ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

高次元空間を見る方法 次元が増えるとどんな不思議が起こるのか

小笠英志 講談社 2019.9.20
読書日:2022.12.30

3次元以上の高次元空間をイメージする方法を教える本。

物理の超弦理論なんかでは、10次元とか11次元とかの高次元の空間を取り扱うが、研究している人はよくそんな空間をイメージできるなあ、と感心する。そんなわけで、実際に数学者がどんなふうに高次元空間をイメージしているのかという興味でこの本を手にとってみた。

そもそも高次元ではどんなことが起こるのだろうか。本書では、例として、3次元ではほどけない結び目が4次元ではほどけることを示してくれる。

3次元のなかに1次元のロープのようなものがあって、途中に結び目を作り、端をつないで、輪っか状になっている。

ふつうの3次元では、輪っかをどこも切らずに結び目をほどくことができない。ところが空間を4次元に拡張すると、輪っかを切らずに、4次元空間内をなめらかに移動させるだけで結び目がほどくことができる。この説明は明解に書かれてあって、知らなかったのでちょっとびっくりした。

なるほど、高次元空間では普通ではありえないことが起きるらしい。ただこの説明の図は3次元空間をいくつもつないだ、かなりまどろっこしいものになっている。もしも4次元を直接知覚できたら便利だろう。

そんなわけで、この本の目的は、4次元空間を直接イメージする(直覚する)方法を伝授することである。多少の訓練をすれば、誰でもそれをイメージできるようになり、人によっては「衝撃的な体験」になるというのである。

これって、もしかしたら、拡張感覚を体験できるLSDのような幻覚剤よりもすごいことなんじゃないかしら。(笑)

4次元空間を認識できる対象としては、3次元の結び目を、4次元で直覚できることを目指す。3次元空間のなかでは1次元のロープによる結び目があるのだから、4次元空間では2次元の平面による結び目が作れるのだそうだ。なるほど。

方法としては、先ほどの1次元の結び目を回転させて作る。

立体のx≧0、y=0の平面に1次元の結び目を置き、それをzw平面に対して回転させることをイメージするというのである。

しかし、ある軸の周りを回転するというのならわかるが、平面に対して回転させるというのがどうもよくわからない。この辺は「直感力を働かせて気合で想像してください」という。そして「見えましたか?」と読者に聞いてくるのだが。

……。

…………。

見えるかっ! そもそも気合で想像って、なに?(苦笑)

初心者はこの辺が直覚できることが大切なんだそうです。このままでは、わしは初心者にすらなれないらしい。

zw平面に対して回転させるというのは、z軸とw軸の2軸の回転ということかしら? そうだとすると2軸を回転させるぐにゃぐにゃした図形を思い描けばいいのかしら。

ちなみに見えたという方の動画が以下のところに載っています。この動画の意味って、もしかしたら、身体を横と縦の両方で回転しているところがミソなんでしょうか? 2軸の回転ということで。うーん。

 

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★★★★☆

大きく考えることの魔術 あなたには無限の可能性がある(新訂版)

ダビッド・J・シュワルツ 訳・桑名一央 1970.7.25初版 2004.9.25新訂版
読書日:2022.12.29

人間は自分が思った通りの存在にしかなれないのだから、構想するときには大きく考えるべきだ、と主張する本。

この本、1970年からずっと売れ続けているのである。なんともはやである。で、書いてあることは、表題のとおりで、それ以上でもそれ以下でもない。(笑)

大きく考えるかどうかで、成果は全く異なるという。小さく考えると、そこに限界を設けてしまい、それ以上になれない。

なぜ大きく考えられないのだろうか。

自分に自信がない、周りの意見に流される、しない言い訳をいろいろ思いつく、などである。

そして、そうならないためには、自分に自信を持つこと、自分の周りを一流の人ばかりにすること、実行する勇気を持つこと、などが大切と書かれてある。

「人生は小さくなっているには短すぎる(ディズレーリ)」、なんだそうだ。

大きく考えることには、わしも異存はない。しかし、どうも人生が短かすぎる、などという発想はわしには相当いまいちだ。

言い訳ばかりして実行しない人が多すぎる、という話だが、まあ、いいではないか。わし的には、構想するがぐずぐずとなかなか実行しないのは、有りだ。

大きく構想してさえいれば、いずれは実行する可能性がある。もしかしたら、考えているだけでもいいかもしれない。自分が実行しなくても、そういう発想を話しているだけで、誰かが「面白い、自分がやろう」と言ってくれるかもしれない。自分がやるという発想でなくてもいいのだ。

