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ランド 世界を支配した研究所

アレックス・アベラ 訳・牧野洋 文藝春秋 2008年10月29日
読書日:2009年04月19日

出てくる人物や書かれているそれぞれのアイテムにそれほどの驚きはない。それはすでによく知られていることだから。しかし、このよく知られているこれらのことが全てあるひとつのシンクタンクと結びついているということを教えられ、そうだったのか、とひどく驚き、それらのつながりの全体像が目に入ってくる。それがこの本の最大の特徴だ。

ランド研究所のことをまとめて紹介した本はどうもこれが初めてのようだ。ランド自身があまり自己宣伝には熱心でないらしい。この本の中にはメディアの中で自分たちが<目立たないようにするために>、PR会社を作ったということが書かれてある。

わしにも経験がある。日経ビジネスにランド出身でペンタゴンにいる老戦略家の記事が載ったことがある。(2001年8月20日号の特集、米中新冷戦-ペンタゴン奥の院で進む対中シフト)。そのなかでこの老戦略家の名前は明かされない。本人がオフレコを希望にしていたからだ。記者がいくら名前を明かすことをお願いしても、答えはノー。

今回この本を読んで、ようやく彼の名前が分かった。アンドリュー・マーシャル Andrew Marshall。なんと1921年生まれ。ランドで20年間働いた後、ペンタゴンへ。相対評価室(ONA)の初代局長であり、いまだ現役局長。20~30年後の戦略を担当する部署で、軍事革命理論(RMA)の権威。彼は水爆配備後の戦略の変化を見抜き、いまのアメリカのハイテク化を推し進めてきたという人物だ。90年代前半から中国との戦争を勝つための戦略を指導してきたらしい。

と、まあ、このくらいランドとその関係者は表に出るのに慎重なのだ。

そもそもこのような研究所がなぜ日本で生まれないのか、という疑問も感じるが、しかし、ランドのようなシンクタンクはヨーロッパにもないのだ。だから質問が間違っていて、なぜアメリカだけがこのような研究所を生み出しえたのか、という質問をすべきなのだ。

本の中でも述べられているが、その答えは原爆の開発に成功したマンハッタン計画だ。ここで初めて、最優秀な人物を一箇所に集めることでなにかとてつもない化学反応がおき、新しいものが生み出されるという経験を得た。マンハッタン計画は終了したが、その再現を目指したのがランドなのだ。そのせいなのか、ランドは軍戦略、経済政策で政治に大きな影響を振るっていて目立つが、テクノロジー系の活躍も目を見張るものがある。そして徹底した数値化主義。合理性のみが大切という信念。逆に、他国の社会制度や文化の違いを過小評価する(というかまったく興味ないようだ)という弱点も持っている。

果たして、日本でも、いやどこでも最優秀な人物を集めたら、何かが起きるだろうか? なんとか算段して、そういう人物を集められたらなあ、と思う。それにしてもシンクタンクはある意味本当に安上がりでもある。アメリカの防衛予算から見ればランドの運営費はほとんど誤差のようなものだろう。それでもこれだけの成果を生んでいる。最優秀な人物は恐ろしく生産性が高いのだ。

(追記) アンドリュー・マーシャルは2015年に辞職、2019年に97歳で死去しています。亡くなったときに新聞記事になりましたが、90歳を越えても現役だったことにわしは衝撃を受けました。

★★★★★

 


ランド 世界を支配した研究所

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