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ポストキャピタリズム 資本主義以後の世界

ポール・メイソン 訳・佐々とも 東洋経済新報社 2017.10.5
読書日:2020.11.15

イギリスの左派ジャーナリストが、資本主義はもうすぐ終わると主張する本。

ポール・メイソンのことは、「資本主義の終わりか、人類の終焉か? 未来への大分岐」で知って、その発言が面白かったので、彼自身の著作も手にとってみた次第。

資本主義が終わるという話は、キリストが再臨するという話と同じくらいに繰り返されるテーマで、一向に実現しない点でも一致する。

ポール・メイソンが資本主義が終わるというのは、リフキンの「限界費用ゼロ社会」と同じで、情報社会の進展で製造コストがどんどん安くなり利益が取れなくなり、さらにネットワークの進展で今までの資本主義でない新しいネットワーク経済が生まれるから、ということである。

しかしながら、左派のジャーナリストであるメイソンは、プロレタリアートの立場からそれを説明しており、そのへんがなかなか面白い。言うまでもなく、資本主義では資本家と労働者(プロレタリアート)が対になっており、プロレタリアートの立場からこの新しい経済の出現がどう見えるのか、ということを述べているのが、なかなかわしの目には新しかった。

具体的には、200年の資本主義の進展をプロレタリアートの側から語り直していて、さらにはマルクスの言葉がたびたび出てくるのだ。例えば、メイソンによれば、機械の自動化が進むと社会がどうなるかについて、最初に論文にしたのはマルクスなんだそうだ。

1858年の「経済学批判要項」という本で、マルクスは機械の自動化が進むと人間は機械を監視するだけの存在になり、そうすると機械の中の知識が重要になり、知識が主導する社会になるという。知識が主導する社会では、労働者の知的能力を開発する必要がある。その学習のために労働時間を減らさざるを得なくなり、その結果労働者は仕事以外の科学や芸術の力も身につけ、これが資本主義の基盤を吹き飛ばす物質的条件を形作る、というのだ。

いやはや、19世紀の中頃に知識社会の到来を見通すこんな論文を書くマルクスにはびっくりだ。この他、ヒルファーディングやルクセンブルグブハーリンといった、新自由主義の時代に育ったわしにはよく知らない経済学者の名前が次々に出てくる。

そして、マルクスの労働価値説も復活する。労働価値説というのは、人間が費やした労働が製品の価値になっているという説で、アダム・スミスの時代から存在する。(現在は価格は需要と供給で決まるとするのが一般的)。

だが、労働価値説でも、結論は同じだ。つまり機械の自動化により、製品の製造に費やされる労働はどんどん減っていくから、製品の価値も減り、値段はどんどん安くなる。利益がなくなるのだから資本主義は滅亡する、という結論だ。

こういう議論は面白い部分もあるが、あまりにもプロレタリアートの歴史、哲学、マルクス経済学がしつこすぎて、少々うんざりする。でも彼には必要なことなのだろう。

結局、ポストキャピタリズムの世界はどうなるとメイソンは言っているのだろうか。いろいろ語っているのだが、どうもはっきりしない。まとめると、こんなところだろうか。

1.限界費用ゼロの世界で資本主義は終わる。
2.ネットワーク経済の発展で、貨幣を使わずに、価値を直接お互いにやり取りする。(したがってマネーはなくなる)。
3.新しいものを作る起業家や技術者が能力を発揮する場は確保される。(どうやって?)

それを実現するための移行期間の対策として、以下を実行する。

4.気候変動を抑えるために強力な対策を取る。(社会を持続可能にするため)。
5.国家債務を解決するために金融システムを国有化する。
6.貨幣がなくなるまでの暫定期間には国民に一時的にベーシックインカムを支給する。

なんだかなあ、左派の発想というのは、わしには理解不可能かもしれん。とくに金融システムの国有化というのには呆れた。大変なことなのに、まるで当たり前のように口にして、説明がほとんどないんだから。

メイソンはすでに社会の動きは資本主義の対応力を越えていると言うけれど、わしは資本主義は対応して生き残ると思います。そして社会は、彼の言うネットワーク経済を含めたハイブリットの形になっていくでしょう。

資本主義は結局、差異をお金にする経済のことです。わしはどんなにテクノロジーが発展しても差異はなくならないと思います。差異がある限り、資本主義はなくならないでしょう。その差異は小さくなるかもしれませんが。

逆に資本主義がなくなるという人は、この差異が小さくなるので価値が生み出せずになくなるというのですが、もしかしたらものすごく小さいな差異がものすごく大きな価値を生み出す、そんな社会に逆説的になるんじゃないですかね。

★★★★☆(最後の方は呆れたが、面白いといえば面白かったので星は4つです)

 


ポストキャピタリズム―資本主義以後の世界

 

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