クラウス・シュワブ ティエリ・マルレ 訳・北川蒼 日経ナショナルジオグラフィック 2022.7.4
読書日:2022.8.13
ダボス会議で有名な世界経済フォーラムの創設者のクラウス・シュワブが、アフターコロナ後の世界で世界を動かすであろうナラティブを語った本。
クラウス・シュワブによれば、コロナのパンデミックで世界は後戻りできないリセット状態になったという。(この前の本で語られているらしいけど読んでいません)。アフターコロナの世界はどのようになるのか。それを導くのは、専門家の小難しい理論ではなく、物語(ナラティブ)が重要なのだという。人は物語に従って価値観を決めていくからだ。したがって、シュワブとマルレの狙いは、人々に訴える物語を提案することである。
シュワブは、会社は利害関係者ステークホルダー全員の利益を考えて行動しなければいけないと主張している経済学者なので、その方向で議論は進んでいて、サスティナビリティとか環境とか、そういう傾向が強い内容になっている。
50人以上の世界のオピニオンリーダーの意見を聞いて、それをナラティブにまとめたということであるが、この50人もシュワブが恣意的に選んでいるので、事実上シュワブの意見が述べられており、単にシュワブの考えを補強する部分だけ引用されているようだ。
しかし、50人のインタビューをなんとかつなぎ合わせているせいだろう、いまいち統一感がない内容だ。はたして一般人がこれを読んで未来に対するインスピレーションを得ることができるのか、はなはだ疑問。思惑と違って、ナラティブを作ることに成功しているようにはまったく見えない。
そもそもこの本は一般人を相手にしていないのかもしれない。世界各国のエリート向けの本なのかもしれない。それぐらい読んでいてもちっとも面白くない。まるで、できの悪い官僚の報告書を読んでいるかのようだ。
ダボス会議自体もこんな感じなんだったら、ダボス会議ってなにか世界の役に立ってるのかしらね。
しかしまあ、想像力に期待して未来に楽観的な部分はいいとは思うけどね。
*****メモ*****
本の構成としては、前半で課題をあげて、後半で解決策を提示している。(解決策になっているのかどうか疑問だが)。
課題:5つの課題があげられている。
(1)経済 成長と公的債務の激増
(2)環境 気候変動が明らかなのに対策が進まないこと
(3)地政学 覇権国がなくなること、米中の対立
(4)社会 不平等の拡大
(5)テクノロジー 進歩が早すぎ、大きなリスク。とくにサイバーリスク、AIと戦争、合成生物に課題。
解決策:(そりゃそうだけど、という内容の列挙(笑))
(1)協調と協力 世界を公共財として扱うために、皆が協調し協力する。そのためには共感力を高める教育が必要。またローカルから出発するコミュニティが重要。
(2)イマジネーションとイノベーション 想像力の欠如が思考停止を生む。想像力を働かせて今までの枠を取り払えば、新しい解決策はかならずある(と信じる)。
(3)道徳と価値観 市場が失敗しているので経済に道徳を入れなければならない。
(4)公共政策 持続可能な環境、社会をつくる政策。
(5)レジリエンス(回復力) 硬い樫の木ではなく柔らかな草を志向する。例えば現在問題なっているサプライチェーンの崩壊では、今後は適正在庫を持つようにするなど。
(6)企業の役割 株主価値だけではなくすべてのステークホルダーの利益を考える行動をする。
(7)テクノロジーの飛躍的な進歩 テクノロジーの進歩が解決に役立つ、明るい未来を思い描くこと。
★★☆☆☆