ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

ヘタレイヤン コロナ陽性者に

コロナの第7波、BA.5が猛威を振るっていますね。

2022年7月23日、全国で初めてコロナの新規感染者が20万人を突破したという記念の日に、わしもその中に名を連ねました。ヘタレイヤン、めでたく陽性です。

実際に発症したのは21日だったのですが、2日後の23日になったのは、激増する感染者の波にもまれ発熱外来の予約がまったくとれず、この日にやっと診察してもらえたからです。(わしの自治体では電話予約しないで発熱外来へ直接行くことは禁止)。この経験から言えることは、きっと診察してもらえず新規感染者の数に入っていない発症者がたくさんいるんだろうな、ということです。

自治体の対応ですが、感染者の圧倒的な数に遅れぎみの対応でしたが、わしのいるところの自治体はそれなりに機能していました。

発症した21日、まったく発熱外来の予約が取れないので、どうしたものかと思って保健所に電話して相談してみると(なぜか保健所には比較的簡単につながった)、抗原検査キットの無料配布をしているからそれに申し込んだほうがいいと的確なアドバイスをくれました。さっそくネット経由で申し込んでみました。それはちゃんと発送されたようで無事に3日目の24日に届きました。その時にはすでに発熱外来が受けられていたので必要なくなっていましたが、発熱外来がまだ受けられていなかったら、これが頼りになったことでしょう。

発熱外来で陽性が確認された23日の次の日の24日には、保健所からマイハーシスのIDがちゃんと送られてきました。マイハーシスIDがもらえるとホテル療養の申込みができるので、たぶん無理だろうなと思いましたが申し込んでみました。すると、次の日の25日の夜8時ごろに電話がかかってきてホテル療養の準備ができた、というではありませんか。療養の部屋がすでにいっぱいと聞いていたので、びっくりです。

実は、わしは25日には平熱になり急速に元気になってきていたので(笑)、もうホテル療養は必要ないと断りましたが、でも自治体はきちんと機能しているんだとちょっと感動でした。担当者の方は夜遅くまで残業していて本当にご苦労さまです。

さて、25日に元気を取り戻したわしが、勤め先の会社に連絡してみると、自宅療養期間中でも症状に問題がなければ自宅からのテレワークであれば働いてもらっても構わない、というではありませんか。以前は症状が出ていなくても強制的に休みだったように記憶していたので、会社も柔軟な対応に変えたんだと思いました。

わしは別に仕事がしたいというわけでもありませんが、どうしても急ぎに片付けないといろんな人に迷惑がかかる案件があるので、自宅療養中ですが、本日26日から体調の様子をみながら、テレワークで働こうと思っているところです。(現在、26日の朝7時)。

今回の経験で、日本はデジタルではやっぱり遅れてはいる部分がそうとうあると思いました。例えば厚生労働省のマイハーシスのサイトも、スマホで表示させるとログインの入力画面がきちんと表示されない時があるのなど、ちょっと変(PCサイトの表示にするとちゃんと出てくる)。これだけ重要なサイトで、これまで国民からさんざん使われてきたはずなのにまだこんなバグが直っていないとはびっくりです。接触アプリのCocoaも、最初に使えない番号が送られてきたり(12時間後に別の使える番号が再送されてきた)、いろいろちょっと変。困ったことです。

自治体のサイトでも急激な感染者増加に対応できずに閉じているサイトもありました。(対応できなかったのは、途中でなぜか人間がいちいち確認の電話を入れるといった、人力が間に挟まっているへんてこなシステムだったから)。

とは言え、やはり電話とFAXのアナログの部分では、それなりに自治体はきとんと機能していたと思います。やっぱり日本は現場力の国なんだなあ、という認識を改めて思いましたね。

そういう現場力が強い日本は、なぜかデジタル化するときに人を間に挟む不思議な手順のシステムを作ってしまい、失敗するわけですが(笑)。

 

