ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

サードマン 奇跡の生還へ導く人

いつのまにか一緒にいてくれる影

ジョン・ガイガー 訳・伊豆原弓 新潮社 2014.4.1(単行本は2010.9)
読書日:2026.6.4

山で遭難したり、海で漂流したり、災害からの脱出などで極限状態に陥った時、実在しないはずのリアルな第三者(サードマン)が現れて、危機に陥っている人を励まし、生還へと導くという現象を追った本。

座敷童(ざしきわらし)という妖怪がいる。子供が10人で遊んでいるといつの間にか11人になっている。座敷童が混じっているに違いないが、不思議なことにその中には知らない子はいないのだという。萩尾望都の傑作マンガ「11人いる!」の元ネタになっている話だ。

こんな話が実際に起きるというのである。それが起きるのは、遭難など命に関わる極限状態に置かれた人たちだ。しかも座敷童と同じように、その第三者、サードマンは遭難者に友好的で、励まし、危険を知らせ、孤独を癒してくれる存在だという。

1996年、ギズモ号は大西洋を横断するレジェンドカップに3人で参加したが、天候が悪化して厳しいレースになった。そんな中、クルーの一人、プロシンはなぜかもう一人いるような気がして、食事の時、気が付かないうちに4人分を用意してしまったという。おかしいと思ってもう一度乗員数を数えてみた。そうしたら、やっぱり4人いたというのである。この4人目の乗員は、嵐の中のかじ取りの時にそばにいてくれ、どちらに向かえば高波を避けられるのか教えてくれたという。ギズモ号はその大会で唯一完走した艇になった。

圧倒的にサードマンの報告例が多いのは登山者だ。山で遭難して命の危険にさらされたとき、そばに誰かがいてくれているような気になるのだという。雪山ではどこに足を置くか、その一歩一歩を慎重に見極める必要があるが、そのサードマンが先に立って歩いて、その足あとをたどって帰ってきた、という例もある。

あまりにもサードマンに存在感があるので、遭難者は食事の時、乏しい食料を慎重に2つに割って、そのサードマンに差し出してしまう。そうして、誰もいないことに気が付くというのだ。

ある遭難者は、助かってから、そのサードマンの不思議な体験を山岳会の偉い人に相談したんだそうだ。そうすると、その人は、その<存在>のことなら知っていますよ、とこともなげに伝えたそうだ。クライマーの世界では有名な現象だったのである。

サードマンが実在しないのは明らかだ。つまり遭難者が作り出している幻である。

人間にそのような能力があることは分かっている。たとえば子供が作り出すイマジナリー・フレンドだ。約30%の子供は、実在しない友達を作り出して、一緒に遊ぶという。

また、脳の実験で側頭葉と頭頂葉の境界に電気刺激を与えると、何かの<存在>がいるかのように感じさせることができるという。これは頭頂葉がデータを集めて現実を構築するときに、電気刺激でデータがバグってしまうかららしい。つまり脳にはそのような機能がある。著者ジョン・ガイガーはこれを「天使のスイッチ」と呼んでいる。

幻の中にはこちらに脅威を与えるものが多い。暗闇の中で音が聞こえると、何か悪いものがいると考えて恐怖を覚え、実際に幻影を見てしまうこともある。これは危険だらけの原始時代から、わずかなデータでも脅威を想定して行動してしまうという人間の特性に由来する。しかしサードマンはこういう幻と違って、誰もそれを脅威だとは思っていない。

結局、ジョン・ガイガーはこう結論づけている。人間は社会的な生物で仲間が必要だ。人間がもっとも力を発揮するのは、仲間と一緒にいて仲間のために何かをするときである。人間は孤独を求めて他人のいない極端なところへ行くのだが、本当に極限の状態に陥ると、天使のスイッチを発動して、仲間を作り出して助かろうとするのだ、と。

笑ったのは、最後に書かれている、探検家・角幡唯介の解説である。彼はいろんなところを探検して危険な目にあっているが、サードマンを見たことがないのだという。そして、サードマンが現れないということは、もしかしたら自分は探検家としてやり切っていないのではないか、という思いに襲われるのだという。ぜひ、サードマンを見てみたいそうだ。

いやー、それは十分に計画が考えつくされて、すべての危険が想定内だったからじゃないですかね。そういえば、角幡唯介の「空白の五マイル」も長らく読まなければいけないリストに入っているけど、まだ読んでないな。

ちなみにわしは、サードマンどころかイマジナリー・フレンドにも遭遇したことはありません。

角幡唯介の本のレビューはこちら。

www.hetareyan.com

★★★★☆

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