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個人投資家目線の読書録

人新世の「資本論」

斎藤幸平 集英社新書 2020.9.22
読書日:2021.12.02

地球規模の環境破壊、温暖化は資本主義の失敗であり、これを解決するにはコモンズの考えに根ざした新しいコミュニズムが必要と主張する本。

マルクス資本論は第1巻が発刊されたあと、続巻がなかなか発刊されず、マルクスの死後、エンゲルスによりまとめられたものが世に出たのだという。なぜ続巻が遅れたのか。マルクスは環境、持続性を考慮した新しいコミュニズムを構想し始めて、それを盛り込もうとしていたが、間に合わなかったのだという。その未発表だった晩年の思想こそは現代に必要だと著者は主張する。

ではマルクスのエコ・コミュニズムに接した著者の考える新しいコミュニズムとはどんなものなのだろうか。

そのキーワードが「脱成長」である。もう成長をエンジンにした資本主義では地球は持たない。地球全体をコモンズ(共有地)として管理して、本当に豊かな世界を目指す。これが著者の言う、資本主義の次に来る世界である。

この脱資本主義の時代に向かうための処方箋が次の5つである。

1.「使用価値」経済への転換
「価値(価格)」に基礎をおいた経済ではなく「使用価値(有用性)」に重きを置いた経済に転換し、大量生産・大量消費から脱却する。

2.労働時間の短縮
労働時間を削減して、生活の質を向上させる。

3.画一的な分業の廃止
創造性の回復。

4.生産過程の民主化
生産プロセスの民主化を進めて経済を減速させる。

5.エッセンシャル・ワークの重視
使用価値経済に転換して、労働集約型のエッセンシャル・ワークの重視を。

どうだろうか? わしは今後コモンズは増えると思うし、著者の考え方にも敬意を払うが、これはうまくいかないだろうな、と思う。2、3、5はなんとかなるかもしれない。だが、問題はやはり1だ。

資本主義における価値というのは端的に価格のことである。確かに価格は使用価値とは無関係である。空気は人間にとってとても重要なものだが、ほぼ無料で供給されている。(清浄化されたり、冷房化されたりしてコストがかかることはあるにはあるが)。逆に、使用価値に関係なく、希少性があると価格が高くなるのもそのとおりである。

では、使用価値の経済を作ったとして、その使用価値はどのような単位で測定するのだろうか。もしくは、だれがどんなふうに決定するのだろうか。そしてそれをなにかに交換するときにはどういうふうに行えばいいのだろうか。

価格は確かにその本質的な使用価値とは関係かもしれないが、通貨という共通の単位を使うことでともかく交換が成立する。しかもお互いの合意で決まるから、誰かに決めてもらう必要もない。

もしも使用価値を決めなければならないとすると、大変なことだ。ひとがそれを決めるのは無理というものである。その価値は人によっても異なるし、そのときによっても変わるだろう。かといって、自動的に決まる仕組みも思いつかない。

……通貨を使わざるを得ないんじゃないですかね?

通貨を使うということは、価格=価値、で経済を動かすということですから、その時点で使用価値の経済ではないですよね。

使用価値の経済がどんなふうになるのか、まったく記載がないのでわかりませんが、マルクスは通貨がなくてもいいと言ってるんですかね。まあ、言ってる気もしますが(なにしろ共産主義ですし)、でもねえ、通貨は人類が交易をするときに自動的に誕生していますから、人類にとってほぼ必須なんじゃないですかね。

もしかしたらこのへんで労働価値説が出てくるのかもしれませんが、労働価値説で適切な交換の条件が設定できますかね。ぜんぜんイメージできません。

今の資本主義では地球環境的にうまくいってないことは認めますが、わしは今の資本主義の次は別の資本主義だと思っています。人類が滅ぶ瀬戸際までいかないと、資本主義はなくならないんじゃないですかね。

4の民主化もうまくいかないとは思いますが、まあ目的が経済の減速にあるのなら、確かに減速するでしょうね。きっとどうでもいいことを決めるのにもむちゃくちゃ時間がかかるでしょうからね。

★★★★☆

 

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