原郷の森

横尾忠則 文藝春秋 2022.3.25
読書日:2022.6.30

画家の横尾忠則が死者の集う「原郷の森」にアブダクト(拉致)され、そこで過去の画家、文学者など歴史上の彼が話したい人と自由に議論した内容を記録した本。

横尾忠則のことはあまり良く知らないが、わしはときどきNHKの日曜美術館を見ることがあって、かなり前だが、そこに横尾忠則が出てきたことがあった。彼はY字路の膨大な量の連作を描いているところだった。そのあまりの量に、よく飽きないなあ、と感心したものである。そういうわけで、横尾忠則のわしの印象は、過剰、あまりに過剰、というものである。

この本も内容は過剰だ。500ページに渡って、似たような議論が延々と続いているのだから。しかし、困ったことに、正直に言うと、これはとても面白かった。わしは飽きずに読むことができた。でもきっとほとんどの人には耐えられない気がするから、お勧めはしないんだが。似たような話といっても少しずつテーマがずらされて議論が進むため、全く同じというわけではない。そのへんのところが絵画でもたくさんのバリエーションを生み出している横尾の真骨頂なのかもしれない。

で、わしはここに書かれていることはきっと本当に起こったことなんだろうな、と思った。実際には彼の頭の中で起こっている妄想なのかもしれないが、彼自身にとっては本当に起こったとしか思えないことを記録のように書いているだけのような気がした。いちおう小説ということになっているのだが、きっと単純なフィクションではないだろう。

どうも彼はプリンスホテルで宇宙人に拉致された経験があるらしいし、リアルな夢を見てそれを作品にしているらしいし、難聴で聞こえないから自分の世界に入りやすだろうし、しかもこのコロナ禍の中、どこかに出かけるわけでもないし、現実としか思えない妄想が膨らみやすい環境である。というわけで、彼にとっては、ほぼノンフィクションなのであろうと思う。

で、原郷の森で霊的な宇宙人に聞いたところによると、彼は200回も生まれ変わっていて、メソポタミアのウルトにも、中世のヨーロッパにもいたことがあるらしい。へー、生まれ変わりを信じるんだ。なんか普通な感じだ。でも、もう十分生まれ変わって、レベルも上がったようで、もうこれ以上生まれ変わらなくてもいいんだそうだ。

なんかこんなふうにグダグダと書いているだけの本を面白いと思うのはちょっと悔しいけど(なぜ?(笑))、まあ、面白かったんだからしょうがない。

そういうわけで、横尾忠則に興味が湧いたので、次は彼が病気について語った本を読んでみようかな。

画家はこんなふうに、同じテーマを飽きずに描き続けることが多い気がする。小説家が同じ話を書くとマンネリと言われるのに、画家はそれが許されるというのはちょっといいなあ、と思った。まあ、作家も同じテーマを結局は何度も飽きるまで書いているんですけどね。

★★★★★

 

実在とはなにか 量子力学に残された究極の問い

アダム・ベッカー 訳・吉田三知世 筑摩書房 2021.8.30
読書日:2022.6.24

量子力学観測問題量子もつれに関するこれまでの進展と現状を報告し、物理学における実在について考察した本。

わしは学校で新しいことを習うと、さっそく躓くという経験をする人間のようで、物理学を習い始めた時にはニュートンの第2法則が分からず悩んだし(こちら)、実は小学校1年生のときには足し算すら分からなくなったことをここに告白しておいた(こちら)。

そんなわしのことだから、大学で量子力学を習ったときに、すぐにわけがわからなくなったことは当然である(自慢ではないが)。つまり、確率波の収縮とか、観測問題とか、量子もつれとかをいくら聞いても、さっぱり分からんのである。

しかしいままでと決定的に異なっているのは、量子力学に関しては、さっぱり分からんのはわしだけではなく、誰もがさっぱり分からんと言うことだった。それも当然で、量子もつれが本当に起こることが実験的に確認できたのが2015年のことなのだ。なお、この本ではクラウザーたちがおこなった1970年代の最初の実験について詳しく記載されているが、このころの実験は、穴があって、まだ反論が可能だった。

