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自閉症は津軽弁を話さない 自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く

松本敏治 角川ソフィア文庫 2020.9.25
読書日:2022.2.3

青森で臨床発達心理士の妻が話したことをきっかけに研究に乗り出した著者が、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder、ASD)の子供のことばを覚えていく過程が通常の定型発達(Typically Developingt、TD)と異なることを明らかにした本。

障害児心理を専門にしている著者は、妻の「自閉症の子は津軽弁を話さない」という言葉をはじめは信じなかったという。自閉スペクトラム症の子は話し方が独特なので、津軽弁のように聞こえないだけ、と考えた。しかし妻がそうではないと繰り返し主張するので、青森の関係者にアンケートを取ってみると、確かに多くの人が自閉スペクトラム症の子供は津軽弁を話さないという認識だった。一方、知的障害(Intellectual Disability、ID)の子は普通に津軽弁を話すということだった。

そこで全国にアンケートを広げてみると、単に青森だけの話ではなく、全国的にそうであることが分かった。しかし、なぜかということが分からなかった。それだけではなく、自閉スペクトラム症の子は方言の語彙自体も持っていないことが分かった。彼らの辞書に方言の単語はないのである。

そうすると単に自閉スペクトラム症独特の話し方のせいではないし(音韻・プロソディ障害仮説)、言語以外の身振り手振りや間のとり方の問題でもない(パラ言語理解障害仮説)。終助詞(〜よう、〜だよ、等)の感情に関係ある終助詞の使い方の問題でもない(終助詞意味理解不能仮説)。ともかく、方言に使われる単語自体を身につけていないのだから。

ここで、自閉スペクトラム症の子供が実際に言葉を学んでいく実例を確認して、ようやく理解が進んだのだという。自閉スペクトラム症の子供は、主にテレビなどから言葉を学んでいたのだ。とくに字幕を表示させてそれを読むことで飛躍的に語彙(というか言い回し?)が増えるのだという。自閉スペクトラム症のひとは、覚えた大量のフレーズを引用して、会話を形成しているのだという。

テレビなどから覚えるのなら、それは標準語しか覚えられなくても当然である。しかしそうすると次の疑問が生じる。なぜ自閉スペクトラム症の子は、周りの人から言葉を覚えないのだろうか。それは彼らにとって難しいのだろうか。

しかしそれは難しいことなのだ、ということを著者は理解するのである。通常の子供が言葉を覚える場合、相手が言った言葉を理解するには、相手がどういうシチュエーションでそう言ったかを理解する必要がある。つまり、相手の立場に立って考えることができなければいけない。そうして初めて、自分が同じ立場になったときに、その言葉を使うことができる。

ところが、自閉スペクトラム症の子は、この相手の立場に立って考えるということが非常に難しいのだ。自閉スペクトラム症とはそもそもこうした社会性が欠落した症状のことらしい。相手がどういう立場でそれを言っているのか理解できないのだから、その言葉が身につかなくて当然なのだった。

人間の脳は社会的なことを理解するために発達したという「社会脳仮説」があるが、この機能は比較的進化の新しい現象だから、そういう機能が弱い人が一定数出てくるということなのかもしれない。社会性を理解する心理学は一般に「心の理論」と言われているのだそうだ。

結局、著者は妻の言った言葉を理解するために、そもそもの心の理論にまでさかのぼって考えることになった。

なるほどねえ。それにしても、「社会脳仮説」はいろんな場面で使えるなあ。やっぱりこの仮説は正しいんじゃないだろうか。

★★★★☆

 

 

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