チャーリー・T・マンガー 編・ピーター・D・カウフマン 訳・貫井佳子 日本経済新聞 2025.9.30
読書日:2025.4.14
バークシャー・ハサウェイの副会長、ウォーレン・バフェットの右腕だったチャーリー・T・マンガーの言葉や講演内容を集めた本。
マンガーといえば、バフェットがベンジャミン・グレアムの投資方法(まだ価値があるのに市場から見捨てられている銘柄に投資する方法、しけもく投資法)から次のステージに移る手助けをした人物として有名だ。
その方法とは、価値ある少数の銘柄に投資しその成長をじっくりと待つ、というものである。これにより、バークシャー・ハサウェイは市場から捨てられている小さな会社ではなく、コカ・コーラなどの世界的な企業に投資するようになったという。
そんなマンガーは独自の投資哲学を築き上げたことでも有名だ。マンガーはそのような哲学を独学の読書により身につけた。彼は何度も、自分は大学で経済も心理学も学んだことはないと断っている。なので、マンガー自身はその知恵を「処世知」と呼んでいる。
マンガーの処世知とはいったいどんなものなのか。
それは人々を動かすメンタルモデルであり、その内容はこの本の講演11「誤判断の心理学」に詳しく書いてある。この25項目にわたるメンタルモデルを読むと、1980年代以降の行動心理学や進化心理学の内容が多く盛り込まれているのがわかる。ということは、マンガーがそれを学んだのは60から70代のころだということになる。この年齢で新しい心理学を熱心に学んでいたのだ。
このメンタルモデルが幾重にも重なると、「ロラパルーザ級」の効果を発揮するという。これはいくつかの心理的傾向が合わさって、極端な結果を生み出すことで、良い意味にも悪い意味にも使える。ロラパルーザ級の現象について、学術的によく研究されていないことをマンガーは非常に不満に思っている。
ロラパルーザ級の例として挙げているのが「公開オークション」だ。
人が高い価格をつけているのを見てこれは価値が高いものに違いないと思い込み(社会的証明 )、一度始めると後に引けなくなり(一貫性の欠如を敬遠 )、相手に奪われたくないという対抗心が燃え上がり(羨望・嫉妬 )、自分ならこれだけ払っても大丈夫と思い込み(過大な自己評価)、結局ばかばかしい高値が支払われることになる。もちろん、これは悪い例で、公開オークションには絶対に参加してはいけないそうだ。
このように人間の心理を研究しているマンガーは、現在の経済学には全く不満だ。特に、完全に合理的な個人とか、効率的な市場とか、ありえない仮定の下に組み立てられていて、まったく役に立たないという。
こういう処世知を駆使して投資をしてきたマンガーの尊敬する人物というのは、やはり独学でいろいろな業績をあげたベンジャミン・フランクリンだ。これはまったく理解できる。二人はよく似ているからだ。ちなみに、マンガーは伝記の愛好家なんだそうで、気になる人の伝記はよく読んでいたのだという。
わしが、この本に述べられている個人的に感銘を受けたエピソードは、マンガーがハリスの「子育ての大誤解(1998年)」に大感激して、ハーバード大学に、今からでも博士号をハリスに送るべきだという手紙を送ったことがある、というものかな。1998年というと、マンガー74歳だ。わしもハリスの本には感銘を受けたので、これは素晴らしいことだなあと思った。
***メモ***
マンガーの25のメンタルモデル。
1 報酬や罰に強く反応する傾向
2 好意/愛情の傾向
3 嫌悪/憎悪の傾向
4 疑念を回避する傾向
5 一貫性の欠如を回避する傾向
6 好奇心の傾向
7 カント式の公正さを求める傾向
8 羨望/嫉妬の傾向
9 返報性の傾向
10 仔細な関連性に影響される傾向
11 純粋に苦痛を避けるための心理的否認
12 課題に自己評価する傾向
13 過度に楽観視する傾向
14 剥奪されたことに過剰反応する傾向
15 社会的証明の傾向
16 コントラストに誤反応する傾向
17 ストレスに影響される傾向
18 利用しやすいものを誤って重視する傾向
19 使わないとダメになる傾向
20 薬物の悪影響を受ける傾向
21 老化の悪影響を受ける傾向
22 権威者から不適切な影響を受ける傾向
23 たわごとを言う傾向
24 理由を尊重する傾向
25 ロラパルーザ傾向:ある特定の状況をもたらしやすくする複数の心理的効果が合わさって極端な結果を引き起こす傾向
★★★★☆

