出てくる。するとオーストリアと同盟関係にあるドイツが出てくる。すると、ロシアと同盟関係にあるフランスも出てくる。フランスと協商関係にあるイギリスも参戦するだろう、と。

フランスは戦争の発端もその後の展開も、正確に読み切っていたわけだ。ヨーロッパ全体が戦争になる可能性も分かっていたはずだ。

正確に読んでいたから、フランスは十分に準備をした。

フランスはロシアがすぐにドイツに向かって兵を送れるように鉄道を敷設する金を貸し与えている。これは当時の最大級の経済援助だった。そしてロシアはフランスの協力で急速に軍隊を充実させている。

ドイツも自分たちが東西の2正面作戦を強いられることを十分に分かっていた。そして、いまなら勝てる可能性があるが、この先フランス+ロシアの軍事力が自分たちを上回ってしまうことも理解していた。つまり、ちょうど、お互いの軍事バランスが逆になる転換点にあったのだ。ドイツ側にも、戦争するならいま、という意味で戦争をする動機があった。

恐ろしいことに、十分に準備していたからこそ、サラエボオーストリアの皇太子が暗殺され、フランスの読みどおりに実際にセルビアオーストリアの間で戦争の危機が発生したとき、各国は準備通りの行動をするしかなかったのである。

オーストリアセルビアとの戦争を決意したとき、ロシアはオーストリアを牽制するために国境に兵を動員するしかなかった。このとき、オーストリアだけを限定的に牽制する計画は存在せず、ドイツまでも含めて攻撃する動員計画しかなかった。そのため、非常に大量の軍隊が国境に向かった。国境に集まるロシア軍が自分たちを攻撃する軍隊を含んでいるのは明らかだったから、ドイツも兵を動員するしかなかった。ロシアを攻撃することはフランスを攻撃することと同じだから、ドイツは西にも兵を動員する。イギリスも中立国のベルギーにドイツ軍が入ると、フランスとともに戦うとしか言えなかった。

つまり、まるで信念を持ち準備していたからこそ、それが自己実現してしまった感があるのだ。フランスを含め、どの国も読めなかったのは、この戦争がどんなに悲惨で、長期に渡り、損失がいかに大きくなるかということだった。誰もがすぐに終わるとの幻想を抱いていたのである。(それが題名の「夢遊病者たち」の由来)。

さて、日本人がこの本を読んで、なにかためになることがあるだろうか。

わしはやはり、バルカン半島の情勢がいかに周囲の大国を巻き込み、ひさんな戦争を誘発したかということを考えざるを得なかった。もちろん、このときに頭に思い浮かべていたのは、朝鮮半島のことである。半島というのは特殊な地理条件で、こうした半島情勢に巻き込まれるのは危険だとしみじみ思った。

朝鮮半島は、以前述べたように、今後統一朝鮮が誕生する方向だ。そのときに、なにが起こるのだろうか。

日本は最悪に備えて準備は必要だ。だが、準備をしたために最悪の想定が自己実現してしまうことも避けなくてはいけない。とくに相手が核ミサイルを持ち、腹いせになにをするかわからない連中ならなおさらだ。

このようなグタグタ感が常態の世界では、なにが起こっても不思議ではないだろう。そのとき危機に立ち向かう日本政府が懸命であってほしいと願うばかりである。

★★★★☆

 


夢遊病者たち 1――第一次世界大戦はいかにして始まったか


夢遊病者たち 2――第一次世界大戦はいかにして始まったか

閉店間際のスタバにて


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投資は自己責任で、と言いますが。。。

仕事帰りにスタバでコーヒーしてたら、二人の女性が話していて、一方が、「お金を返せ、いますぐ返せ」と大声で叫び始めて、周囲の目を顧みない醜態に、引いてしまいました。彼女は眉間に縦縞を寄せて、鬼の形相です。

どうも一千万円以上を投資して、それが二千万円ぐらいの損失になっているようなことを叫んでいます。110円がどうしたこうしたと言ってますから、きっとFXでしょう。このところの円高で、損をしたのだと思います。