わしはそもそも、人生は短いという発想は好きになれない。ここでも書いたが、構想するときには時間のことは気にしないほうが好きだ。もしも無限に時間があると発想すると、実行しなくてぐずぐずしてもちっとも構わない。

そういうわけで、わしの場合は、構想はでっかく、やるときはボチボチ、というふうにしたいです。

そんなふうにできるかって? さあ。

まあ、できなくてもいいじゃない。(笑)。

★★★★☆

 

星新一 一〇〇一話をつくった人

最相葉月 新潮社 2007.3.10
読書日:2022.12.28

星製薬の御曹司として生まれながら、SF作家に転身して、ショートショートを1001話作った星新一の評伝。

まあ、正直に言って、前半の星製薬の話は興味深くはありましたが、そんなに面白くはなかったです。やっぱりこの本を読む人は、作家としての星新一に興味があるでしょうからね。確かに、一族のドタバタが作家の人生に大きな影響を与えたことは確かでしょうから、避けられない話であることはわかりますが。

しかし驚いたのは、星新一が作家に転身して、ほとんどなんの苦もなくデビューしているように見えることですね。同人誌にいくつか作品を発表しただけで、すぐに商業誌に転載されています。

デビューするとまたたく間に人気作家になりましたが、何しろショートショートは短いから、原稿料では食べていけません。実際にそれがお金になるようになったのは文庫化されて、ロングセラーになってからだそうです。すぐに長者リストの常連になりました。新潮文庫の版数はこの評伝が発表された2007年時点でのきなみ100版を越えているようなので、いまはどのくらいになっているのか。星の作品は時代を越えているので、ずっと売れ続けるのでしょう。

星新一は晩年は新しい版になるごとに、昔の作品を現代版にバージョンアップすることに執念を燃やしていたそうですが、でもそれさえもきっと誰かが引き継いでくれるでしょう。なにしろ明治時代の作品もどんどん現代語訳される昨今なので、きっと誰かが監修して、直してくれるのでしょう。時代に廃れない作品というのはすごいです。

星新一が自分の作品を確立したと確信したのは「ボッコちゃん」を完成させたときだそうです。それぐらい画期的な作品だそうですが、わしは子供の頃、ボッコちゃんを読んだとき、これがなんで傑作と言われているのかさっぱり分かりませんでした。(いまなら少しは理解できる)。

わしが星新一の作品ですごいと思ったのは、「声の網」ですね。わしが読んだ時代にはパソコン通信があるかないかでインターネットのイの字もなかった頃ですが、ネットワークと知性という内容にしびれてしまいましたね。そのせいか、その後のインターネットで起こったことは、全く違和感がありませんでした。こんな話を1970年代にもう構想して、完成させているというのがすごすぎる。

こうした星の透徹した感性が最も現れるのは、パーティなどの席であふれる星語録なんでしょうね。なんでこんな発想ができるんだという言葉が短い言葉で発せられて、周りは爆笑になったそうです。きっと発表できないやばいものも多かったと思いますが、星語録はインターネット上にもいくつか転がっていますから、ググって見ればいいと思います。でも、その場にいた人たちがちょっと羨ましいですね。

創作方法としては、いろんな言葉をメモした紙をストックしておいて、その中から普通は繋がりのない言葉を選んで、そのなかで繋がりを考えるという落語の三題噺(客の言う適当な3つの単語からお話を作る)みたいな方法ですね。へー、意外と普通、という感じでした。