量子力学の面白いのは、これだけ誰もが基本原理が分からないと言っているのに、個別の問題になると、たとえばレーザの誘導放出の計算とかバンド構造とかが計算できちゃうことで、原理がわけわからんのにこれぐらい有用な理論もないということだ。そういうわけで、ほとんどの人間は基本原理には目をつぶって、個別の問題を解決することを優先する。この本の中でも、マーミンが「黙って計算しろ!」というのは、そういうわけだ。

まあ、わしは結局、量子力学に関しては最初の方を大学で聞きかじったぐらいで卒業してしまったが、量子もつれに関しては死ぬまでになんとか理解したいものだと思っているのだ。とても不思議だからね。

量子力学の基礎の背後にはなにか物理的な実在があることは確かだろうが、それはまだ見えない。

ところで、どの本にも詳しく書いてないので不思議に思っているのだが、2つの粒子が量子もつれ状態にあるのかないのかを、実験者はどのように判定しているのだろうか? だって量子もつれかどうかは観測できないよね? 観測したら量子もつれはなくなってしまうんだから。観測できないのに量子もつれの状態かどうかが分かるということがどうも不思議なのだ。

もうひとつ。この本では量子もつれがあるかどうかを実験的に確認する方法として、ベルの定理ベルの不等式)について、ルーレットを使った例で説明があるが、これがさっぱり理解できないので、ベルの不等式を理解したい人には、日経サイエンス2019年2月号の名古屋大学・谷村省吾教授の解説を読むことをおすすめする。たぶんこれが一番わかりやすい。日経サイエンスはほとんどの図書館にあると思う。

***** メモ ****
量子力学の不思議な性質を説明するには、いまのところ4つの仮説があるようだ。

(1)コペンハーゲン解釈
確率波や量子もつれと言った現象は計算のためのツールであり、実在しないという立場。確率波で計算しても、観測された瞬間にその一点に収束するという。量子力学は原子などの小さな世界でのみ適用でき、古典的な大きな物体には適用できないとする。あまりに説明能力が不足している説だが、計算上は何も問題ないので、ほぼすべての物理学者はこの説で量子力学を運用している。

(2)パイロット波解釈(デイヴィッド・ボーム)
量子力学では粒子と波の2重性があるとされているが、本当に粒子と波が分離してそれぞれ存在していると考える不思議な説。粒子はパイロット波という特殊な波によって導かれるという。2重スリット問題(粒子が1個の場合でも、2重スリットで干渉する問題)が説明できる。しかし2重スリットの片方に粒子が通過したかどうかの観測装置をおくと、干渉が消えてしまうのを、パイロット波ではどのように説明するのか、わしはいまいち理解できないのですが。

(3)多世界解釈(ヒュー・エヴェレット3世)
確率波の計算にしたがって、世界が分岐すると判断する解釈。最近では宇宙が誕生したときに、最初から宇宙としてそれだけの多数の数の宇宙が存在していると考えることが多いかな。インフレーション理論の人に多い発想だが、発想としてありえるのは理解できるが、そんなたくさんの宇宙が本当にあるのか、本当に分岐したのかも確認できないので、まったく魅力的ではない。

(4)確率波の自発的収縮
確率波は実在するが、ずっと維持されるものではなく、何らかのタイミングでランダムに自分で収縮すると考える説。ベルがこの説に興味を示していたという。

(5)仮想時空間説(ヘタレイヤン)
すみません。これは説ではなく、わしがこうだったら面白いと思う説です。わしは時間も空間もじつはある条件の宇宙にだけ発生し、つまり時間も空間も本質ではなく、一部の宇宙にある仮想的な存在に過ぎないのではないか、という気がしています。量子もつれがあるとき、じつは量子もつれのほうが本当に存在していて、それを時空間という特殊な条件で展開したときに、時空間に存在しているわしらからはそれが不思議な感じに見えるだけなのではないでしょうか?