「あのお金あなたにあげてないから、月末までに一千万円返して、念書書いて、返せと言ったら返せ、損させてるでしょ」

そう叫びながら、言ってる方がわーっと泣き出してしまいました。

なんか姉妹のようです。きっと姉が妹に言われるままに投資して、損したのでしょう。これじゃあ、人間関係も無茶苦茶です。

ちょっとよく分からないのは、どうもいまだにポジションを解消していないようなのです。なので損失がいくらなのかも流動的で、確定しておらず、よく分かっていないようなのです。

「私、もうやめる、もうしない」

と叫んでいましたが、普通なら、とっくにやめてるでしょ。というか、FXやるなら、普通損失をふくらませないために、ストップを設定するでしょ。ストップを設定せずに、大金を投入したとしたら、びっくりです。

たぶん、まったく投資の勉強をしたことがないのでしょう。FXやるのなら、本の2,3冊読んだだけで、ストップを設定しようと思うはずです。たとえば、ラリー・ウイリアムズは、いろいろ投資手法を書いておきながら、最後にこれだけは忘れないようにと、「ストップを必ずかける」と太字で記載して本を終えているくらいです。

買い物をするときに、10万円以上のちょっと高い買い物、例えば洗濯機や冷蔵庫をなどを買うときには、どれを買えばいいか、どこで買えばいいか、きちんと事前に下調べをするでしょう。なのに、何百万も、時には何千万円もの金融商品を買うときには、まったく自分で勉強せずに、友達がすすめたからとか雑誌で紹介されていたからという理由で気軽に購入するなんて信じられません。

ストップをかけずに、ポジションを解消するのは、けっこう難しいのです。わしがなかなか身につかなかった行動様式に、このポジション解消があります。逆にやってはいけないナンピン買いをして、傷口を広げたこともあります。

ポジションを解消できないのは、心理的な理由があります。ひとは自分の間違いを認めるのが非常に苦しいので、失敗してもずるずるとそのポジションをキープしてしまうのです。いつか相場が回復するだろうと希望的観測を抱いて、思考停止に陥ります。だから機械的なストップはとても有効です。

しかしながら最近は、ストップをかけなくても、あ〜あ、間違っちゃった、と気軽に反対売買をできるようになりました。慣れたんですね。この気軽さを身につけただけでも、長年投資を経験して来た甲斐があったというものです。この気軽さを最初から身につけている人は、非常に幸運と言うべきでしょう。ゲーム感覚でやってる人はたぶんそうではないかと思います。わしはゲームをやらないので、苦労しました。

もうひとつ、この姉妹でよく分からないのは、どうも姉は自分で投資をしているようなのです。妹にお金を貸して、妹が運用して損をしたのなら分かりますが、妹の言葉を信じて投資をして負けたとして、それを返せと言われても、妹も困惑するでしょう。「返してくれないのなら裁判をする」と叫んでいましたが、きっと裁判でも負けるんじゃないでしょうか?

話を聞いていて、思いだしたことがあります。昔、わしがいろんな投資を試しているとき、あるヨーロッパの企業に投資しようと思いました。雑誌にその会社のことが書いてあったんですね。ヨーロッパの企業に投資したことがなかったので、やってみようと思いました。その話をすると、ある人が「私も投資したい」といい、5万円をわしに預けました。

だが、この投資は失敗し、株価は10分の1以下になってしまいました。当然その人は「5万円返せ」と言いますよね。でもこの人は、この銘柄が上がれば、当然、儲けた分をよこせと言うでしょう。このひとにとっては、失敗したらわしのせい、成功したら自分のお手柄、ということなのです。知ってる人だったし、たかだか5万円ですから、もちろん元本をわしは返しました。(日本人の間で、5万円のやり取りは非常に重いですよね。)

わしは人のお金を預かってはいけないという教訓を得ました。そして、ひとに銘柄を勧めるときにも、注意をしなくてはいけません。返せ、と言われますからね。日本では気軽にお金儲けの話はできない、ということです。