いまNHKで、星新一ショートショートがドラマ化されて、たまに放送されていますね。つい観てしまいますが、どんな時代でも使えるネタなのはさすがです。

★★★★☆

第三次世界大戦はもう始まっている

エマニュエル・トッド 訳・大野舞 文藝春秋 2022.6.20
読書日:2022.12.25

歴史人口学者のエマニュエル・トッドが、ウクライナ戦争は米英により仕掛けられた事実上の第三次世界大戦だと主張する本。

エマニュエル・トッドのことは知っていたが、これが初めての読書である。人口学者であり、1970年代に、ソ連の平均寿命が下がり、幼児死亡率は上昇していることから、ソ連社会がうまくいっておらず、遠からず崩壊すると予言したことで有名だ。独特の感性を持っており、世間で言われていることと異なったことを話してくれるので、非常に好ましい。

ウクライナ戦争に関して、エマニュエル・トッドは、シカゴ大学国際政治学ミアシャイマーの意見にほぼ全面的に賛成している。それはウクライナ戦争は米英が起こしたものだという主張だ。

ウクライナNATO加盟国ではないが、事実上のNATO加盟国だという。以前からアメリカとイギリスは高性能の武器を供与し軍事顧問団を派遣していて、ウクライナを衛星国化していた。

さかのぼると、東西ドイツが統合された1990年、NATOは東に拡大しないとロシアに約束していた。その後、約束は破られ、NATOの東方拡大は実行されたが、ロシアはそれを飲んだ。しかし、2008年にNATOが「将来的にはジョージアウクライナを組み込む」という方針が発表すると、ロシアは「ジョージアウクライナNATO加盟は絶対に許さない」とレッドラインを明言していた。しかしウクライナが事実上のアメリカの衛星国化されていたので、ロシアは侵攻に踏み切ったという。

こういうことは戦争が始まっていらい、プーチンがさんざん述べて来たことであるが、エマニュエル・トッドはそれを、もっともなことだ、と認めているということになる。

もともとアメリカには「ロシアはウクライナなしでは帝国になれない(byブレジンスキー)」という地政学的な戦略があって、その戦略的にそって意図的にウクライナを取り込んできたのだそうだ。だから、アメリカはこの戦争を引き起こした責任があるというのである。

ロシアはウクライナのことを「ナチス」と呼んでいるが、わしはこれを単純に「敵」という意味だと解釈していた(ロシアのファシズムについてはここ)。しかし、エマニュエル・トッドによれば、それには意味があるのだという。

エマニュエル・トッドによれば、ウクライナはそもそも歴史的に1つの国としてまとまったことがなくて、ソ連の一部になったとき、はじめて国になったのだという。ウクライナは西部(ガリツィア)、中部(小ロシア、キーウがある)、東部・南部(ドンバスと黒海沿岸)の3つの地域に別れていて、家族構成も宗教も異なる。西部はポーランドの一部と言っていいところで、宗教はユニアト教会(カトリックの一種、東方典礼カトリック教会)なんだそうだ。中部はギリシャ正教核家族の社会。東部・南部はロシアの一部と言っていいところで、ロシア語を話し、共同体家族(父権が支配する権威主義的な家族構成)だそうで、たぶん宗教はロシア正教だろう。

そして歴史的には西部の極右勢力は第2次世界大戦のとき、ナチスドイツを招いたのだという。その極右勢力が2014年のユーロマイダン革命(クーデタ)を引き起こしたので、事実上いまのウクライナはネオナチなんだという。これにはちょっとびっくりした。プーチンが使っているネオナチという表現にはちゃんと意味があったというわけだ。

エマニュエル・トッドは、こうしたウクライナの国家の構成から、ウクライナ戦争の結末のひとつの可能性を示唆している。それはウクライナが3つに分裂して終わるというものだ。西部はポーランドに吸収され、死活的という東部・南部はロシアが死守し、ウクライナは中核の小ロシア部分だけが残った状態になるというものだ。

そういう意味で、エマニュエル・トッドは、アメリカはウクライナに代理戦争をさせて、さらにウクライナを破壊していると非難している。

しかし、なぜアメリカはロシアをこんなに目の敵にしているのだろうか。

エマニュエル・トッドは、アメリカがロシアを恐れており、それは自分たちが衰退しているからだという。それはエマニュエル・トッドソ連について解析したのと同じように、幼児死亡率と平均寿命の悪化に現れている。どちらも先進国の中で突出して悪化しているのだ。一方、ロシアの人口動態は危機的な状況から回復しつつあることを示している。これがアメリカがロシアを恐れている理由だというのだ。

