ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

言語化するための小説思考

小川哲(さとし) 講談社 2025.10.21
読書日:2026.2.9

SF作家の小川哲が、自分が小説を書いているときにどんなふうに思考しているのかを述べた本。

わしはあまり小説は読まないのだが、芸術家がどんなふうに発想しているのかということには興味がある。その点について、おおいに語ってくれるのは小説家か建築家ではないだろうか。

建築家が自分の意見を述べてくれるのは、たぶんプレゼンをしなくてはいけないからだろう。依頼人に説明するために自分の発想を言語化する必要がある。

一方、小説家はそもそも物語を言語化するのが仕事だから、言語化の専門家なので、その仕事の手法を言語で述べてくれることが多く、助かる。

というわけで、この本もさっそく予約した。

ここで告白すると、わしは、じつは、小川哲さんの小説は一冊も読んだことがない(苦笑)。小川哲さんは常に読まなければいけないリストに入っているのだが、わしはもともと小説をほとんど読まない人なので、常に後回しになってしまうのだ。まあ、いつかは読むだろうから許してね。

というわけで読み始めたのだが、読んでいて困惑した。ほとんどの内容は、これって当たり前じゃね?という内容だったから。

たとえば「伏線」の話がある。小川さんは伏線という発想が嫌いなんだそうだ。なぜなら、小説というものの本質が、「展開を暗示して、意外な展開に対する違和感を減少させる」ように読者に与える情報をコントロールする技術だからだ。つまり、小説って全体として伏線の塊で、わざわざ伏線回収というのはおかしいというのだ。

これはわしも思っているので、小川さんに賛成なのだ。というわけでこの本のかなりのことに、そりゃそうだよね、と賛成できるのだ。

しかし、小川さんはわしが分からなかったある創作方法について語ってくれたので、これは大いに参考になった。驚いたことに、小川さんはプロットなし、テーマなしで小説を書き始めるのだという。

そういうふうに作る人がいることは知っていたが、一体どうやっているのかさっぱり分からなかった。全体の構想を練っておかずに、どうやって読者に情報を与える順番を計算できるのだろうか。しかし、小川さんの方法を読んで、なるほどと思ったのである。

小川さんのやり方はこうだ。

とりあえず、自分が書いておきたいなあ、という時代や人物について書き出す。それは明治時代の地方の風景だったり、古代ギリシャだったり、いろいろである。

そうやって書いていくうちに大抵は困ったことになる。辻褄が合わなかったり、実際には存在しないものを書いてしまったりする。普通そういうところは消したり、書き直したりするだろう。

しかし、その困ったところこそ、次の話の展開になるのだというのだ。辻褄が合わないところを説明したり、現実にはないそれがなぜあるのかを説明する必要が生じるからだ。そしてそこにテーマが浮かび上がるのだという。

このように書きながら次の展開をさぐるような作風の場合、作者自身にも次の展開は予想がつかない。しかし、次の展開のヒントは、必ず今まで自分が書いた文章の中にあるのだというのだ。つまり、伏線を張るのではなく、伏線を発見するという創作方法なのである。

こういった創作方法の場合、最終的に行き詰まってしまう可能性もあるだろう。きっと小川さんの場合、それを乗り越える強引な知力があるということなのだろう。

しかし、よく考えてみれば、こういう創作方法はけっこう普通にあるように思えてきた。ひとつは連載ものの場合だ。週刊漫画の場合、次の週の展開が気になるように、今週の物語を終える必要がある。普通は、毎回、主人公が困った状況にして終える。このとき、次の展開を考えている場合もあるだろうが、しかし、なにも考えずに、とにかく登場人物を思いっきり追い込むことだけを考える人もいるのだ。

ジョジョ・シリーズを描いている荒木飛呂彦さんがそうで、毎回続きをどうするかは考えないのだそうだ。続きは描きあげてから考える。それが長く連載を続けるコツなんだそうだ。

www.hetareyan.com

そうすると、わしには理解できないだけで、こういう創作手法はけっこう普通にあるということなのだろう。というか、長期連載の漫画では普通のことなのかもしれない。

黒澤明も最初は全体を構想してから書く作風だったのに、ある時から失敗する危険を犯しても、偶然に頼る脚本手法に変えていったというから。自分でもどうなるか分からないこのような創作方法は、もしかしたら書くのは楽しいのかもしれないな。

www.hetareyan.com

一方、ネタをすべて準備してから書くスタイルの作家の場合、書く楽しみは、映画における編集の楽しみに近いのかもしれないね。ミステリーの場合はこっちのほうが多いような気がする。

★★★★☆

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