*****メモ2*****
ポパー反証可能性

科学的かどうかを述べるときに、ポパー反証可能性が問題になることがある。ポパーは科学的な説の場合には反証可能でなければいけないと言った。これはわしもそう思っていたのだが、アダム・ベッカーはこの考え方はいまはほとんどの科学哲学では無視されているという。なぜならば、ある科学の仮説を実験してそのとおりにならなくても、それは反証にならないというのだ。その仮説が正しくても実験がうまくいかなかった原因は、その仮説が間違っていた以外にいくらでもあげることができるからだという。だから多世界解釈も反証不可能だからという理由で退けるべきでないという。

反証可能性って、いまでは廃れていたのか。そうなの?

***

(2023.2.13追記)

アダム・ベッカーは「ある科学の仮説を実験してそのとおりにならなくても、それは反証にならない」といっている。それはその通りだが、ポパーは実際にはそんなことは言っていない。ポパーは「こうすれば仮定が間違っているといえる、という条件を示すことができれば科学的だ」と言っているだけなので、その仮定自体を実験した結果について述べているわけではない。異なる実験でも別にいいわけで、アダム・ベッカーの言い分は間違っているのではないだろうか。

★★★★☆

ネイビーシールズ 特殊作戦に捧げた人生

ウィリアム・H・マクレイヴン 訳・伏見威蕃 早川書房 2021.10.25
読書日:2022.6.20

(ネタバレあり。注意)

アメリカ軍、特殊作戦部隊のトップに上りつめたマクレイヴンが、自分の人生に起きたトピックスを振り返る本。

マクレイヴンはネイビーシールズ出身だが、最終的にはあらゆる特殊作戦の指揮をするようになるので、ここ20年ぐらいのアメリカ軍の特殊作戦のほとんどを指揮している。そのピークはパキスタンに潜んでいたアルカイダのビン・ラーディンの屋敷を急襲して殺害した作戦だろう。それ以外にもイラクフセイン元大統領を捕獲した作戦や、映画にもなったソマリアの海賊に人質になった船長を救出する作戦を指揮している。

というわけで、こうした重責を担った有名な作戦が語られるのはもちろんだが、自伝ということもあり、偉くなる前のトピックスも多く、それらが面白い。どれも驚くほどリアルに、簡潔に書かれていて、ユーモアにあふれ、落ちも効いている。まさしく軍人が書いたお手本のような文章だ。非常に内容がこなれていることを考えると、きっとこれらのエピソードは酒の席でみんなに何度も語って聞かせたものなんじゃないだろうか。話し終わったあと、笑いが起きるのが目に見えるようだ。

たとえばカリブ海で作戦の予行演習中に漂流するはめになり、救援が来る間、仲間の士気を維持するためにジョークを話すエピソードがある。

バーにゴリラがやってきたジョーク話をしていたが、落ちを話すところでヘリコプターが来て救出された。帰還すると、くたくただったのですぐに休みたかったが、ウェットスーツを脱ぐ間もなく提督からすぐ来るようにとの厳命を受けたという。詳細な報告が必要ということだった。しかたなく車に乗せられて連れて行かれると、そこには200名以上の司令部のスタッフが彼を待っていた。実は漂流位置を知らせるソノブイにマイクが仕込んであり、200名の司令部のみんながマクレイヴンのジョークを聞いていたのだ。ところが、落ちを聞くことができなかったので、提督以下の200名が気になって、マクレイヴンを呼び出したのだった。マクレイヴンが落ちをいうと司令部は爆笑に包まれたという。(笑)