世界中から供給を受けないと経済が成り立たないアメリカ、ヨーロッパは、ロシア以上にこの戦争の影響を受けており、もしかしたら思った以上に西側諸国は経済が脆弱な状況を示しているのかもしれないという。この辺はわしも驚いているところなので、納得だ。アメリカやイギリスで激しいインフレが起きて混乱しているように見える一方、日本はしっかりしているように見える。

そして、世界は「自由民主主義陣営」と「権威主義的陣営」の戦いと言われているが、現在の米英は自由民主主義とは言えないという。なぜなら、著しい不平等が広がっているからだ。エマニュエル・トッドによれば、これは家族の構成が「絶対核家族」(子供は親と独立し、財産は遺言で相続者を指名するので、兄弟間での不平等に無関心)であることに由来しているという。今の米英をエマニュエル・トッドは「リベラル寡頭制陣営」と呼んでいる。

さて、こんなアメリカが台湾有事のときに本当に何かしてくれるのだろうか。とてもそんなふうには思えない。エマニュエル・トッドアメリカは中国と戦わないし戦えない、とはっきりいっている。きっとウクライナ戦争と同じように、台湾が(もしかしたら日本も)アメリカの代理戦争をするというのが現実的な話のように思える。アメリカにしてみれば、台湾が少しでも中国の力をそいでくれればいいのだから。アメリカには十分注意する必要があるだろう。

それにしても、家族構成の分析や人口動態から、なんともいろんなことが分かることに驚くばかりだ。エマニュエル・トッドの本をもっと読もうと思う。

★★★★★

 

京都生まれの和風韓国人が40年間、徹底比較したから書けた!そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。―文化・アイドル・政治・経済・歴史・美容の最新グローバル日韓教養書

ムーギー・キム 東洋経済新報社 2022.7.14
読書日:2022.12.23

グローバル・エリート・ビジネスマンで在日3世のムーギー・キムが、日本と韓国の関係をその根本から真剣に考えた本。

ムーギー・キムってもう40代なんだそうだ。いまでは起業家として香港に住んでいるらしい。で、ムーギーの本ってこれまで何冊か読んだはずなんだけど、これまで感想をここでアップしたことがないね。あれま(笑)。

これまでのムーギーの本って少しおちゃらけた感じもあったけど、この本は極めて真面目に取り組んでいる。在日韓国人の彼にとって、自分の存在意義をかけたテーマになるのだから当然だろう。

細かい文化の違いについて書いたところもあるのだが、やはり歴史の認識の仕方について、どうして韓国と日本でこれだけ違うのか述べたところが、この本では最も重要なところだろう。

ムーギーによれば、韓国人は歴史をさかのぼって「真相究明」ということをしつこくやる人たちで、王様をあとから廃位したり、復帰させたりというということをしょっちゅうやっているという。

これはやっぱり儒教の影響なんだそうだ。儒教では過去が最も道徳的に素晴らしいとする学問で、過去にさかのぼって正統性が認められたほうが道徳的に正しい。そして道徳的に正しいことを究極的に証明するものというのが、相手の謝罪なんだそうだ。こういうメンタリティなので、韓国ではやたらと相手に謝罪を求めるのだという。

だからこの謝罪の要求は、何も日本に対してだけでなく、韓国内でもお互いにやりあっており、それは身近な家族間であっても同じなのだそうだ。ムーギーの妻は韓国人で、しかもあまり韓国人ぽくないそうだが、それでもなにかあると謝罪を求めてくるという。そしてその謝罪は形だけのものではなくて、心からの謝罪を求めるのだという。

心からの謝罪とは何かというと、私はこういうところが悪かったと、言語にして説明することで、そうしないと納得しないのだそうだ。日本に何度も謝罪を求めるのは、この辺の心からの謝罪という点で、韓国人の基準に達していないからなのだそうだ。

