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開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線

今井眞一郎 構成・瀬川茂子 朝日新聞出版 2021.7.30
読書日:2021.11.1

日本人の老化研究の第一人者による、自分のキャリア形成と老化・寿命研究の最前線を紹介した本。

以前読んだライフスパンの著者、デビッド・A・シンクレアと同じ元ギャランテ研究室の研究仲間で、友人でもある今井眞一郎による老化研究の話で、今井の名前はライフスパンでも出てくる。同じ研究室にいたのだから、このフィールドの最近の研究成果についてはほぼ同じ内容で、ただ、今井さんはもちろん自分の研究について詳しく書いているという違いがある。

構成に関しても、ライフスパンとほぼ同じ構成で、老化研究を始めてキャリアを築く自分史と、興奮の研究成果、そしてもっと広い寿命一般の話になって、今でもできる長寿命の可能性を高める方法、という内容である。

違いは二人の個性の部分で、シンクレアは自分の学説に酔ってるようなところがあり、かなり扇情的な書き方なのに対して、今井さんの書き方は冷静ということろだろうか。学術的な説明としては今井さんの文の方がわかりやすい気がする。構成の瀬川さんの腕がいいのだろう。しかし、どちらも健康で長生きする世界を作るというビジョンは同じだ。今井さんの目標は人類全員をピンピンコロリ(死ぬまで健康に生きる)にすることだそうだ。

しかし、まあ、やっぱり気になるのは、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)というサプリメントのことだ。もっとも、今井さんはNMNをサプリメントと呼ぶことに反対で、ニュートラシューティカルと呼んでいる。これは有用性が科学的に確認された物質のことをいうのだそうだ。

今井さんによると、現在世界で高純度で安定的なNMNを作れる会社はたった2社しかなくて、どちらも日本の会社で、オリエンタル酵母工業とミライラボサイエンスだそうだ。このうちオリエンタル酵母工業は一般の市販はしておらず、ミライラボサイエンスは販売しているが、非常に高い。その他から出ているNMNは純度が低く、よけいな不純物が入っているので注意が必要だという。

わしはライフスパンを読んでNMNに興味を持って、楽天で安物を購入して飲んでいるが、どうもこれじゃあ駄目らしい(苦笑)。しかし、ミライラボサイエンスの値段はざっくり10倍、一桁上がってしまうので、とても手が届かない。まあ、本当に効果があるかも不明だから、とりあえず安物を飲んでいこうかな。きっとまったくNMNが入っていないわけじゃないだろう。これからどんどん安くなることを期待する。(気のせいか、NMNを飲むと、身体が熱くなるような気がする。安物だから不純物のせいだったりして(笑))。

さて、今井さんの業績のひとつがサーチュインのひとつSIR2が脱アセチル化酵素であることを証明したことだ。これを発見したときの様子が、この本のハイライトの一つだ。

このとき別の研究グループとの競争にさらされて焦っていた今井さんは、通常では絶対やらない量、100倍のNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)を試料として使い実験を行ったという。すると、期待したのとは違う思ってもいなかった結果が出たのだそうだ。科学ではよくあることだが、あることを証明しようとして無茶をした結果、思いがけない別のもっといい結果が得られたということらしい。このデータをみた瞬間ボスのレニー・ギャランテはゲラゲラ笑ったという。この発見がある意味偶然だったとは知らなかった。なるほどねえ。

いま日本の国力は厳しい状態に置かれているが、今井さんの見立てでは、人口動態の少子高齢化が解消してふたたび日本の国力が上向きになるのは50年後だそうだ。そのときに日本に国際的なリーダシップがとれる人材が育っているためには、いまから準備をしないといけないと主張している。もちろん今井さん自身もそのために動き出している。うーん、いいね。

★★★★☆

 

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