子供の頃の初めての特殊任務の話も面白い。

父親も軍人だったので、基地の近くに住んでいたのだが、友達と一緒に基地のフェンスを乗り越えて中に潜入し、無事に帰還するというミッションを自分でこしらえて、それを決行したのだ。ところが発見されて騒ぎになり、おもちゃの拳銃をなくしたものの、なんとか逃げることができた。ところが家に帰ると、父親が待っていて、基地でこういう事があったがなにか言うことはないか、と問い詰められたという。著者は知らないと言い張り、父親はがっかりした顔をしたが、そのまま解放してくれた。ホッとして部屋に帰ると、そこには無くしたはずのおもちゃの拳銃がベッドの上に置かれていた、という落ちだ。

これに対して、21世紀に入って、特殊作戦全般を率いるようになってからのエピソードは、あまりに重責で、酒の席で語るには不適なものだ。実際の作戦はあまりに生々しすぎる。ネイビーシールズだけではなく、すべての特殊任務を担当し、陸軍など各軍の特殊部隊を使うので、いろいろ気を使う場面もありそうだ。

アフガニスタンの司令部では合板で作られた基地であり、そこで寝泊まりし、気晴らしはトレーニングルームで身体を動かすことぐらいしかなく、寝るときには睡眠誘導剤をつかうというような生活だ。驚いたことに、その頃は1日平均10件もの特殊任務を行っていたという。ほとんどはヘリコプターで急襲して、すぐに撤収するような任務なのではないかと思われる。テロなどの非対称な戦争では、特殊任務の出番が激増するのだ。そしてのちのち語り草になるような作戦も、こうした毎日の作戦のひとつでしかないという感じだ。

作戦は兵士が身に付けたカメラにより映像化され、オンラインで司令部だけではなくワシントンや他の基地ともリアルタイムで情報が共有され、休むときがない。たまに故郷に戻れても、すぐに自宅に設置された専用電話が鳴って呼び戻される。家族の協力なしには不可能なキャリアだ。彼は自分の妻の選択は間違っていなかったと、繰り返し妻に感謝を述べている。

米軍独自の雰囲気なのかもしれないが、米軍では仲間のためにという発想が本当に強いようだ。命を託し、託されるという関係なのだから当然なのかもしれないが、お互いの関係は極めて濃厚だ。ここまで濃厚な関係を築くと、もう他の世界は考えられないのかもしれない。兵士というのは常に前向きで、たとえ思い障害を背負ったとしても、誰一人として前向きさを失わない、と著者は断言する。

ビン・ラーディンの死体を確認して、正義が執行されたと言い切るのには、一般人のわしには少し違和感があるが、しかし著者にしてみれば当然のことなのだろう。敵を殺すのに躊躇しないのが彼らなのだから。ビン・ラーディンの死体は海上で水葬にされたという。きっと墓を作って聖地化させないための工夫なのだろう。

国に命を捧げる軍人というのは、自分たちの役目に疑問を持たずにすむという点で、ある意味幸せな人たちなのかもしれない。(国が大切に扱ってくれるならば、だろうけど)。

★★★★☆

中国キングソフトがWPS Officeで書いた私的文書を無断検閲

 

今日(2022.7.16)、なんとなくスマホでニュースを見ていたら、とんでもないニュースが飛び込んできて目を疑いました。

表題の通り、中国キングソフトが出してるなんちゃってMS Officeという位置づけのWPS Officeですが、なんとNGワードが含まれているとアクセスできなくなるようにしているというのです。

「中国ネット検閲「個人文書」にも、頭の中も監視か」
https://jp.wsj.com/articles/a-frozen-document-in-china-unleashes-a-furor-over-privacy-11657905185
ウォール・ストリート・ジャーナルと契約していないと読めないので、あしからず)

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、中国のある小説家志望の女性がいつものようにクラウド上の自分のファイルにアクセスしようとしたら、WPSというソフトが警告を出して、そのファイルにはアクセス禁止!と言われたというのです。