というわけで、道徳的な正統性を何よりも重視する風土なので、対立する勢力間で妥協はほぼ不可能なんだそうだ。なんか、とてもとても面倒くさい国だなあ、とつくづく思う。

一方の日本は白黒をはっきりつけず、すべてを水に流して忘れる文化なのだという。とくに、死んでしまったあとは、それ以上責任を追求しようとはしない。日本人は現実的で、過去にこだわらないのだという。なぜなら、死んだらどんな人間も天国に行くからなのだという。最も典型的なのは武士道で、切腹して責任を取ると許される。

一方で、日本が失敗を恐れ減点主義になるのは、失敗すると切腹もので、本当に命がけになってしまうからで、ヨーロッパのように、神に告白して失敗を認めればドンマイとなるような文化だったら良かったのに、とムーギーは言っている。

歴史認識に関しては、例えば従軍慰安婦問題では、ムーギーは自分なりに双方の言い分を検討しているが、日本側の反論は弱いと見ているようだ。一部の例外を全体に広げるような反論のしかたで説得力がないという。

こんなふうに違いばかりが目立ってしまうが、両者は遺伝的にもほぼ同じであるとし、おそらくZ世代ではもっと交流が活発になり、両国の関係も変わるのではないか、というのがムーギーの願いである。まあ、韓国にしろ中国にしろ、これら隣国が無くなることはありえないので、単に嫌っているだけではなんにもならないことは確かではある。

わしが韓国に強い不信感を持ったのは、例の日本海でのレーザー照射事件で、こんなことをする国はいざというときにとても一緒に戦えない、と思ったのが発端なので、この事件にムーギーが何も触れていないのがちょっと残念だった。

ところで、じつはこの本で一番ビックリしたのは、豊臣秀吉の朝鮮征伐で民間人を含めた数十万人が犠牲になって耳と鼻を削がれたという話です。これは16世紀では世界的にも圧倒的な犠牲の数だったそうだ。特に南原(ナムウォン)城の戦いが老若男女の大虐殺で悲惨だったそうだ。これは全く知りませんでした。

そりゃあ、これは、朝鮮にはさぞかし大ショックだったでしょう。まさか日本に攻撃されるとは思ってなかったでしょうし。今も韓国ドラマの時代劇に出てくるし、民族のトラウマになったことは十分理解できます。きっと明治時代に日本が武力で海外に出たとき、朝鮮の人たちの脳裏には戦国時代の記憶がまざまざと蘇ったことでしょう。

一方で、日本の方では、大虐殺を反省するわけでもなく(日本はそのころ戦国時代なんだから、戦争することに反省するはずがないけど)、かといって自慢に思っているわけでもなく、単に歴史の彼方に忘れ去られている、というのがすごいなあ、と思いました。ほぼ日本の社会にはなんのインパクトもなかったというところがねえ。まあ、外国で起きた話ですし、日本的には豊臣から徳川のほうに勢力が移ったという内政への影響のほうがきっと重要なんですね。

★★★☆☆

 

「週4時間」だけ働く 9時ー5時労働からおさらばして、世界中の好きな場所に住み、ニューリッチになろう。(拡大アップデート完全版)

ティモシー・フェリス 訳・田中じゅん 青志社 2011.2.15(オリジナルは2006年)
読書日:2022.12.22

自由を得るために、ビジネスをネット上で自動化することで、週に4時間だけの労働で好きなところに住めると主張する本。

同様な主張の本は巷にあふれているが、どうもこの本が源流らしい。この本のオリジナルは2006年の発売である。時期的にも合うようだ。

手法としては商材(この本ではあなたのミューズと呼んでいる)をニッチなものに絞り、特徴を出して、量は追わずに自分が暮らしていくのに十分な稼ぎを得るとともに、ほとんどの仕事をアウトソーシングして、週に1回数時間、メールチェックや電話に使うだけだという。全てはネット上で済むので、その数時間だけネットに繋がる世界のどこかにいればいいというものだ。

