ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる

ジム・コリンズ ビル・ラジアー 訳・土方奈美 日経BP 2021.8.23
読書日:2022.8.23

偉大な企業を作ることにこだわるビジョナリーシリーズのジム・コリンズが、かつて自分が書いたスタートアップについての本をリニューアルしたもので、偉大な企業を作るには何よりもまず人であることを強調した本。

この本は珍しい作りになっていて、リニューアル前のオリジナルのところと新しく加えたところが明確に分かるようになっている。そしてリニューアルで追加された部分は人に関するものが多いようだ。

それは企業が大きくなってから行う社員教育の話ではない。そもそも起業した時点が大切だというのだ。どういうことかというと、どんなビジネスをするか考えてから人を集めるというのではなく、逆にまず適切な人を集めて、それから何をするかを考えるべきだという。

というのは、どうせスタートアップというのは、最初に考えていた事業とは異なる方向に進むことが普通だからだ。何をやるかという視点で人を集めると、方向転換した時点でその人は不要ということになりかねない。そうではなく、何が起ころうとも対応できるような人を選ぶんだそうだ。

これは相当ハードルが高いね。そんな人が簡単に見つかるわけはないし、それに自分自身もスタートから相当高い水準に達していないと、人材の見極めすら難しい気がするなあ。まあ、わしなら一緒にいてストレスを感じない人というくらいの緩い基準で選ぶだろうなあ。

スタート時点でこれだから、偉大な企業が少ないのは当然だよね。無事にスタートしても、その先、さらに企業の憲法のようなビジョンも作成したり、いろんなハードルを超えないと偉大な企業になれない。

そもそもほとんどの企業は偉大な企業になろうなんて思っていないと思う。安定して食べていければそれでいいぐらいの意識しかないところばかりでしょう。(それを言っちゃおしまいかもしれませんが)。スタート時点から偉大な企業を目指そうと思う人はどのくらいいるんでしょうか。でも、偉大になった起業というのは、スタート時点からそうしているみたいなのだ。ふーん。

そうなるためには、当然ながら、人生のすべてをこれにかけるくらいの意気込みじゃないと実行不可能ですね。個人的にはこんな面倒くさいこと、全然やりたくないなあ。まあ、運悪くどこかの2代目ぐらいに生まれて、家業を継ぐ羽目になったら真剣に考えるかもしれませんが。

ジム・コリンズの本は実例とメタファーがてんこ盛りで、読んでいると面白いし、気分が高揚していいんですけど、どう考えてもこれはとても少数のリーダーに向けた本ですねえ。たぶん、本人もそのつもりでしょうけれど。

もちろん、投資先の企業を見つめるという意味では、きっと役に立つことでしょう。ジム・コリンズのいう偉大というのは必ずしも成長性だけを意味しないんですが、ほとんどの偉大な企業はきっと成長してくれるでしょうからね。

でもなかなか難しいんだよね。わしもこの創業者ならともって投資したら、全然宣言したとおりに実行してくれなくて、どうでもいいようなことばかりにお金を使うようながっかりする創業者もたくさんいましたからね。なにかいい見分け方はないんですかね。

エル・キャピタンを攻略した友達のトミー・コールドウェルのことを取り上げてくれているのは、嬉しい限り。

www.hetareyan.com

★★★★☆

 

世界最高の雑談力

岡本純子 東洋経済新報社 2022.7.7
読書日:2022.8.20

雑談力とは聞く力と質問力であり、自分のことを話すことではないと主張する本。

著者によれば人は自分のことを話したがるものだという。というわけで、雑談をするということは、相手の言うことを聞き、話が繋がり深まるように適切に質問を繰り返し、時々自分のことを(相手の興味の範囲だけ)少しだけ混ぜるようにすれば無限に会話を続けることができるのだという。話し上手は聞き上手というが、この本はそれを実践せよと言っているわけだ。

わしは自分のことを話すのが面倒くさいので、なにか雑談をしなくてはいけないということになると、たいていそういう会話をすることになる。

社会人になりたての新人のころ、展示会に来てくれた人にアポをとって、その人や所属している会社や団体のことを聞いてまわるという研修をさせられたが、ほとんどの人は自分のことを喜んでいろいろ話してくれた。そうすることで、実際に大きな仕事につながったこともあるし、面白い経験もいろいろした(例えば、ここの後半部分)。というわけで、いかに人が自分のことを話したがるかというのはそれなりに承知している。

でも、まあ、普段の生活でやっぱり雑談はあまりしたくないな。たまにここに書いたような自分にとって珍しい人に出会うと、喜んで話を聞いてしまうんだが(笑)。

そういうわけで著者の話は理解できるんだが、わしは特に交友関係を広げたいとか、もっと仕事のチャンスを増やしたいとか、ほとんどそういう欲望もないので、この本に書かれてある技術もほとんど使わないかな。

