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老人と宇宙(そら)

宇宙の戦士は75歳!

ジョン・スコルジー 訳・内田昌之 早川書房 2007.2.28
読書日:2026.6.12

(ネタバレあり、注意)

妻のキャシーを亡くし独り身のジョン・ペリーは、75歳以上しか入隊を認められないという、コロニー防衛軍(CDF)に入隊する。未来の技術で作られた新しい身体を得て、ジョンは一人前の兵士になるべく訓練を受けるのだが……。21世紀版の「宇宙の戦士」と呼ばれるSF。

やっぱり、75歳の老人しか入隊できないという設定がこの小説の最大の特徴で、約半分は老人が兵隊になるってどういうこと?、それでどうなるの?、という読者の疑問に答えるためにある。

75歳以上の老人しか志願できないという理由はいちおう用意されている。人口増加が激しい発展途上国の人が植民の中心で、彼らは若いうちに植民を行うために宇宙に出ていく。一方、先進国の人は植民が禁じられているが、その代わり老人になって入隊すると、コロニーの技術力で若い身体を再び手に入れられるという恩恵がある、というような役割分担があることになっている。

でも、実際には75歳の人々が集まったドタバタを書きたかった、というのがスコルジーの執筆の動機だろうから、こういうのはけっこう無理やりな設定ということになる。だが、ここからが素晴らしいところだが、作者はこうした設定を次の展開に巧妙につなげているのだ。したがって、自然と物語に深みが出ている。これがヒューゴー賞の候補作になった理由だろう。

登場人物は、主人公も含めて、なにしろ75歳である。人生のさまざまな経験を経てきた人たちが集まっているのだ。口は達者で、いろいろ面倒くさい性格に仕上がっている者ばかりだ。最初のジョンが故郷の町で、コロニー防衛軍の事務所を訪れて、年下の事務員相手に契約をするやり取りも、なかなか微笑ましくて笑えるし、世界中から集まった老人の様子も個性的に書かれていて、なかなかいい。

次の驚きは、若い肉体を手に入れるところにある。自分の肉体が若返るのではなくて、あらかじめ作られていた人工の肉体に精神を移し替えるという方法で行われるのである。65歳のときに入隊希望者の遺伝子を取得していて、その遺伝子をもとに作ったもので、緑色の皮膚の色(実際に光合成もできるらしい)と猫のような黄色の目をしている。若返ったどころか非常に強化された肉体になっているのだ。

そして、活力ある素晴らしい肉体を手に入れた男女が、たちまちセックスを試みるという展開になる。(こんなふうに発想するのは作者がアメリカ人だからじゃないの? じっさいにこんなふうになるかなあ)。また、ブレインパルという脳内のAIもあり、隊員同士は考えるだけで自由にコミュニケーションが取れ、情報も取り寄せることができる。

こうして訓練が始まるが、この軍隊は現在のアメリカ軍そのものに由来していることは明らかだ。アメリカ人を読者に想定しているのだし、読者がアメリカの軍隊が世界一であると信じているのだから、読者はコロニー防衛軍もその末裔とすることに何の不思議も感じないだろう。

そうすると、この物語の構成は、アメリカと関係ない国を守るためにアメリカ人が命を落としていると考える人たちには、お馴染みの光景と映るのではないだろうか。コロニー防衛軍はいまのアメリカと似たような矛盾を抱えているのかもしれない。

戦争の相手である異星人についても、スコルジーはなかなか健闘しているように思える。人間でなく、何をどう考えているか分からない異星人を物語として組み込むのは、もともと非常に困難なのである。ハインラインの「宇宙の戦士」ではクモのような異星人が現れるが、その異星人と闘っている姿は壮大な「害虫駆除」と言えるものにしかなっていない。

この物語でも、異星人はオリジナルの宇宙の戦士にならって、人間にまったく似ていない未知の異星人たちなのだが、クモよりも少しは人間に近い存在に描かれていて(笑)、多少とも物語に取り込むことにそれなりに成功している。完全に異質な異星人そのものを相手にドラマを構築するのは難しく、結局は人間側の物語が中心になる (なお、宇宙の戦士にはヒューマノイド型の宇宙人も登場する。念のため)。

そうなると、やっぱり物語の中心は軍内部の人間同士の物語が中心になるのは避けられない。そして、スコルジーは無理のある設定を逆手に取った美しい展開を提供するのである。

志願者の若い肉体は、65歳の時に提供してもらった遺伝子をもとに10年かけて作ることになっている。すると、75歳のときに結局志願しなかったものやそれまでに亡くなってしまった場合は、肉体が無駄になる。そこで、そういう肉体には人工の意識を埋め込んで、別の部隊、ゴースト部隊を編成しているというのだ。ジョンの妻のキャシーは遺伝子を提供したものの75歳になる前に亡くなってしまった。そして、ジョンは、ゴースト部隊の中に、妻のキャシーとそっくりな兵士を発見するのである。実際、それはキャシーの遺伝子を使ったゴーストのジェーンだった。ジョンは、ジェーンに接触して、二人はお互いを意識するようになる。

コロニー防衛軍の死亡率は非常に高く、ジョンと一緒に入隊した同期たちも次々に亡くなっていく。しかし、そんな中でジョンは生き残り、本書の最後には大尉まで昇進している。ジョンとジェーンの関係、そしてコロニー防衛軍そのものが抱える矛盾は、まだ解決されていない。続編ではその先が描かれるのでしょう。 

なお、日本語版の題名はヘミングウェイの「老人と海」をもじっていることはすぐにわかると思うけど、念のため。

★★★★☆

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