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ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」

坂本貴志 講談社 2024.10.15
読書日:2024.10.16

ほんとうの定年後」の姿をデータで示した著者が、人口動態を用いて、これから日本経済に起こることを示した本。

バブル崩壊後の日本経済(の停滞)についていろいろな話を読んできたが、この本の人口動態、および労働市場のデータからの説明がもっともしっくりした。

具体的には次のようである。

日本の人口動態は、終戦後、人口が増え続け、2007年にピークに達した。その後減り始めるのだが、2023年までは非常にゆっくりと人口が減っていく調整局面だった。今後は人口の減り方が加速度をつけていく局面に移っていく。

2012年に第2次安倍政権が誕生して、デフレ脱却を目指して日銀は異次元の金融緩和を行った。このとき、新しい産業を起こすことも目標に入っていたが、それは起こらなかった。企業は新規投資をして利益を出すのではなく、主に非正規を多く雇うことによって労働者に支払う労働分配率を下げて、利益を出した。この結果、国民の生活は貧しくなったと言われることが多い。

多くの識者が強欲な企業を非難したが、この本によれば、そこには至極まともな経済原理が働いていたことになる。つまり、2007年以降の人口調整局面では、女性と高齢者の労働参加率が急激に上昇しているのである。労働力の供給が増えている局面では、賃金を上げなくても容易に労働力を確保できる。このように簡単に利益をあげられる環境では、そもそも新規投資をして利益をあげようという動機が生まれない。

そして、人口調整局面(2007年〜2023年)では労働の供給力が大きく、需要が少ないという状況が続いていたから、この需要不足は国家が借金をしてまかなっていたということである。この結果、国家の負債は増えていった。いっぽう、企業は内部留保を何100兆円とため込んでいる。

しかしすでに女性と高齢者の労働参加率は2022年で72.4%、高齢者は60代後半男性で61.0%に達している。70代前半男性でも41.8%である。これまでは、人口がほとんど減らない状況で、労働の供給力が増えていたが、もうそれは限界に達している。すると、今後の人口の加速度的な減少は、もろに労働力の減少となってしまう。

つまり今後は、需要があっても供給力が追いつかない、供給律速の経済になり、すべての経済現象が逆転を始めるのである。つまり、次のようだ。

・労働者の賃金が上昇する。
・インフレが起こる。
・これまでほとんど投資が行われてこなかったサービス業で生産性をあげる(供給力を増やす)投資が行われる。
 (=海外に投資してきた日本企業が国内に投資するようになる。)
 とくに医療や介護での生産性向上が進んでいく。
正規雇用が増え、企業はこれまで蓄えた内部留保を吐き出す。

この本では明確に書かれていないが、需要よりも供給が少ないので、おそらく政府の国債発行は減少するだろう。そしてインフレーション社会では、さらに負債は減少しやすい。なんのことはない。財務省の財政規律の健全化は、今後の日本では容易に達成できるだろう。(自然とそうなるはずだから、財務省はおとなしくしていてほしいな)。

すでに日本では経済統計のあちこちでその現象が起きている。賃金は上がり始めているし、省力化投資のためのソフトウェアへの投資は増えている。ファミレスにおける配膳ロボットやスーパーの無人レジはすでに日常の光景だ。

これまで日本はデジタル化が進まなかったが、それはデジタル化しなくても人手のほうが安かったからだといえる。しかし、人手不足の中、日本はデジタル化が急速に進むだろう。

これらのすべてはこれから人口が減少する国々の参考になるだろうし、新しい輸出産業になるかもしれない。

いまは円安だが、これはほとんど、企業が海外で稼いだお金を海外に再投資して日本に戻さないことに起因している。しかし円安の中で、企業は高くなっていく給料を払うために、そして新規投資のために日本にお金を戻すだろう。為替はいずれ円高方向に戻るに違いない。未来の日本人は、また給料が高くて円高の状況を享受できるんじゃないかな。

高齢者も、「年金が少ない分は働けばよい、雇用はいくらでもある」と思えれば、老後を楽観できるようになるのではないだろうか。

わしの思うに、人口減少社会の日本の未来は非常に明るい。

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