雑談が苦手なシャイな人は自分がどう見えるかという事ばかり考えるナルシスト、というのもとても納得。たいていの人は歳とともに自分の見えかたなんかどうでも良くなって、適当にゆるくなってうまくいくんじゃないかって思うけどね。

わしは自分の興味を人に話すことは諦めている。だってこのブログに書いているようなことはほとんどの人には興味はないことだし、とくに投資について普通の人に話すことは(少なくとも日本では)厳禁だ。投資の話をしていままでいい経験をしたことは、わしには一度もないからね。投資については他の投資家とだけ話しましょう。いや、投資家の友達もいないんですけどね(笑)。

★★★☆☆

 

デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える

堤未果 NHK出版新書 2021.8.30
読書日:2022.8.19

日本の大切なデジタル情報資産が外国に無償で提供され、このままいけば国家主権さえも外国のものになってしまうと主張する本。

わしはテクノロジーOKの人間であるから、GAFAMが邪悪だという議論にはあまり興味はないが、しかし少なくとも日本人のデータは日本のサーバーに保存すべきだと思うし、日本人のデータを使って得た利益は日本に納税すべきだと思う。最低これさえしてくれれば、あまりうるさいことは言わなくてもいいのではないかと思っている。

しかしこの本によれば、米国企業は日本にサーバーを置かなくてもいいことになっているんだそうだ。2020年に発効した「日米デジタル貿易協定」でそう決まったのだという。なんということでしょう。

それだけでなく、中国も日本にサーバーを置かなくてもいいそうだ。それはRCEP協定で、サーバーを自国に置くという規制に中国が強硬に反対して、他国もその要求を飲んだからだそうだ。これでサーバーはどの国に置いてもいいことになった。これまたなんということでしょうか。

というわけで米国も中国も日本人のデータを解析し放題なんだそうだ。あまりの政府のバカさ加減に呆れてしまうが、次の協定改定の機会(あるのか?)にぜひ変えていただきたい。GAFAMに日本の設備を使うように強制できれば、日本の利益も大きいだろう。ヨーロッパでこの問題が盛んに論じられているから、その議論が進めば、日本も慌ててその内容を導入しようとするんじゃないかな。他の国に遅れていると言われると急に対応するのが我が日本国ですからのう。

そして納税の方も、GAFAMが日本人のデータをつかって稼いだお金を日本にきちんと納税するようにしてほしい。わしの理解では、納税が不十分のように思える。(というかそもそも日本での事業の内容の開示が少なすぎる)。これもきっとヨーロッパの例が役に立つだろう。

ところで、この本では後半になるほど煽情的な書き方が多くなっている。例えば教育でデジタル教科書が普及すると、教師は生徒に教えることがなくなり、生徒の理解の進捗をチェックするだけの存在になるから問題だと糾弾している。

だが、わしにはこれがどうしていけないのか理解できなかった。先に進める生徒はどんどん進んで、できない生徒の面倒を個別に教師が見るということでいいではないか。

なにしろ、わしはテクノロジーOKの人間ですからのう。

★★★★☆

 

成しとげる力

永守重信 サンマーク出版 2021.11.25
読書日:2022.8.17

日本電産創業者の永守重信が自身の経営に対する信念を述べた本。

永守重信の本は何年かごと、最近では毎年のように出版されていて、これまで何冊か読んだことがあるが、ほぼどれも同じである(笑)。

曰く、子供の頃は貧乏、創業して3人の従業員しかいなかったころから1兆円企業になると公言、もっとも良い採用方法は早食いであり学歴は関係ない、一番以外は全部ビリ、買収した企業の首切りはしない、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」を徹底、などである。これに最近の話題を適宜組み合わせると新刊の完成である。最近の話題は大学の運営とか、EVの話だろうか。

でも、わしは物覚えが悪いから、同じ話でもへーと思えることろがあるし、読んでいて面白いし、元気がもらえるのが何よりだ。

この本を読んで、へーと思ったところを書こう。

永守さんは貧乏だったので高校時代からいろいろなバイトをしたのだが、高校になってから自宅で塾を開いたのだそうだ。最初は8人だったが評判になり、最終的には80人になった。そこでお金を儲けて始めたのが、株式投資だったんだそうだ。上の学校に進んでからも、就職してからも株式投資は続けていて、その資産総額は億の桁に達していたんだそうだ。

