カール・R・ポパー 訳・森 博 岩波書店 2004
読書日:2010.09.02
ウィーン出身で科学に関する哲学を多く行ったポパーの自伝。
ポパーに興味があったので、読んでみた。知的自伝と書いてあるとおり、普通の自伝と異なって自分の哲学がどんなふうに発展してきたかという自伝で、個人的な情報は大まかにしか分かりません。
で、これを読んでも、ポパーがどんな風に偉大なのかよく分からない。なんか普通という感じ。ということは、もしかしたらポパーの考え方が今の標準になってしまったってことなのかもしれない。なので、いまでは普通すぎて、どの辺がポパーが新しかったのかを知るのは少々困難である。たぶんこういうことなんじゃないかと思うが、間違っているかもしれない。
かつて、なにか新しい知識を得るには、演繹法か帰納法かの2つの考え方しかなかった。演繹的に新しい知識を得るには、世の中複雑すぎて全てを説明するのは無理だし、経験から得た知識から理論化するのが普通に見えたので、科学は帰納的に構築されたものだと見られていた。しかし帰納的というのは、単にああしたらこうなった、こうしたらこうなったという経験の羅列だから、そういった経験からなにかの理論が生まれるということが説明できなかった。ましてやそこからさらに新しい知識がどんなふうに得られるのかはわからなかった。
そこでポパーが登場し、演繹法でも帰納法でもない知識獲得のパターンを説明した。まず経験(まあ、科学的には実験や観測のこと)から、それを説明するなにかの理論を考え出す。これを仮説という。仮説から導き出されるなにか新しい現象(予測)を演繹的に考え出す。導き出されるその現象が本当に起こるのかテストする。テストに合格するほどその理論は普遍的である。しかしもしテストに合格しなければ、その仮説は未完成なので、また全てを説明する仮説を考え出し、同じことを繰り返す。こうして新しい知識が得られる。これは演繹的でも帰納的でもない知識の獲得方法になっている。
ああ、あまりに当たり前すぎてばかばかしいけど、それを初めて考えた人がいたわけですね。それもつい20世紀になるまでこんな考え方がされていなかったとは、そっちの方が驚きです。
★★★★★