懲役太郎、草下シンヤ 彩図社 2022.4.21
読書日:2024.3.31
裏社会のことを語っている人気バーチャルYouTuberの懲役太郎と裏社会の本をいろいろ書いている草下シンヤが裏社会について語る対談形式の本。
ここでは反社会勢力として、ヤクザと半グレ、外国人マフィアが出てくるんだけど、やっぱり伝統的なヤクザの生態が興味深い。
ヤクザは、トップのことをオヤジ、オヤジの彼女のことをアネサン、先輩のことをアニキなどと呼び合って、擬似家族を形成している。そして、上の言う事は絶対で、オヤジが黒いカラスを白といえばそれは白になる。そして、このルールを守らないと報復(逆縁というらしい)される。
なぜこうなるのか?
懲役太郎の言うには、これは最終的には自分の身を守るためだという。
ヤクザの構成員は、他に行き場がなくてそこにたどり着いたものたちばかりである。そのような人間が集まって組織を統制するのは、最低限のルールが必要で、それが上を立てるということだという。そしてそれは自分の身を守ることにもなるという。ルールを破ったら、そいつはヤッてもいい、ということになるという。
この最初の部分を読んで、うーん、と考え込んでしまった。
これって、家父長制の起源について述べたデヴィッド・グレーバーの言う通りじゃないの? ゴッドファーザーのような映画を見ても、マフィアも疑似家族的だし、反社会的な組織は疑似家族を形成するという傾向があるらしい。
懲役太郎の言うには、これは武士の家族制度や養子をとる商人の家族を参考にしているということらしいので、ヤクザの疑似家族制度はもともとあった家族制度を採用したということなんだけど、人類史的な順番はどちらが先かは分かったものじゃない。
半グレはクラブ活動のノリの集団だそうで、結束力が弱い。組織として固定化していないので、警察も動きにくくて、その隙間を突いて成長した。
ヤクザのターゲットが会社などの企業や団体を相手にしているのに対して、半グレは弱い個人を対象にしているのだという。オレオレ詐欺や点検強盗(ガス点検を装って押し入る強盗)、AV、スカウト、出会い系サイトなどをやっている。個人として気をつけないといけないのは、ヤクザよりこっちの方かな。
ただし半グレの中でも結束力の強い、怒羅権や関東連合などはすでに準暴力団組織に指定されているそうだ。怒羅権は中国系で、中国という母体があり、結束力がある。仲間がやられるとすぐに集まって、ボコボコにするんだそうだ。こういう強いグループはブランド化していて、メンバーは怒羅権と名乗ることに誇りを持っているらしい。へー。
SNSなんかが発達した現代では、半グレよりも普通の子がやばいという。現代では見かけがちゃらちゃらしているのは本当は怖くなくて、警官からの職質を受けたことのないような普通の子供のようなのが怖いのだそうだ。
闇バイトでは、UD(詐欺の受け子(U)と出し子(D))などを集めるリクルーターという仕事があり、これをやっているのが普通の子供だという。スマホを使って、情報をつなぐだけなので、圧倒的に効率よく稼ぐことができるのだという。企業などを相手にするヤクザからしたら、異次元の稼ぎ方らしい。彼らは非常に冷めていて、裏社会で稼いでいるけど、将来本格的にアウトローになることはなさそうで、淡白な正確なんだけど、やることはえげつなくて、そのアンバランスが「ヤバい」んだそうだ。
薬物では、ヤクザが扱うのが圧倒的に覚せい剤(シャブ)で、それは扱いやすいからだそうです。大麻と違って長期保存が可能で、物価が安定しているのだという。
笑ったのは「宇宙戦争」の話で、シャブ中の人間が突然、宇宙戦争を始めちゃうのだという。夜中に突然みんなを叩き起こして、「攻めてくるから、みんな逃げろ!」と叫びだすのだという。シャブで幻聴が起きるのだけれど、幻聴だと気が付かずに宇宙人の交信と勘違いするんだそうだ。シャブを打つと声の高音が出るようになるんだそうで、芸能人がそのために使うこともあるんだそうだ。
コカインは生産国が中南米で、なかなか入ってこないから高くて扱いにくい。ヘロインもおなじだそうだ。一方、半グレ系はパリピだから大麻、コカイン、LSD、MDMAが流行っている。カルチャーが少し違うのだという。
警察や刑務所の話も出てくるけど、心に刺さったのはヤクザの子どもの話かな。ここでは、実際にヤクザの子供が出てきて、18歳のときにオヤジが殺されて、突然ライフラインが途絶えて大学進学もできず、そのうち妹も自死してしまい、心が無になって、未公開株や社債詐欺まがいのことをやって儲けたけど、子供ができたので真っ当な仕事をすることにして、いまは宅建の資格を取って不動産業をしているんだそうだ。
懲役さんのユーチューブは人気だそうだけど、まあ、こんな話はなかなか聞けないから、需要はあるよね。
★★★★☆