なんと永守さんは、元祖億り人だったのだ。しかも1960年代の億だから、いまの価値だと10億円くらいだったかもしれない。

就職してから誰にもまったく忖度なしに仕事をして好きなことをしてきたのは、このような財産があったからだという。

うーん、そりゃそうだね。わしもあまり忖度しないほうだけど、若いときにこれだけ資産があれば、まったく忖度なんて必要ない。

FIRE(経済的に自立して早く仕事を辞める)というのは、前半の経済的に自立するという所に意味があるのであって、仕事を辞めるとか辞めないとかはどうでもいいことである。経済的に自立したときの自由を味わうことが重要なのだ。

というわけで、辞めるにしても、辞めたあとに何をするのかを考えることを忘れずに。

★★★★☆

 

日本の労働生産性向上率はG7で最高? グレート・ナラティブに書いてあった興味深いこと

グレート・ナラティブのなかに興味深いことが書いてあった。

人口減少と成長率0の絶望的なケースのはずの日本で、生産性が伸びているというのだ(p43)。それによると、2007年以降のG7の中で、生産人口一人あたりのGDPはどの国よりも伸び率が大きいという。

この話を読んでびっくりした。なにしろ日本は生産性が低いことで有名で、経済学者の野口悠紀雄なんかは、日銀の金融政策は間違いで生産性を上げることが大切、と口を酸っぱくして言っている。絶望的だと思ってたのに、実際には生産性は激しく上昇しているというのだ。あれま。

実際のところどうなんだろうか。

総務省の統計資料によれば、労働生産性の絶対値は低いものの、就業者1人あたりの2012ー2019年の時間あたりの生産性の伸びは年率1%で、G7の中ではフランスと並んでトップである。

www.soumu.go.jp

これってどういうことなんだろうか。

じつはこの伸び率は、就業時間の短縮の効果が大きい。日本は年率0.8%ずつ労働時間が短縮している。

つまりこういうことである。

企業は労働者に残業をしないように指示していて、それで労働者は残業を減らしている。しかし仕事の量は変わらないので、時間内に終わらせるように頑張っているということだ。

これは企業にとって素晴らしく良いことだ。なぜなら、残業代を払わなくていいのに、売上は同じなのだ。このぶん、企業の利益は嵩上げされているはずだ。

一方、労働者の方は給料は増えていない、というか逆に残業代が稼げないから所得は減ってるかもしれない。喜んでいるのは企業だけだ。

こんな状態が正しいはずがない。効率アップで儲かった分は、すぐに労働者にも分け与えるべきだ。そうすれば、GDPだってもっと成長するだろう。

ともかく、日本の労働者はがんばっているという印象だ。労働者への分配を増やせば、日本の未来は明るいだろう。きっとそうだ。(また楽観論か、と言わないで(笑))

(追記 2022.9.11)

などと書いたあとで、橘玲の「不条理な会社人生から自由になる方法」を読んでいたら、日本人の労働時間が減ったのは短時間の不正規労働者が増えたからで、その陰で正社員たちは残業しており、日本の就業者の20.8%が週49時間以上働いており、その割合は他国に比べて際立って高い、という記述があった。

あれま。国際経済フォーラムが、希望があると言っていた日本の生産性の改善も、橘玲の見方ではぜんぜんよろしくないわけで、なかなか難しいね。

どちらにせよ、効率があがって改善した分は労働者に返していただきたいという、わしの気持ちは変わりません。

 

グレート・ナラティブ 「グレート・リセット」後の物語

クラウス・シュワブ ティエリ・マルレ 訳・北川蒼 日経ナショナルジオグラフィック 2022.7.4
読書日:2022.8.13

ダボス会議で有名な世界経済フォーラムの創設者のクラウス・シュワブが、アフターコロナ後の世界で世界を動かすであろうナラティブを語った本。

クラウス・シュワブによれば、コロナのパンデミックで世界は後戻りできないリセット状態になったという。(この前の本で語られているらしいけど読んでいません)。アフターコロナの世界はどのようになるのか。それを導くのは、専門家の小難しい理論ではなく、物語(ナラティブ)が重要なのだという。人は物語に従って価値観を決めていくからだ。したがって、シュワブとマルレの狙いは、人々に訴える物語を提案することである。

シュワブは、会社は利害関係者ステークホルダー全員の利益を考えて行動しなければいけないと主張している経済学者なので、その方向で議論は進んでいて、サスティナビリティとか環境とか、そういう傾向が強い内容になっている。

50人以上の世界のオピニオンリーダーの意見を聞いて、それをナラティブにまとめたということであるが、この50人もシュワブが恣意的に選んでいるので、事実上シュワブの意見が述べられており、単にシュワブの考えを補強する部分だけ引用されているようだ。

