中山淳雄 日経BP 2024.2.26
読書日:2024.5.7
エンタメは社会の矛盾を心理的に昇華させる逃避世界だという著者が、アップロードネイティブ世代であるZ世代(1995〜2010生まれ)のエンタメについて語った本。
日本は世界に冠たるエンタメ大国なんだそうだ。Z世代が作り出した日本のエンタメは日本独特の環境から生まれた。それは二次創作である。自分が好きなオリジナルのコンテンツを使って、派生的な作品を作ることだ。著作権とかも無視するようなグレーなゾーンだが、多くのアマチュアが参加し、コミケやニコ動などの動画共有サービスを通じて楽しんだ。
特徴は、参加している人たちの熱量がものすごいことで、コミケなどでは10人ほど自分の作品を待っている人がいれば、その人たちのために頑張れる人たちがたくさんいるんだそうだ。
いまでは最初から二次創作を織り込んだマーケティングが行われている。そして大量の作品(まあ、ほとんどはクズなんだけど)のなかから、やがて世界トップとなるクリエイターたちが誕生している。
いちばん有名なのは、YoasobiなどのボカロP(ボカロ・プロデューサー)の作る楽曲や、そのまた二次創作(ボカロP原作のアニメなど)が世界を席巻していることだ。
もっと面白いのは、Vチューバーの動きだろう。ユーチューバーはなかなか日本の壁を乗り越えて世界に出ていけなかったが、Vチューバーはその壁を乗り越えて、世界に躍進しているのだという。アニメ風の画像とAI翻訳機能で国境は越えられたのだ。いまVチューバー会社の収益のかなりが海外からで、世界のトップ2のVチューバー会社は日本にある。
中山さんは、ダウンロード中心の世代と、Z世代のようなアップロード中心の世代では、もう感覚がまったく違うという。わしは典型的なダウンロード世代であるから、こういう動きは知ってはいたが、参加しようとは思ったこともないし、ニコ動だっていちおう通過しているけど、これって面白いのかなあ、という感じでしかなかった。
もちろん息子の世代では、テレビよりもユーチューブばかり見ているのは知っていて、わしも無理やり見せられたりするわけだから、状況はわかっているつもりだけど、やっぱり熱量が違うんだよね。
これらのクリエイターたちはほとんど匿名なんだという。匿名こそが日本文化で、世界では実名が基本なんだそうだ。しかし、このような傾向は、江戸時代から変わっていないんだそうだ。日本は表では規律正しくしているけど、裏では日常逃避的な活動を匿名で行ってバランスを取っていたのだという。二次創作的な文化も昔からだという。
いやー、わしはこれからは本当に日本の文化が世界を席巻していくと本気で思うな。日本人は本当に、放っておくと勝手に遊ぶ集団なんです。日本はGDPのような経済的なスケールではもう人口の多い国なんかには太刀打ちできないのは当然だけど、文化的なソフトパワーではものすごく大きなポテンシャルがあると思うな。これまでは日本語が障壁となっていたけど、それも技術の発展で取り払われてしまったわけで、躍進の条件は整っています。
わしがぜひ輸出してほしいと思う文化は、日本の表と裏のある生活、そのものだね。表と裏があるというと悪い事のように聞こえるけど、これこそネット時代のスタンダードです。きっとそうだ。
というわけで、以下のところに述べたように、日本人は遊んでさえいれば、GDP以上の存在感を世界に発揮し続けるでしょう。
以上述べたようなことばかりではなく、リアルとかアナログが復権しているとか、わしが苦手なゲームの世界についても書いてある。ゲームもクリアすることが目標ではなく、バーチャルな他の人とのやり取りが中心だし、ユーザがゲームの世界を作れるようになっているんだそうだ。まあ、そうなんでしょうね。
唯一納得できなかったのは、テレビがエンタメの王座から陥落したという話。そういうけれど、日本ではまだまだテレビの存在感はむちゃくちゃ大きいと思うけどねえ。
★★★★★