ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見

宮崎徹 時事通信社 2021.8.12
読書日:2021.11.18

老廃物を除去する特殊なタンパク質AIMを発見した著者が、これを使って腎臓病などの従来、治療不可能だった病気に挑戦していることを報告した本。

猫のほとんどは腎臓病で死ぬんだそうだ。知らなかった。普通の猫だけでなく、ネコ科の動物はみんなそうなんだそうだ。それはネコ科が抱える遺伝病なんだそうだ。

愛猫家は家族同然の猫が腎臓病にかかって弱って死んでいくのに心を痛めていた。一方、著者はAIMというタンパク質を調べていて、AIMが腎臓病に効くという結果をマウスで得ていたが、人間を相手に研究をすすめる段階でなかなか先に進めなかった。なにしろ、人間の慢性腎臓病は高齢者がほとんどだが、その効果を確認するにはとてもたくさんの時間がかかってしまうのだ。

しかし話を聞いた獣医たちが、猫の治療薬を先に作って欲しいと、熱烈に協力を申し出て、しかも腎臓病の猫がたくさんいて、効果が数ヶ月で確認できるので、非常に有利ということで、猫を優先することにした。別に愛猫家ではなかった著者も、いまでは猫の命を救いたいという情熱が乗り移っている。

AIMの効果は劇的で、重篤な腎臓病だった猫にAIMを与えると、すぐに元気になった猫が続出したという。問題は大量生産だったが、製薬会社が見向きもしなかったので自力でやることにした。ここでX社というエンジェルを得て、生産と治験の準備を進めようとしたところでコロナ禍で中断してしまっているらしい。

なんということだ。この薬はもちろんヒトにも有効だろう。クラウドファウンディングなどを活用して資金を集めているようだが、製造という段階に進むにはまだ力不足のようだ。なにかわしらにできることはないのだろうか。そんなことを真剣に考えてしまう。

ところでAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)とはなんだろうか。AIMは生物の老廃物(デブリ)にくっついて、マクロファージがそのデブリを貪食するときの目印になるタンパク質なんだそうだ。高齢化してAIMが減ると、腎臓の尿細管につまったデブリが掃除されなくなり、それが炎症を起こして腎臓の細胞を破壊するので、慢性の腎臓病になるのだという。

このAIMは単体で存在すると、体外に排出されてしまう。そこで、血液中ではIgM五量体という抗体の一種に結合して存在し、必要に応じて、IgM五量体から離れてデブリにくっつくらしい。ところが猫のIgM五量体は腎臓の尿細管でAIMを分離できない構造になっていて、ネコ科は生まれたときから徐々に腎臓の細胞が死んでいく運命らしい。なので猫の寿命は15歳くらいらしいが、AIMを投与できるようになると、30歳くらいまで寿命が伸びても不思議じゃないらしい。

AIMは不要な物質には何でも効くので、対象は腎臓病だけではない。もっとも驚くのは、痴呆の原因物質と言われ、脳に蓄積するアミロイドβにもくっついて、掃除を促す可能性があるのだ。ガンのような普通でない細胞にもつくので、ガンにも有効だ。

宮崎さんがAIMを発見したのは1999年で、しかもAIMは血中にたくさんある普通のタンパク質らしい。寿命を伸ばすと言われるNMNでもそうだが、最近、こういう身体の中に普通にある物質の重要な役割が次々に明らかになっている。生化学はものすごくエキサイティングな状況になっていると言えるだろう。

ともかく早く実用化して、慢性腎炎や痴呆からヒトが救われることを祈りたい。わしは科学で高齢者の健康問題は解決できると信じている。

★★★★★

 

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