起業を勧めているように見えるが、この本の言いたいことは週に4時間だけ働くということで、何も起業が絶対というわけではない。まあ、起業が望ましいということはもちろん言っているが、通常の会社員でも可能だと言っている。

具体的にはリモートワークである。今となっては当たり前になったリモートワークだが、当時ではアメリカでも受け入れるのが難しかったのだろう、どうやって上司を説得するかというプロセスが事細かに書かれてある。いったん完全なリモートワークの立場を手に入れてしまえば、いろいろ業務を合理化して、働く時間を減らすことができ、自由を手にれられるという。もちろんネットが繋がれば、外国に暮らしても問題ない。まあ、さすがに週4時間というのは無理だろうが。

そのほかいろいろ細かいテクニックや参考になるサイトの情報が載っているけれど、10年以上経っているので、使えないものが多いだろう。Skypeの利点を強調しているけど、もうそんな時代でもないし。でも、ここは考え方が掴めればそれでいい。

しかし読んでて思ったんだが、外国に暮らすとか、拘束時間を減らすというのは無理かもしれないが、日本でだって成果を挙げつつほとんど働かないことは可能だと思う。だって、わしは会社では、1日2時間ほどしか働かずぶらぶら暮らしていたんだから。そのことはここに書いた。(もっともいまはけっこう真面目に働いてるかな?(笑))

www.hetareyan.com

こうやってみると、起業するといろいろそれなりに気苦労もあるし、正社員でぶらぶらできるのならそれに越したことはないのかもしれない。そう考えると、わしの選択肢もよかったのかな。

というわけで、ちょっとだけそういう事ができるコツをここで述べよう。

新人の頃、わしは、世界で初めてということに興奮するタチで(笑)、これは誰もやったことがないに違いないという案件があると、ハイハイ、と積極的に手を上げていた。当然、それは世界最先端ということになる。そうすると、すぐにそれはわしにしか分からない案件になる。そして、その案件について誰も判断できなくなる。たとえ上司さえも。

でも、それはわしがエンジニアだったからだろうか。そうでなくてもいいはずだ。

世の中にはいろいろ新しいことが起きるものである。例えばいまならSDGsとかあるじゃない? こういう新しいことが出てくると会社はそれに関する担当者を置かなくちゃいけなかったりする。ほとんどの人は、ただでさえ忙しいのに、新しいことをするのは嫌なので、自分から手を上げる人は少ないだろう。だから手を上げたらすぐに担当者になれる。そうしたらあなたはその専門家になれる。少なくとも会社の中では第一人者だ。こうなると上司もそのことには詳しくないのだから、もう誰もあなたのことを判断できない。

というわけで、絶対必要ないろんなマイナーな分野で第一人者になっておけば、たぶん、ぶらぶら暮らすことができる。ただしやりすぎるとブルシットジョブ化して、何らやりがいも得られないかもしれないから注意。そんなときにはまた新しい分野に、ハイハイ、と手を上げて、第一人者というスキル資産を増やそう。

★★★★☆

 

ステータス・ゲームの心理学 なぜ他人よりも優位に立ちたいのか

ウィル・ストー 訳・風見さとみ 原書房 2022.7.28
読書日:2022.12.17

ヒトはある社会グループの一員になることを望み、一員になると今度はそのグループの中でより良いステータス(地位)を得るように努力するステータス・ゲームをするように進化した種族だとして、これまで文化人類学社会学で分かったことをもとに、ステータス・ゲームという観点から日常の生活から歴史上の転換、さらには仮想空間の問題や現在起きている社会の分断まで含めて語り直した本。

人間と社会をステータスという観点から語り直すというのは、ちょっとしたアイディアの勝利と言える。なにしろ周りの人が自分のことをどう思っているかということを気にしない人はいないし、歴史的な大きな社会運動も、ステータス・ゲームのルールが変わったからだといえば簡単に説明できてしまう。プロテスタントの宗教革命も、産業革命も、国民国家も、共産主義も説明できてしまうのだ。

しかもヒトという種族がどのように思考して社会生活を営んでいるかということは、文化人類学などの成果としていろんなことがわかってきているのだから、このようなヒトの根本に関する新知識と絡めてしまえば、納得の行くようにいかようにも説明できてしまうのだ。