アメリカ人は気軽にパーティで儲け話の話をするそうですね。中国人も、会うとそういう話になるようですね。でも日本人同士でそれをやるのはとても、とても難しいのです。お互い、どのくらいのリスクがあるかを自分で計算できない人同士がビジネスの話をしても、失敗したらお前のせいだ、という話になってしまいます。

ちなみに我が家では、妻も株を買っています。なので、多少、投資の話ができるのですが、、、。
東京電力の株価が上がらないんだけど」
「いつ買ったの?」
東日本大震災の前から持ってる」
うーん、原発事故の前に買ったものをまだ持ってるとは、、、この際、ずっともってるのも記念になっていいかも。

そのスタバは10時で閉店となり、姉妹は店を出ました。興味深く事態を眺めていたわしも、席を立ちました。

 

これからを生きるための無敵のお金の話

ひろゆき(西野博之)興陽館 2019年3月15日
読書日:2019年8月30日

このところなぜかひろゆきの本を読むことが多いんだが、あんまり内容が薄いのでもう読むの止めようと思っていた。でも、この本は、まあ普通に読めた。ただし内容は数行で書ける。

・お金がほしいのは不安を解消したいから。不安が解消できればお金自体は少なくても良い。
ベーシックインカムが導入されれば、ほぼ不安は解消される。移民に厳しい島国の日本なら導入できる。
・少ないお金で生活するスキルが身につけば、不安は少なくなる。
・自分の資産にならない働き方はしない。

まあ、これくらいでしょうか。

昔、ひろゆきの本を読んで、その考え方にけっこう斬新さを覚えたことがありますが、最近は超普通で面白くありません。もしかしたら日本を離れてしまったことが影響しているのかなあ。

ひろゆきには反社会的な内容の本を書いてほしいな。民事裁判で負けても怖くない、みたいな?(笑)。

★★★☆☆

 


これからを生きるための無敵の―お金の話

欲望の資本主義3:偽りの個人主義を越えて

丸山 俊一, NHK「欲望の資本主義」制作班 東洋経済新報社 2019年6月28日

読書日:2019年8月28日

~やめられない、止まらない~

わしはNHKの「欲望の資本主義」シリーズのファンで、テーマ曲がヴィム・ヴェンダースの映画「 ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」からきていると聞いて、その映画も観てしまったくらいである。(確かに使われていたが、ただそれだけのことだった。なお曲名は三宅純の Lillies of the valley)。

今回の欲望の資本主義3では、GAFAなどの巨大IT企業、暗号通貨とブロックチェーン、AIといったキーワードを交えつつ、資本主義と個人の自由について考察している。

これら巨大企業や先進テクノロジーは確かにいまの資本主義に大きな影響を与えているが、どちらかというと技術的な話であり、しかもすでにAI以外はかなり先の展開が見えてきているのではないだろうか。

例えばGAFAについて言うと、すでにこれらの巨大企業を規制する方向に向かっているのは間違いない。1章でギャロウェイが言うように、SNSやいいねをクリックするのは労働であり、GAFAはひとをただで働かせて利潤を搾取している、という言い方でもいいし、個人のデータでお金儲けをしているくせにまったく社会に還元していない、という言い方をしてもいいが、ともかく今やGAFAは責められる一方なのであり、それが個人情報に関する規制に留まるのか、特別な税を設定するのかは別にして、10年後、20年後にはGAFAの力はかなりそがれていると思う。

暗号通貨も今後の展開はかなり読めてきたように思う。いまのままでは法定通貨を駆逐するには及ばないだろう。この本に出てくるホスキンソンは、世界の貧困層に金融サービスを提供できると高く評価しているのだが、わしは補助的な役割にとどまると思う。たぶんブロックチェーンの技術もいまのままでは、処理能力の遅さもあり、政府や銀行などの組織からユーザを開放するほどではないと思う。

AIについてだけは、まだ展開が予想できない現在進行中のものである。今後の展開がどうなるか分からないが、わしの予想ではきっとひっそりと社会に溶け込んで、人間には認識されない存在になるのではという気がしている。つまりAIが見えなくなることで、AI問題(AIが人間にとって代わる、特に仕事を奪う)という問題自体が溶けて消えるのではないかと予想している。

