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RISE ラグビー南ア初の黒人主将シヤ・コリシ自伝

シヤ・コリシ 訳・岩崎晋也 東洋館出版社
読書日:2024.4.2

ポートエリザベスのタウンシップ(黒人居住地)出身のシヤ・コリシが、食べるのにも苦労するような境遇からラグビーでチャンスを掴んで成功し、南ア代表チーム、スプリングボックスの主将に選ばれて、2019年ワールドカップで優勝するまでの自伝。

ラグビーが国民的スポーツである南アの代表チームの主将ということになると、単なる成功したスポーツエリートでは済まないのである。あまりにも影響が大きく、もはや南アの社会全体を代表し、国民を導くくらいの気概と高い精神性が求められるのは明らかなのだ。それは例えば、映画「インビクタス 負けざる者たち」に描かれている通りなのだ。

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というわけで、シヤ・コリシも成功していくに従って、自分を改造していく必要に迫られる。なので、この本は自伝ではあるが、まるで自己啓発書のようでもあり、ビジネス書のようでもある。

シヤは1991年6月にポートエリザベスのタウンシップ、ズウィデに生まれた。

タウンシップではケンカが絶えないし、男は酒を飲んで女に暴力を振るうし、仕事も少なく、結果として家庭を維持することは極めて困難である。シヤの家庭も崩壊してしまい、シヤはほぼ祖母に育てられるという状況だ。

祖母はガラス工場で働いていたが、首になると収入が減ってしまい、食事もままならなくなる。祖母はシヤの食事を優先して育ててくれたが、それでも飢えが最大の問題で、水を飲んで我慢する日も度々あったという。その祖母が亡くなると、叔母が育ててくれた。

そんな境遇でもシヤはラグビーに夢中になる。そこでシヤの将来を親身に考えてくれるコーチ・エリックと出会う。コーチ・エリックはグレイ校という名門で学ぶ奨学金の世話をしてくれたのだ。

グレイ校は寄宿学校で、軍隊式にすべての行動が分単位で決められて、そのとおりに生活しなくてはいけなかった。しかし、そんなことはどうということもなかった。何しろシヤは初めて飢えから解放されて、好きなだけ食べられたのだから。それに素晴らしいことに、グレイ校には800人の学生のうち黒人が50人いたが、黒人に対する深刻ないじめはなかったのだという。

興味深いのは、最初の1年は英語を覚えるのに費やされたことだ。シヤはコサ語を話していたのだ。なるほど、黒人がなかなか成功しないのには、そういう問題もあるわけだ。仲間たちが英語を覚えるのに協力してくれたという。

白人の友達の家に招待されることもあったが、そこで友達が親と議論しても殴られないことに衝撃を受けている。自分の故郷のタウンシップでは絶対に無理だと。

ラグビーの方は南アの高校代表に選ばれて、プロ契約もするなど順調に進んだ。しかし、父親がやっていたように酒を飲むようになる。その飲み方が凄まじくて、飲み始めると倒れるまで飲むのだ。飲酒の悪癖に悩まされる。もちろん、性的な誘惑も多い。

そんなときに知り合ったのが独特の存在感のある白人女性のレイチェルだった。2012年のことである。彼女はかなり過酷な人生を送り、自分の人生と闘っているような女性だった。なにより他の女性と違って、シヤがプロのラグビー選手であることをなんとも思っていなかったのだという。二人は恋に落ちる。二人の結婚は黒人と白人の双方から非難を受けたそうだが、これまで自分の道を進んできた二人には恋に落ちたことが全てで、ほかは関係なかった。

さらにレイチェルの影響で、シヤはキリスト教の洗礼を受ける。

こうしたことが転機になるのだが、それはすぐにではない。2019年の南ア代表のスプリングボックスの主将に任命されるまで、シヤの悪癖は続くのである。

主将になって、キャプテンとしての振る舞いやリーダーシップについて学び、そうする中でキリスト教のメンターとしてベン・スクーマンという人物をレイチェルから紹介され、「生活を変えるか、すべてを失うか」という状況に追い込まれて、自己変革を遂げたのである。

こう考えると、シヤが変わったのは、究極的には2019年のワールドカップでキャプテンとして全力を尽くすためで、そのためには何でもする、という気持ちがあったからだということがわかる。ラグビーが彼を救ったのだ。

そして、それは、もちろん2019年のワールドカップ優勝という結果に現れている。

ちなみに、シヤは2015年の日本ワールドカップにも出場している。その大会で、南アは日本に劇的な番狂わせで敗北している。これは本人にとってもよほど悔しくて衝撃的だったのか、この本でも数ページにわたって試合展開が詳細に述べられている。お返しに、2019年のワールドカップでは南アは日本をコテンパンにやっつけているのだが(笑)。

2020年、シヤはレイチェルとコリシ財団を作って、南アの発展に尽くしている。

まあ、とりあえず、この本で南アの現在位置は確認できたかな。異人種混合で世界で一番なんとかなっている国のひとつなので、こんごも注目していきたいです。

★★★☆☆

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