それはもちろん正しいし、そのような話はそれなりに面白い。しかし、ここが著者ストーの限界だ。

例えばせっかくいま民主主義社会で起きている新左派と新右派の分断について、それぞれ過去の得られていたステータスがルール変更で得られなくなったことが原因と説明してくれるのだが、ではどうすればいいのかという問題について、ストーは何も語ってくれないのである。

自分で自分のことを、広くて浅い知識しか持っていないと述べているくらいなので、未だ確立していない内容を積極的に展開、提言することは、彼にはできないのだろう。まあ、彼はジャーナリストであって学者ではないのだから仕方がない。(ただし、個人がどのように行動したほうがいいかについては示唆をくれる)。

というわけなのだが、非常にうまくステータス・ゲームというくくりでいろいろ説明してくれているので、有益な本と言える。その辺に関しては大変感心した。

****メモ****
(1)ステータス・ゲームとは
周りとうまくやりつつ人よりも評価を高め成功すること。そのゲームの源泉は人間の脳が操るシンボルの世界で、想像のシンボルのかけ引きをして、地位を向上させようとする。周りから評価を得られれば幸福で、評判を失うと自殺するくらい辛いゲームでもある。

(2)ステータス・ゲームのルール
小さな部族で移動生活をしていた頃のルールが未だに適用されていて、部族に貢献するような利他的な行動が名声を得てステータスを高める。支配的なプレーヤーはみんなの合意により排除される(処刑される)。

(3)文明化
集団が巨大化すると、ヒエラルキーというステータスを強制し(支配ゲーム)、宗教により美徳のルールを作り(美徳ゲーム)、社会を安定化させることに成功した。こうした世界は驚くほど安定だ。なぜなら、人間は自分の周りの少数の人との間とだけでステータス・ゲームを行い、ヒエラルキー自体をなくそうとはしないから。それどころか自分の下に蔑むための階級を作ろうとさえする。

(4)反逆者、革命
あるステータス・ゲームで勝利できなかった人は、社会に対する反逆者になり、独自のルールとステータスを作って対抗する。例えば犯罪組織、カルト集団など。

革命など社会がひっくり返されるとき、言われているように下層の服従させられている者たちの反乱ではなく、実際にはエリート同士の対決だ。排除されたエリートが新しいステータスのルールを作って現在のステータスに対抗する。そのさいに服従者を巻き込む。宗教革命も、王政廃止の革命も同じだった。

(5)産業革命
近代になると、知識を試し富を生むという新しいゲームで名声が得られるようになった(成功ゲーム)。

(6)共産主義
ステータスをなくすことで平等な世の中を目指したが、結局なくすことができず、新しいステータスがノーメンクラツーラ(特権階級)として復活した。

(7)新自由主義と社会の分断
1980年代これまでのルールが変わり、「強欲は善」となった。しかし今、高学歴のエリートに支配されているという考えている新右翼、白人の男性に支配されていると考える新左翼が登場し、新自由主義は終わりを迎えている可能性があるという。

(8)ステータス・ゲームの7つのルール
1.優しさ、誠実さ、能力を示す
2.ささやかなステータスの瞬間を作る(簡単に言うと他人を褒め、感謝すること)。
3.ゲームのヒエラルキーを作ってプレーする(多様なヒエラルキーのプレイを行って、ひとつの専制ヒエラルキーに取り込まれないように自分を防御すること)
4.自分の道徳領域を小さくする(他人を簡単に見下したり、卑下したりしないこと。特にSNSでは注意する)
5.トレードオフの精神を育む(どちらか一方ではなく、知恵を絞って折りあいをつけること。新右翼新左翼もそうあるべきと主張している)
6.人と違ったことをする(人と違ったことをすれば成功ゲームで名声を得られる可能性が高まる。しかし、基本的な行動基準には違反せず、違いは小さなものにする)
7.夢を見ているということを忘れない(勝手な物語を紡いで熱くならず、これはステータス・ゲームだと気づいて理性を回復すること。誰もこのゲーム勝利者にはなれないことを理解すること)

★★★★☆

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