ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

これから中東の地政学に不可逆的に起こること

海から陸へ――中東のエネルギー地政学は変わるのか。

2026.4.6にホルムズ海峡のことを書いた。

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もしこのあとトランプが本当に米軍を引き上げたら、わしはトランプをまじですごいやつだと思っただろう(笑)。しかし、実際にはホルムズ海峡を放っておくことはできず、かといって泥沼の地上戦に突入することもできず、停戦交渉を装いながらずるずると時が過ぎている。

一方で、わしがすごいと思ったことは、グローバル市場経済の驚くべき柔軟性だ。ペルシャ湾の石油は世界の約30%を占めており、ホルムズ海峡を通過する石油の量は約20%だった。これがどうなったかというと、世界の産油国の増産、サウジアラビア、UAE、イラクなどのパイプライン輸送能力増強、石油高騰化による需要減退などで、実際の不足分は6〜7%程度らしい。これは市場で十分に調整可能な水準まで不足分が抑え込まれていると言える。

一説には、石油不足が本格化するのは6月以降なのだという。その根拠は、これまで備蓄の放出で持っていたのであって、6月以降は備蓄に頼れなくなるからだそうだ。しかし、日本のこれまでの実質的な備蓄の減少量が5日分と発表されているように、石油の代替調達は順調に進んでいる。そして何よりWTIやブレント原油価格が一時の120ドル台から現在は90ドル台に下がっているところをみると、市場は「石油は大丈夫だ」と思っているようだ。おそらく、石油の市場による調整はうまくいくのではないか。

石油だけでなく、中東でつくっていたほかのもの、アルミニウム、ヘリウム、窒素肥料は、完全に他国で代替可能だ。

つまりホルムズ海峡閉鎖の経済的ショックは克服されつつあるように見える。

一方で数年後のことを考えると、避けがたい流れに見えることがある。それは、ホルムズ海峡のリスクを認識した中東各国が、ホルムズ海峡を通らない迂回ルートを増強するであろうということだ。つまりパイプラインの新設、増設をするだろう。サウジアラビアは2本目3本目のパイプラインを作るだろうし、UAEもそうだろう。

パイプラインが充実すれば、ホルムズ海峡の戦略的価値は大きく低下する方向にいくだろう。 すると何が起きるのだろうか。

そのパイプラインがどのようなルートでつくられるかが、非常に重要な影響を与える。パイプラインは単なる輸送路ではなく、それが通る国や出口となる国の戦略的価値を大きく変えるからだ。

例えば、サウジアラビアのパイプラインが地中海に伸びる可能性がある。そうすればタンカーがスエズ運河を通らなくてすむからだ。この場合、その地中海側の出口がイスラエル付近になる可能性は高い。サウジアラビアとイスラエルの良好な関係を考えれば、あり得ない話ではない。そうなれば、イスラエルの戦略的価値は高くなる。

そして、パイプラインの必要性を認識したもう一つの国がイランだ。イランも米軍にホルムズ海峡を逆封鎖され石油の輸出ができなくなったからだ。つまり、イランはホルムズ海峡は実質的に管理しているものの、そこをいったん出たら米海軍の管理下になってしまう。したがってイランにもパイプラインを作る強い動機がある。かつてイランにはペルシャ湾から国を縦断して中央アジアの北へ向かうパイプライン構想があったそうだ。それが復活する可能性がある。

またイランだけではなく、イラクもパイプラインを中央アジアに接続するかもしれない。

もし中東と中央アジアがパイプラインでつながれば、そのときこそ地政学的に決定的な転換点になるだろう。なぜなら、それは中東と中国がパイプラインで結ばれることを意味するからだ。

こうしたパイプラインは、地政学の古典的な構図である「シーパワー(海洋国家)」と「ランドパワー(大陸国家)」の力関係にも影響を与える。ホルムズ海峡の価値が下がれば、米海軍を中心とした海洋覇権の影響力は相対的に低下する。一方で、陸路のエネルギー網が拡大すれば、中国・ロシア・イランといったランドパワー国家の結びつきが強まり、ユーラシア大陸内部の戦略的価値が上昇する。とくに中国は、中東からの石油を海上輸送ではなく陸路で確保できるようになり、エネルギー安全保障が大きく強化される可能性がある。

米国のイラン戦争によって、いま中国は何もしなくてもその価値が上がっている状態だ。実際、この数か月だけを見ても、ロシア、中東諸国、さらにはアメリカまでが中国との接触を強めている。各国が習近平との会談や電話協議を相次いで行っていることは、中国が国際政治における存在感を増していることを示している。 今後、パイプラインが充実すると、中国の戦略的価値はさらに上がるだろう。

こうして、イラン戦争は単なる地域紛争ではなく、世界のパワーバランスを“海中心”から“陸と海の二極構造”へと移行させる引き金になるかもしれない。ホルムズ海峡の価値が低下し、その分、ユーラシア大陸内部の価値が上がれば、それは戦争が終わっても元には戻らない、不可逆的な地政学の変化として記憶されるのではないだろうか。

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