ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

順列都市(上下)

1999 早川書房 グレッグ イーガン, Greg Egan, 山岸 真
読書日:2019年1月21日

 *****ネタバレあり。注意*****

2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点)が起こり、AIが人間を越える知性を持つとか、人間の意識を機械にアップロードし、肉体を捨ててコンピューター上で人間が生きるようになると言われている。もしも人間の意識をアップロードできれば、それは事実上、人間は不死となる。

人間が不死の存在となり、機械の中で過ごすとはどういうことなのだろうか。この状況を想像し、実感するのは今の科学をもってしても、説明が難しい。このような問題を考えるには、想像力豊かな作家の出番となる。SF作家は、これまでも、通常では理解できない感覚を説得力ある物語で読者に認識させてきた。

グレッグ・イーガンは本作でリアルなコンピューター内で暮らす人間たちを描写している。この作品を発表したのは実に1994年であり、いまから30以上年も前のことである。驚くべき感性である。

ただし、この作品はそういうコンピューター人間の話を描くことが目的ではなく、それは単に話の端緒に過ぎない。実際には、無限ともいえる数学空間を設定し、そこに移り住むことで、宇宙の寿命すら越える「永遠」の命を得ようとする話である。そして意外な結末の話でもある。

時代はくしくも、シンギュラリティを唱えたカーツワイルが設定した2045年ごろになっている。話の初めでは、すでにコンピュータへのアップロード技術は完了しており、大金持ちたちは死を乗り越えて、<コピー>としてコンピュータの世界にいる。この計算には莫大な計算力が必要であるから、金持ちしかこの技術の恩恵にあずかることはできない。あまり金持ちでない人間は、クラウド上の安い計算力を求めて世界中をさ迷っている。

ここでの<コピー>たちの描写が素晴らしい。その時代でも、技術的な限界により、人間の意識をシミュレーションするのに、人間と同じ実時間では再現できない。<コピー>の時間は、実時間の17分の1しかない。なので、コンピューターの外の人間とコミュニケーションするときには大変だ。まるで火星にいる人間とやり取りするような間の抜けたものになる。

<コピー>の話は17倍の時間がかかって、外の人間に伝えられる。いっぽう、外の人間の言葉は、17倍に引き伸ばされて、再生される。こうしたやり取りの中でも、<コピー>たちはなんとか自分の財産を増やし、どんどん金持ちになっている。

彼らは基本的に閉ざされた部屋の中にいる。町の中で暮らすことができない。なぜなら町をシミュレーションするのは非常に大きな計算力が必要になり、それを確保するのは難しいからだ。それどころか、部屋の中だけでも、意識が集中した部分以外のシミュレーションは簡略化されている。

<コピー>たちの意識は人間と変わらないので、しばしば自分が本当に<コピー>なのかどうか分からなくなるが、こうした簡略化された周囲の環境を見ると、自分が<コピー>であることを思い出す。さらには、ある呪文を唱えると、インターフェースが空中に出現するので、そこが仮想空間であることをしみじみと納得することになっている。

そしてしばしば自分が閉じ込められていることに耐えられなくなり、発狂したり、自殺を試みたりする。

と、この辺までで、まだプロローグ。もうこれだけで、シンギュラリティの世界を覗くには十分な感じ(^^;。ですが、ここからが本題なわけで、その後の話を短く伝えると。

5年後の2050年、マリアはオートヴァースという環境で、生物の進化が自発的に起きる条件の実験をしていて、それに成功する。すると、プロローグでコンピュータ内の生活を体験していたポール・ダラムという研究者が、何10億年分計算すれば何らかの知的生命に発展するであろう、生命の種を作ることをマリアに依頼する。

ポール・ダラムは自らの<コピー>実験を通じて、永遠の命を得る方法を思いつく。その永遠とは宇宙が滅んでも続くという文字通りの永遠。<コピー>たちは、ダラムに金を出し、そのプロジェクトを推進させる。またその永遠の世界に、マリアの種を備え付け、生命誕生のプロセスを進める。まさしく、生命までも作り出し、神になろうというのだ。

そして<コピー>たちや生物の種を載せて、その世界は<発進>する。

4千年後、ポール・ダラムの作った世界はエリュシオンと呼ばれ、無限の計算力を使い、市民は自由な生活を送っている。しかし、マリアの作ったランバート人たちは、知的生命に進化し、ついには自分たちの世界がオートマトンの上に作られていることを発見する。その世界が不完全であると考えた、ランバート人は、オートマトンの世界に干渉を始める。エリュシオンが崩壊し始め、エリュシオン人たちはランバート人のいない新しい世界を作り、そこに逃げ込み、<再発進>する。

という、なんとも壮大なストーリーとなっています。

ここで、肝心の永遠の命を得るアイディアですが、「塵理論」と呼ばれ、エリュシオンでは無限に計算力が複製されるといいます。正直、なんのこっちゃという感じです。ここがアイディアの肝だと思うのですが、何かふわふわしたもので、そういうものだと納得しないといけないもののようです。このへんがちょっと残念。

塵理論」については、別のページにて、考察します。

www.hetareyan.com

★★★★★


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