ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

荒木飛呂彦の漫画術

荒木飛呂彦 集英社新書 2015.4.22
読書日:2022.2.13

ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦が、自分の漫画の創作過程を公開した本。

これまで小説や脚本の創作に関する本を何冊か読んだせいか、またアマゾンがお勧めしてきた。そう言えば漫画に関するものは読んでなかったかなあ、と思って、図書館で借りたもの。(勧められてもめったに買わないのね(笑))。

荒木飛呂彦は今では超売れっこになったが、この人は天才というよりも努力家だ。努力していまのオンリーワンのユニークな存在になることができたのだと思う。

絵も最初は普通の漫画っぽかったが、いまではその原画展が開かれているし、服やアクセサリーなんかもとてもいいセンスのものを描いている。人体の構造なんかも、デビューしたあとも地道な努力でデッサンを勉強して、イタリアに彫刻をわざわざ見に行ったりしている。とくに、関節を見に行ったと言っているのが面白い。そうした積み重ねが立っているだけで存在感をだすジョジョ立ちに生かされているわけだ。

漫画の王道を歩んでいると本人も自負しているが、この本の中で語られている王道というのは、雑誌に連載をするということが前提の話だ。そのために飽きさせないようにする、最後までページをめくらせるという発想が基本になっている。

これはデビューするまでに作品を持ち込んでも、編集者が最初の表紙をちらっと見ただけで袋に戻してしまい、最後まで見ないことに衝撃を受けたことがもとになっている。同じような漫画を多数見てきた編集者には、よほどのことがないと最後まで読んでもらえないのだ。もちろんそれは読者でも同じだという。

だから表紙や最初の1,2ページに全力を傾け、この話には何かありそうだぞという感覚を読者に与えて、なんとしても最後のページまでめくらせることが必要だそうだ。そして最初のひとコマからもったいぶらずにさっさとお話を始めて、誰が、いつ、どこで、何をしているかの情報をすぐに読者に示すことが重要という。

作品の作り方で重要なのは、キャラクター、世界観、テーマ、ストーリーの4つだという。このうち必須なのはキャラクターと世界観で、これだけあるととりあえず作品は成立するという。しかしながらキャラクターは時代とともに古くなるという問題があるそうで、長く続いている作品、たとえば「こち亀」などでも両さんのキャラクターは少しずつアップデートしていて、古くならないように気を使っているそうだ。

著者が実践しているキャラクターの作り方は、一人ひとりのキャラクターの身上書を全部書き出すことなんだそうだ。身上書の項目は身長、体重、血液型、学歴など100以上あり、それらすべてをあらかじめ決定するという。そしてキャラが重ならないように気をつける。こうした内容はすべてストーリーに反映させることはないが、こうして決めているかいないかで大きな差が出るのだという。そして、キャラ設定を行うだけで、ストーリーのヒントがかなり得られるという。

ストーリーに関しては、常にプラスしていく方向でなければならない。つまりアゲアゲだ。少年漫画ではマイナス方向に行くことはありえない。しかし、アゲアゲだと、連載が進んでいき、主人公が努力してトップに立ったあとのことが問題になる。一度頂上に達したあと、どう話を続けていけばいいのか。もう一度高みを目指すためにまた最初から努力するのか。そうすることにしたとしても、実は描いている作者側のモチベーションが続かないのだという。そこでジョジョの場合は主人公が死ぬという大きなマイナスをするものの、その意志が子孫に受け継がれるという解決策をとったそうだ。

連載では毎回必ず主人公を追い込んだ状態にして終えるという。驚いたことに、この時点では追い込むことに集中して、どのようにそれを解決するかは考えないのだそうだ。そのおかげで作者自身が、今回はだめかも、という状況になることがしばしばあるようだ。そういう困った状況になっても、けっして超自然的な解決策や偶然は用いない。

世界観ではリサーチが大切だという。ジョジョは世界中が舞台だが、かならずその舞台になっている国を訪れてリサーチするという。距離感や広さといった空間的な感覚はその土地に行かないと得られないのだそうだ。ジョジョ第3部のスターダストクルセイダースは日本からエジプトまでの移動が中心になるが、実際にそこまで行っているという。第5部の黄金の風でも現地に足を運んでいて、ローマ市内の移動の距離感は実際のとおりだという。リサーチは徹底していて、岸辺露伴のマナー対決の話では、実際のマナーの先生に合っているかどうか監修を依頼しているそうだ。

ストーリーのヒントとしては日常の出来事や人の話に注意を払っていて、必ずメモしているそうだ。特に自分と異なる意見がお話の元になりやすいので、違和感を覚える部分に注意を払うのだそうだ。

漫画家を長く続けるには、締め切りをきちんと守って継続的に描くことで、精神的にも体力的にも余裕をもつことが大切だという。

うーん。漫画家の発想は通常の脚本家や小説家とかなり違っている印象ですね。連載漫画にしか使えない話も多いです。この本はかなり特殊な場合限定かなあ。

しかしまあ、これだけ積み上げたものがあると、アイディア不足にもなりそうもないし、とうぶんジョジョの連載は続きそうですね。ちなみに、わしは、アニメのジョジョは見ているけれど、漫画の方は読んでいません。子供の方は全巻読んでいるようですけどね。

★★★★☆

(参考)

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