どうも彼女の小説の中に政治的にNGなワードが含まれていたかららしいのですが、政府がやったのではなくて、キングソフトのWPS自身がその警告を出したのです。つまりソフトウェアの中にネット上の自動検閲に連動する仕組みが入っているということになるでしょう。

彼女のようにクラウド上にあるファイルならまだ分かりますが(中国政府が徹底的にネット監視をしているため)、自分のパソコンだけにしまっていた私的な文書も検閲しているという報告もあります。(キングソフト側は否定)。なぜそれが検閲対象になったかというと、WPSが勝手に文章をネット経由で送っていたからという、ほんまかいなという説明が付いています。

この記事にわしが反応したのは、わしのもっている古いパソコンにこのWPSが入っているからです。実際にはほとんど使っていませんが、しかし何度か使ったことはあります。

日本のパソコンにWPSが最初から入っていたということはよくあることじゃないでしょうか? WPSはネット上で自動バージョンアップされていますから、最新バージョンが検閲バージョンになっていないとも限りません。

今年(2022年1月)から日本のキングソフトはWPSクラウドという製品を発売しています。このクラウドってどこにデータセンターがあるんでしょう。中国だったら、確実に検閲されていますし、WPS自体に検閲機能が入っている可能性も高そうです。

まじで、中国のソフトウェアもアプリもスマホもパソコンもやばすぎる、と思いました。わしは、次のスマホをシャオミ(小米)にしようかな、と思ったこともありましたが、とんでもない話です。

わしはクラウド上のグーグル・ドキュメントでこれを書いていますが、グーグルがこんなことをしたら、頭にきて絶対に裁判に参加するでしょう。というか、そもそも会社存続の危機に見舞われるんじゃないでしょうか。

 

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相

ジョン・キャリールー 訳・関美和、櫻井祐子 集英社 2021.2.28
読書日:2022.6.16

スティーブ・ジョブズを崇めるセラノス創業者、エリザベス・ホームズが、現実歪曲フィールドに関してだけはジョブズを越えたことを報告する本。

エリザベス・ホームズとその会社セラノスに関しては現在どうなったかはよく知られている。セラノスは解散し、エリザベス・ホームズは詐欺で告発され裁判中である。そういうわけで、この本は犯人が分かっているミステリーのように、いかに詐欺が行われ、どうして長年ばれなかったのか、という点が最大の関心事なのだ。

なにしろセラノスの創業は2003年である。そしてウォール・ストリート・ジャーナルがこの本の著者であるキャリールーによる告発記事を出したのが2015年である。いくらなんでもこんなに長く嘘をつき通せられるものだろうか?

そういうわけで結末の分かっているドラマなのに、この本はすこぶる面白いのである。ここには詐欺で起きる基本的なことがすべて起こっている。

まずエリザベス・ホームズは嘘を付いていない。少なくとも彼女が目指すビジョンについてだけは。そのビジョンとは血液1滴のみの手軽な血液検査で顧客の健康を守る、というビジョンである。彼女はこのビジョンを心から信じていたし、できるとも信じていた。

一方、それを聞く方もそのビジョンは素晴らしいと直ちに納得できた。そのくらい単純明快で、理解ができるものだった。これはとても重要だ。

そして、なによりベンチャーキャピタルは、若いカリスマ性のある女性の起業家というのを待ち望んでいた。見た目も、話も、彼らが望むものをエリザベス・ホームズは提供したので、誰もがそれを信じたがったのである。

エリザベス・ホームズに足りなかったのは技術に関する情熱だけだった。彼女は19歳のときにパッチ型の血液検査装置の特許を出願したが、特許はアイディアが新規であればいいので、実現性にかんしてはある程度の可能性があれば取得は可能だ。例えば、針のついたパッチ部分が新規であればよく、検査手法に関しては既存の検査方法を使えると書いておけばそれでいい。

