グレート・ナラティブのなかに興味深いことが書いてあった。
人口減少と成長率0の絶望的なケースのはずの日本で、生産性が伸びているというのだ(p43)。それによると、2007年以降のG7の中で、生産人口一人あたりのGDPはどの国よりも伸び率が大きいという。
この話を読んでびっくりした。なにしろ日本は生産性が低いことで有名で、経済学者の野口悠紀雄なんかは、日銀の金融政策は間違いで生産性を上げることが大切、と口を酸っぱくして言っている。絶望的だと思ってたのに、実際には生産性は激しく上昇しているというのだ。あれま。
実際のところどうなんだろうか。
総務省の統計資料によれば、労働生産性の絶対値は低いものの、就業者1人あたりの2012ー2019年の時間あたりの生産性の伸びは年率1%で、G7の中ではフランスと並んでトップである。
これってどういうことなんだろうか。
じつはこの伸び率は、就業時間の短縮の効果が大きい。日本は年率0.8%ずつ労働時間が短縮している。
つまりこういうことである。
企業は労働者に残業をしないように指示していて、それで労働者は残業を減らしている。しかし仕事の量は変わらないので、時間内に終わらせるように頑張っているということだ。
これは企業にとって素晴らしく良いことだ。なぜなら、残業代を払わなくていいのに、売上は同じなのだ。このぶん、企業の利益は嵩上げされているはずだ。
一方、労働者の方は給料は増えていない、というか逆に残業代が稼げないから所得は減ってるかもしれない。喜んでいるのは企業だけだ。
こんな状態が正しいはずがない。効率アップで儲かった分は、すぐに労働者にも分け与えるべきだ。そうすれば、GDPだってもっと成長するだろう。
ともかく、日本の労働者はがんばっているという印象だ。労働者への分配を増やせば、日本の未来は明るいだろう。きっとそうだ。(また楽観論か、と言わないで(笑))
(追記 2022.9.11)
などと書いたあとで、橘玲の「不条理な会社人生から自由になる方法」を読んでいたら、日本人の労働時間が減ったのは短時間の不正規労働者が増えたからで、その陰で正社員たちは残業しており、日本の就業者の20.8%が週49時間以上働いており、その割合は他国に比べて際立って高い、という記述があった。
あれま。国際経済フォーラムが、希望があると言っていた日本の生産性の改善も、橘玲の見方ではぜんぜんよろしくないわけで、なかなか難しいね。
どちらにせよ、効率があがって改善した分は労働者に返していただきたいという、わしの気持ちは変わりません。