そういうこともあって、1章から3章ぐらいまではあまり面白くなかった。なので、わしががぜん興味を持ったのは、4章のハラリの文明論的な視点と、5章のガブリエルの哲学の話だった。

ハラリは相変わらず冴えていて、完全な自由では社会は崩壊してしまう、規制(ルール)が必要、などと当たり前のことを再認識しさせてくれる。資本主義が今後どうなるかについては分からないが、今とは違うことだけは確かだという。

哲学者ガブリエルの話は、TVで見たときにはさほど印象が残らなかったのだが、本で読むと、この5人のなかでは最もエキサイティングだった。哲学の方向から見ると、同じ問題でも少し違った見え方をするようだ。

真のAIは存在しない、とか、人々を支配しているのは機械の背後にいる誰かだ、とか、ソーシャルメディアはカジノだ、とか、ちょっと他ではお目にかかれない刺激的な言葉に溢れている。彼は優秀なコピーライターなんだろうか? ガブリエルの著書「なぜ世界は存在しないのか」を読まなくてはいけないと強く感じた。

(もっともこの題名だけからどんな論理展開なのか、ちょっと予想がついてしまったのだが。脳内イメージで作っている現実は実際には現実ではないと言いたいのでは?)

ガブリエルの言葉をいくつか記録として残しておく。なお、言葉は本に書いてあるままではなく、わしの解釈を入れています。

・真のAIはない:AIは一定の時間機能する電気回路に過ぎず、人間が使わなければすぐに壊れる。つまりAIは人間に依存しており、本当の意味で、自分で自律的に学ぶ知能ではないということ。

ソーシャルメディアはカジノだ:人々はいいねを押すことで賭けをしている。ソーシャルメディはその賭けから得られる利益のほとんどを吸い取っているカジノの胴元のようなもの。

・「真実が存在しない」というまやかし:フェイクニュースが蔓延し、「真実が存在しない」かのように振る舞うことで、社会がごまかし放題になり、社会が存在する前の自然状態に戻ってしまった。(正しい情報よりも、誰かが言った意見のほうが蔓延する状態をポストトゥルースとガブリエルは呼んでいる。)

・哲学は考え方を変えることで世界を変革する:マルクスは書斎で解釈を本に書くことで世界を変えた。哲学者はアイディアで世界を変えられる。

★★★★☆


欲望の資本主義3―偽りの個人主義を越えて

市場サイクルを極める 勝率を高める王道の投資哲学

ハワード・マークス/著 貫井佳子/訳 日本経済新聞出版社 2018.11.1
読書日:2019年8月25日

ハワード・マークスは低格付けの債券に投資するオークスツリー・キャピタルの創始者のひとりで、投資家に向かって定期的にレターを書いていますが、そのレターをもとにして本も出しています。

前書の「投資で一番大切な20の教え」では、わしが見たところ、20どころかひとつのこと、つまりリスクコントロール以外のことは述べていなかったような気がしました。

なにしろ、この人の本は、自分の書いたレターをもとにしているせいか、同じことが少し表現を変えて何度も出てくるという構成になっており、たぶん内容をまとめると数ページで終わるような感じです。

したがってこの人の本の正しい読み方は、だらだらと読みながら、繰り返し語られることを心に刻みつけるように読むという感じが正しいのでしょう。まるで職場のベテランが繰り返し噛んで含めるように若手を教育しているような趣があるのです。

前回の本がリスクコントロールならば、今回のテーマは正しいときに投資するという、タイミングの問題です。市場にはサイクルというものがあり、上がったり下がったりしています。そしてもちろん、投資するベストなタイミングはサイクルのボトムです。ところが、そのサイクルのピークもボトムもそこにいるのは一瞬でしかありません。どうすればベストなタイミングかどうかわかるのでしょうか。

ところで、この本で扱っているサイクルというのは、10年、20年という長期のサイクルの話をしています。そして、ピークを過ぎてボトムをつけたときというのは、直近ではリーマン・ショック級の話をしています。つまり、バブルとバブルの崩壊をサイクルと言ってるのです。なので、個々の銘柄の話をしているわけではありません。

