安野貴博 文藝春秋 2025.2.10
読書日:2026.2.9
2026年2月8日の衆議院選挙で「チームみらい」を率いて11議席を得た安野貴博が、東京都知事選挙に出馬して約1%の議席を得て注目を浴びた頃に出した、テクノロジーと民主主義を結びつける構想を述べた本。
安野貴博ってSF作家なんだそうだ。知らないなあ、と思っていたら、わしは読んでおりました(苦笑)。申し訳ありません。
でも、この小説はSFというよりは、現代テクノロジーの延長上にあるごく近未来の話で、まあSFと言えばSFなんだけど、どちらかと言うとAIテクノロジー✕ミステリーと言った感じでございました。そういう意味では、現代テクノロジーがどのようにわしらをアップデートできるのかという観点で書かれた本書と地続きと言え、安野さんの関心はずっと同じところにあるのだということがわかります。
ちなみに安野さんはAIの専門家で、関連スタートアップを2つも起業していているという方です。しかし、ビジネスで成功することを目指しているわけではなくて、テクノロジーで世の中を変えていくことに興味があるわけです。
そういう意味では、台湾のオードリー・タンと極めてよく似ている立ち位置にあります。オードリー・タンもすでにお金は十分稼いでいて、いまでは多様性を確保した社会、プルラリティを推進していこうとしています。プルラリティの中でもオードリーは安野さんの動きについて言及されていますし、安野さんも本書でオードリー・タンについて言及しています。
この1%の意味なんですが、安野さんが都知事選に投票日の1ヶ月前に出馬して得票した数字が15万票で都民の人口のほぼ1%だったということもあるのですが、いろんな1%の意味も含んでいます。そのなかで重要なのは、1%新しいところにお金を向けるだけで、それが将来大きな違いを生む、という考え方です。
安野さんが提唱している東京都の政策は、全部合わせても500億円ほどだそうです。500億円は東京都の年間予算6兆5000億円の1%弱に当たります。この1%は将来大きくなる分野に投じることで、投じた予算の何倍、何10倍、何100倍ものレバリッジを効かせた結果を生む、という考え方なのです。つまり、これは投資と同じで、明治の人が教育制度を作って学校を全国に作り、日本を変えたように、そのような社会への投資が重要だということです。
では、そのお金をどのように使えば社会を変えていく方向に向けられるのか。税金を民間企業に直接投資しようという話、ではありません。そうではなくて、例えば、テクノロジーで大幅に効率をアップできるテーマを設定し、民間企業に開発を募集して、実際に東京都がそれを買って使うというふうな形で企業を支援する、といった感じです。これはアメリカの国防高等研究計画局(DARPA)がやっているようなテクノロジーを牽引する方法です。このようなテクノロジーが生まれると、それは民間に広がって大いに活用されるでしょう。そして、社会の効率がアップするというわけです。
民主主義のアップデートにもテクノロジーは使えると主張しています。民主主義の問題のひとつは、規模が大きくなると、一人ひとりが意思決定に関わることが不可能だということです。ほとんどの人は選挙のときに投票という行動ができるだけで、都で行われている議論のひとつひとつに関与することはできませんし、そもそも不可能です。このギャップをテクノロジーで乗り越えていこうとするのは非常に有効でしょう。
具体的には、AIにネット上にある人々の意見を自動的に吸い上げて要約させる、という技術です。これを「ブロードリスニング」と安野さんのチームは呼んでいます。
こうしたテクノロジーを使えば、かなり民意をつかむことは可能でしょう。しかし、民主主義のもうひとつの役割、よく話し合って合意を得る熟議というプロセスはどうしたらいいのでしょうか。安野さんは自らの経験、GitHubを使ったマニュフェスト構築を例にして、とにかく100%の参加は無理でも1%参加できる技術を導入するということのようです。そして、合意にもAIの要約の力を活用するということのようです。
安野さんの目指す世界線は、1%が100個集まった世界だそうです。どの1%も取りこぼさない社会です。
わしも民主主義のアップデートにはテクノロジーが不可欠だと思っています。そして、今はまだ実現していませんが、テクノロジーはすでにその力を持っていると思っています。わしにはまだそのような社会はぼんやりとしか見えていませんが、すでにそれが見えている多くの人が世の中にはいるように思います。
数年後が楽しみです。
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