しかし、50人のインタビューをなんとかつなぎ合わせているせいだろう、いまいち統一感がない内容だ。はたして一般人がこれを読んで未来に対するインスピレーションを得ることができるのか、はなはだ疑問。思惑と違って、ナラティブを作ることに成功しているようにはまったく見えない。

そもそもこの本は一般人を相手にしていないのかもしれない。世界各国のエリート向けの本なのかもしれない。それぐらい読んでいてもちっとも面白くない。まるで、できの悪い官僚の報告書を読んでいるかのようだ。

ダボス会議自体もこんな感じなんだったら、ダボス会議ってなにか世界の役に立ってるのかしらね。

しかしまあ、想像力に期待して未来に楽観的な部分はいいとは思うけどね。

 

*****メモ*****
本の構成としては、前半で課題をあげて、後半で解決策を提示している。(解決策になっているのかどうか疑問だが)。

課題:5つの課題があげられている。
(1)経済 成長と公的債務の激増
(2)環境 気候変動が明らかなのに対策が進まないこと
(3)地政学 覇権国がなくなること、米中の対立
(4)社会 不平等の拡大
(5)テクノロジー 進歩が早すぎ、大きなリスク。とくにサイバーリスク、AIと戦争、合成生物に課題。

解決策:(そりゃそうだけど、という内容の列挙(笑))
(1)協調と協力 世界を公共財として扱うために、皆が協調し協力する。そのためには共感力を高める教育が必要。またローカルから出発するコミュニティが重要。
(2)イマジネーションとイノベーション 想像力の欠如が思考停止を生む。想像力を働かせて今までの枠を取り払えば、新しい解決策はかならずある(と信じる)。
(3)道徳と価値観 市場が失敗しているので経済に道徳を入れなければならない。
(4)公共政策 持続可能な環境、社会をつくる政策。
(5)レジリエンス(回復力) 硬い樫の木ではなく柔らかな草を志向する。例えば現在問題なっているサプライチェーンの崩壊では、今後は適正在庫を持つようにするなど。
(6)企業の役割 株主価値だけではなくすべてのステークホルダーの利益を考える行動をする。
(7)テクノロジーの飛躍的な進歩 テクノロジーの進歩が解決に役立つ、明るい未来を思い描くこと。

★★☆☆☆

いずれすべては海に中に

サラ・ピンスカー 訳・市田泉 竹書房文庫 2022.6.7
読書日:2022.8.12

音楽と不思議な言葉の結びつきから生まれる詩情あふれるフィリップ・K・ディック賞受賞のSF短編集。

サラ・ピンスカーはシンガー・ソングライターでもあり、いままで4枚のCDをリリースしているんだそうだ。そういうわけで、音楽家を主人公にした物語が2つ入っているが、これらはどちらも気持ちが入った中編作品になっている。

しかしながら、ソングライターとしてのピンスカーは、どうやら詩人としての才能も発揮しているらしく、わしにとってはこっちのほうが面白かった。なにしろわしは音楽家ではまったくないからね。

詩人というのは、言葉について普通の人と違った結びつきを思いつく人のことではないか、とわしは思っている。ピンスカーのほとんどの短編はこうした不思議な言葉の結びつきの結果生まれたもののように思えた。

例えば、表題作の「いずれすべては海に中に」では、こんな書き出しから始まる。

 ーーロックスターは満潮のときに浜に打ち上げられた。

いやー、どうです、この書き出し。この先いろいろ物語は展開するんだけど、わしは物語の前にこの書き出しが思い浮かんだんじゃないかと思うね。最初にへんてこな言葉の結びつきがあって、そこからつじつまが合うように物語を構成していったんじゃないかしら。

「イッカク」の書き出しはこう。

 ーー今までに<雑用求人>で見つけた中で最高のはずの仕事に雇われて一週間後、リネットの家の玄関前にクジラがやってきた。

これも最初にこのシーンが思いついたんじゃないかしら。物語は付け足しのようにすら思える。

そういうわけで、ちょっと意外な結びつきの物語、まあ普通は奇想と言われる類の物語が展開されるんだけど、でもこういう作風って長編ではどうなるのかしら。

どうやら長編「新しい時代への歌」も日本語訳が出ているようだけど、こっちはきっと音楽家のピンスカーだろうから、奇想のピンスカーは短編だけかしらね。でも、けっこう面白かったから長編も読んでみようかしら。

明らかに彼女はレズビアンだけど、そのへんはぜんぜん重要ではなく、なんかとても自然です。

この短編集は一気に読まず、1日に1話ずつゆっくりと読んでいきました。

★★★☆☆

 

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