そうなると、ピークが近いかどうかは、社会の心理状態を見ていれば分かると言います。つまり、人々が傲慢になり、リスクを恐れないようになり、「今回だけは違う」と言い始めたときです。そういう言葉が聞こえるようになったら、用心をしなくてはいけません。

問題は、社会が傲慢になったからと言って、サイクルがいつピークをつけるか分からないことです。2000年のITバブルの時は、保守的なひとが用心を始めたのは1996年ごろで、それから何年も市場は伸び続けました。2008年のリーマンショックの時も著者たちが用心を始めたのは2006年だったそうです。つまり3年間、市場は持ちました。

で、実際に崩壊したとして、いつ買うべきでしょうか? 著者によれば、いつがボトムなのか誰にも判断はできないと言います。じゃあ、「落ちてくるナイフを掴む」べきなのでしょうか。著者はまさにそうすべきだと言います。そもそもボトムを待っているうちに売り物はなくなってしまうのです。皆が投げている間しか買うことはできません。リーマンショックの時には、買い時は数カ月しかなかったそうです。2008年9月15日-2009年1月の間だけでした。

ということが、十分分かっていたとして、実際に買えるものなのでしょうか。世の中が総悲観の時に買えるものでしょうか?

著者によれば、そういうときは、未来の自分がどう今を振り返るかを思い描くそうです。もしもここで買わなかったら、未来の自分が後悔しないかどうか、それを考えるそうです。結局、適正な価格よりも思いっきり安くなっていると判断したら、買うしかないのです。

2008年のリーマンショックの時も、買うと判断して、オークツリーでは顧客を説得して、お金を集めました。が、どうしてもお金を出さなかった顧客もいたと言います。著者は自腹を切って、投資したといいます。

投資ファンドの場合は顧客を説得するのでしょうが、個人の場合はどうしたらいいのでしょうか。買いたくてもお金がない状況は避けなくてはいけないでしょう。そうすると、常にある程度のキャッシュを持っているしかないと思います。

わしは個人的には総資産の20%ぐらいは常にキャッシュで持っていたい、と思っています。しかし、実際には15%ぐらいを上下しています。

どういうわけか、わしは世の中が大変な時に、投資以外でお金を使う羽目になることが多くて、非常にタイミングの悪い人生を送っています。リーマンショックの時には、マンションを買わなくてはいけなくなり、価値が落ちた資産を売って、現金を工面しなくてはいけませんでした。(参照:投資家から撤退するかどうかを迫られた時期

日本の場合は、その後、2008年のリーマンショックが底ではなくて、2011年の東日本大震災がボトムでしたね。まだボトムがあったので、そこで買った資産が、いまの元になっています。わしの投資歴を振り返ると、ちょっと悲しいことが多いです。

 ★★★★☆

 


市場サイクルを極める 勝率を高める王道の投資哲学

目からウロコが落ちる奇跡の経済教室 基礎知識編

中野剛志 ベストセラーズ 2019年4月22日
読書日:2019年8月22日

MMT理論について分かりやすく解説した本。著者はかつて「富国と強兵」という本の中でMMT理論を説明しているが、なにぶんその本の目的は国を強くする方策を説明することにあるので、余分な部分が多すぎる。そこで、MMT部分だけを分かりやすく説明したのが本書と言えるでしょう。

わしは90年代から経済関係の本を読むようになったが、その当時、バブル崩壊後で日本経済はむちゃくちゃであった。わしは何が起こっているのか知りたいと思って、そういう経済の本を読んでいたのである。

しかし、いったい日本経済に何が起こっているのか、さまざまな議論があったが、結局なんなのかさっぱりわからなかったのである。

あるものは不景気なのだから赤字財政を行い公共事業をしろと言い、あるものはそんなことをしたらハイパーインフレが起きて日本経済は崩壊すると言い、あるものは人口動態が原因で労働人口が減ってるから今後景気が回復することはないと言い、あるものはお金をばらまけばいいと言い、あるものは時間とともに価値が減る貨幣を導入すればいいと言い、あるものはゾンビ企業が生き残って社会の効率が悪くなっているのが原因だからさらに不景気にして企業を倒産させなくてはならないと言い、あるものは二か国間・多国間のFTP条約を結んで自由貿易を活性化させなくてはいけないと言い、あるものは規制緩和をして産業を興しやすく起業をしやすくしろと言った。

