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ステータス・ゲームの心理学 なぜ他人よりも優位に立ちたいのか

ウィル・ストー 訳・風見さとみ 原書房 2022.7.28
読書日:2022.12.17

ヒトはある社会グループの一員になることを望み、一員になると今度はそのグループの中でより良いステータス(地位)を得るように努力するステータス・ゲームをするように進化した種族だとして、これまで文化人類学社会学で分かったことをもとに、ステータス・ゲームという観点から日常の生活から歴史上の転換、さらには仮想空間の問題や現在起きている社会の分断まで含めて語り直した本。

人間と社会をステータスという観点から語り直すというのは、ちょっとしたアイディアの勝利と言える。なにしろ周りの人が自分のことをどう思っているかということを気にしない人はいないし、歴史的な大きな社会運動も、ステータス・ゲームのルールが変わったからだといえば簡単に説明できてしまう。プロテスタントの宗教革命も、産業革命も、国民国家も、共産主義も説明できてしまうのだ。

しかもヒトという種族がどのように思考して社会生活を営んでいるかということは、文化人類学などの成果としていろんなことがわかってきているのだから、このようなヒトの根本に関する新知識と絡めてしまえば、納得の行くようにいかようにも説明できてしまうのだ。

それはもちろん正しいし、そのような話はそれなりに面白い。しかし、ここが著者ストーの限界だ。

例えばせっかくいま民主主義社会で起きている新左派と新右派の分断について、それぞれ過去の得られていたステータスがルール変更で得られなくなったことが原因と説明してくれるのだが、ではどうすればいいのかという問題について、ストーは何も語ってくれないのである。

自分で自分のことを、広くて浅い知識しか持っていないと述べているくらいなので、未だ確立していない内容を積極的に展開、提言することは、彼にはできないのだろう。まあ、彼はジャーナリストであって学者ではないのだから仕方がない。(ただし、個人がどのように行動したほうがいいかについては示唆をくれる)。

というわけなのだが、非常にうまくステータス・ゲームというくくりでいろいろ説明してくれているので、有益な本と言える。その辺に関しては大変感心した。

****メモ****
(1)ステータス・ゲームとは
周りとうまくやりつつ人よりも評価を高め成功すること。そのゲームの源泉は人間の脳が操るシンボルの世界で、想像のシンボルのかけ引きをして、地位を向上させようとする。周りから評価を得られれば幸福で、評判を失うと自殺するくらい辛いゲームでもある。

(2)ステータス・ゲームのルール
小さな部族で移動生活をしていた頃のルールが未だに適用されていて、部族に貢献するような利他的な行動が名声を得てステータスを高める。支配的なプレーヤーはみんなの合意により排除される(処刑される)。

(3)文明化
集団が巨大化すると、ヒエラルキーというステータスを強制し(支配ゲーム)、宗教により美徳のルールを作り(美徳ゲーム)、社会を安定化させることに成功した。こうした世界は驚くほど安定だ。なぜなら、人間は自分の周りの少数の人との間とだけでステータス・ゲームを行い、ヒエラルキー自体をなくそうとはしないから。それどころか自分の下に蔑むための階級を作ろうとさえする。

(4)反逆者、革命
あるステータス・ゲームで勝利できなかった人は、社会に対する反逆者になり、独自のルールとステータスを作って対抗する。例えば犯罪組織、カルト集団など。

革命など社会がひっくり返されるとき、言われているように下層の服従させられている者たちの反乱ではなく、実際にはエリート同士の対決だ。排除されたエリートが新しいステータスのルールを作って現在のステータスに対抗する。そのさいに服従者を巻き込む。宗教革命も、王政廃止の革命も同じだった。

(5)産業革命
近代になると、知識を試し富を生むという新しいゲームで名声が得られるようになった(成功ゲーム)。

(6)共産主義
ステータスをなくすことで平等な世の中を目指したが、結局なくすことができず、新しいステータスがノーメンクラツーラ(特権階級)として復活した。

(7)新自由主義と社会の分断
1980年代これまでのルールが変わり、「強欲は善」となった。しかし今、高学歴のエリートに支配されているという考えている新右翼、白人の男性に支配されていると考える新左翼が登場し、新自由主義は終わりを迎えている可能性があるという。

(8)ステータス・ゲームの7つのルール
1.優しさ、誠実さ、能力を示す
2.ささやかなステータスの瞬間を作る(簡単に言うと他人を褒め、感謝すること)。
3.ゲームのヒエラルキーを作ってプレーする(多様なヒエラルキーのプレイを行って、ひとつの専制ヒエラルキーに取り込まれないように自分を防御すること)
4.自分の道徳領域を小さくする(他人を簡単に見下したり、卑下したりしないこと。特にSNSでは注意する)
5.トレードオフの精神を育む(どちらか一方ではなく、知恵を絞って折りあいをつけること。新右翼新左翼もそうあるべきと主張している)
6.人と違ったことをする(人と違ったことをすれば成功ゲームで名声を得られる可能性が高まる。しかし、基本的な行動基準には違反せず、違いは小さなものにする)
7.夢を見ているということを忘れない(勝手な物語を紡いで熱くならず、これはステータス・ゲームだと気づいて理性を回復すること。誰もこのゲームの勝利者にはなれないことを理解すること)

★★★★☆

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