わしの思うに、特許が実際に取得できた時点で、それは実現可能と認められた、と彼女自身が信じ込んだのではないか。繰り返すが、特許はアイディアなので、たとえ取得できたとしても、実用化しようとしたとたん想定されなかった困難に直面して、失敗することは普通である。実現できなかった素晴らしいアイディアは世の中に履いて捨てるほどある。そこで、その困難な部分を新しい課題としてまた新しい発明がなされるのである。技術とはアイディアの集積の上に成り立っていて、みんなの知恵を集める仕組みが特許なのだ。

エリザベス・ホームズは特許が取れたことに満足して、そしてそれ以上技術に関しては関心がなくなり、他人任せで何も関与しなくなったのである。当然ながら20歳で中退した学生に血液検査の技術の細部が分かるはずがない。彼女が知っていたのはきっとインターネットで手に入るレベルの知識でしかなかっただろう。しかも医療機器には、行政の許認可が必要なのに、その辺の知識もどのくらいあったのか不明だ。結局、彼女がしたかったのはお金儲けであり、技術でもなく、さらに悪いことに顧客の安全でもなかった。

一方、スタイルに関してはスティーブ・ジョブズを真似しようとしており、黒のタートルネックのセーターを着て、製品のデザインにだけは口を出した。そして素晴らしい外装で覆ったマシンはそれらしく見えたし、中身については企業秘密ということで見せなかった。

また、たとえば取締役にシュルツやキッシンジャーなどの大物を揃えるとか、カリフォルニアで一番の弁護士を雇って内部告発しようとした社員や邪魔になった人を脅かすことは熱心だった。この点に関しても、ジョブズを越えたといえる。

こうして、なんの技術もないのにあるかのように見せかけて、しかもサービスを提供する契約をどんどん取っていたのだから、遅かれ早かれどこかの時点で詐欺がバレることは確かだったし、本人たちも分かっていたはずである。きっとそれまでになんとかなると思っていたのだろうけど。

結局、現在のお金あまりの世界で規模が派手になっただけで、詐欺の基本は何も変わっていない。とくに騙す側が信じ込んでいて、騙される側にも信じたい理由がある場合は難しい。

非常に幸いなことに、セラノスの検査で人が死んだという記述はなかった。

★★★★★

 

起業のすすめ さよならサラリーマン

佐々木紀彦(PIVOT創業者) 文藝春秋 2021.10.30
読書日:2022.6.12

東洋経済オンライン編集長をしていた著者が、批評する立場から自ら起業する身となり、まるで自分を鼓舞するために書いているような、読者にも起業をすすめる本。

まあ、くどいですが、わしは起業する意思がありません。でもなぜかこうして起業に関する本をよく読みます。もしも起業することになっても、きっとそれはなにかの成り行きで、自分から求めてのことではないでしょう。

さて、起業といっても、佐々木氏は本物の起業だけではなく、働くすべての人が自らリーダーシップをとって新しいことに挑戦することすべてを起業としたい、みたいなことを言っています。

そうは言っても、日本が大好きだと公言する佐々木氏は、なんとか生活費を稼ぎたいというしょぼい起業家への目線は全くありません(笑)。日本を引っ張っていく、いや日本こそが世界を引っ張っていくような、そんな起業家を求めていることは間違いないでしょう。盛んに、起業は儲かる、宝くじよりはましだ、と果てしな煽る話が続きます。

そして起業はハードワークで、起業家とはまるで身体にも精神状態にも気を配っていつでも100%のアスリートのようでなくてはいけない、などと氏は言います。

え〜っ、やっぱりそんなのやだ。やるんなら、だらだら一日数時間働いて、生活費ぐらいはなんとか出そう、そんなしょぼい起業がしたいです。でもきっとそんなしょぼい起業でも、それなりに大変なんだよね。だから、わしはやらない。

起業の成功率が高いのは40代だそうです。もちろん、氏も40代です。どうかこの起業が成功しますように。そして、株式市場で氏と再会できますように。

★★★☆☆

 

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