マネーとはなんなのか、国家経済とはなんなのか、そんなところから考え直さなくてはいけなくなってしまったのである。なのに、それぞれの議論はつながることはなく、わしのフラストレーションは高まるばかりだった。

そもそも日本はデフレであるという認識が世間に形成されるまでに、非常に長い時間がかかったのである。

90年代の後半に消費者物価がマイナスになったことがあった。だが、日本経済新聞は1面で、これはデフレではないという署名記事を出した。

どういう意味?

わしはさっぱり分からなかったので、日経新聞に電話して、デフレでないという理由を聞いた。(時効だと思うから言うが、会社の電話を勤務時間中に私用で使いました。ゆるい職場でした(笑))。すると、顧客対応の部署も答えられなかったので(そりゃそうだよね)、なんと署名した記者自身に電話が回り、なぜデフレではないか直接説明してくれたのである。

記者によると、単に物価が下がるだけではデフレとは言えないのだそうだ。デフレというのは、需要が供給を下回った結果物価が下がるのがデフレなのである、と。「需要<供給」以外で物価が下がる例としては、技術革新でパソコンやスマホの値段が下がるとか、いろんな場合があると。なるほど。

わしのような質問が続いたのであろう。次の日の朝刊には、デフレの定義について詳しい解説記事が再度掲載されたのでした。(笑)

しかし、いまでは、(継続的に)物価水準が下がること自体がデフレと認められて、なんであれ物価が下がることが問題なのであるという認識になりました。

とまあ、いろんな経緯の末に、わしはMMTを読んで、ようやく全ての話がつながったと感じたのである。MMTはさように包括的、そしてシンプルである。

MMTが間違っているという人はほとんどいない。まったく普通のことしか言っていないのだから。問題は単に、インフレになった時に本当にそれを止められますか、というところだけなのである。

中野氏には頑張ってもらって、ぜひとも日本人のマネー感を変革してほしいものである。思うに、日本ほどマネーに対する議論が行われた国はないでしょう。日本人こそ、MMTを理解するのに適した国民はいないのである。

★★★★★

 


目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】 (ワニの本)

人生は攻略できる

橘 玲 ポプラ社 2019年2月28日
読書日:2019年8月20日

橘玲は趣を変えて何度も同じネタを使いまわしている。

今回も、ここ何年間に出してきた本を若者向けの指南書という形で書き直したものである。ひとつひとつは橘玲の本をよく読むわしのような人間にとってはおなじみの内容なのであるが、しかしこういうふうにまとめられると、それなりに読めてしまう。

ちょっと面白いと思ったのは、アメリカで起業せずにわざとぬるい日本で起業することのメリットについて述べた部分だった。

日本では大きな企業は自分たちで新しい事業を開発する能力を失っている。なので、新しい事業に関しては基本的にM&Aで買う方向である。(お金だけはたっぷり持ってる)。そうすると、ちょっと行けてるふうの会社を起業すると、次々に買い手が現れて、取り合いになり、何の実績もないうちに数億円、数10億円の値段がついてしまい、あっという間に創業者はお金持ちになってしまうというのである。

さらに、親会社はその企業を経営する実力はないから、創業者たちは経営者として残ることができるから、売った後も継続的に所得を得ることができる。

もちろん、アメリカの企業のように何千億円の値段ではないが、そもそも日本では数億円稼げれば十分豊かに暮らしていけるから、そのくらい稼げればいいという場合には、とても簡単だというのである。ぬるい日本ならではの成功方法と言える。

日本は、日本型サラリーマンの時代は終わったのに、いまだにシステムの転換はできていないけど、それでもやっぱり日本で生まれたことのメリットは大きいと橘氏は述べていて、日本にいる限りは飢えて死ぬことはあり得ないから、若者には自分にあったチャレンジングな人生を勧めているようである。

★★★☆☆


人生は攻略できる

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