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ネイビーシールズ 特殊作戦に捧げた人生

ウィリアム・H・マクレイヴン 訳・伏見威蕃 早川書房 2021.10.25
読書日:2022.6.20

(ネタバレあり。注意)

アメリカ軍、特殊作戦部隊のトップに上りつめたマクレイヴンが、自分の人生に起きたトピックスを振り返る本。

マクレイヴンはネイビーシールズ出身だが、最終的にはあらゆる特殊作戦の指揮をするようになるので、ここ20年ぐらいのアメリカ軍の特殊作戦のほとんどを指揮している。そのピークはパキスタンに潜んでいたアルカイダのビン・ラーディンの屋敷を急襲して殺害した作戦だろう。それ以外にもイラクフセイン元大統領を捕獲した作戦や、映画にもなったソマリアの海賊に人質になった船長を救出する作戦を指揮している。

というわけで、こうした重責を担った有名な作戦が語られるのはもちろんだが、自伝ということもあり、偉くなる前のトピックスも多く、それらが面白い。どれも驚くほどリアルに、簡潔に書かれていて、ユーモアにあふれ、落ちも効いている。まさしく軍人が書いたお手本のような文章だ。非常に内容がこなれていることを考えると、きっとこれらのエピソードは酒の席でみんなに何度も語って聞かせたものなんじゃないだろうか。話し終わったあと、笑いが起きるのが目に見えるようだ。

たとえばカリブ海で作戦の予行演習中に漂流するはめになり、救援が来る間、仲間の士気を維持するためにジョークを話すエピソードがある。

バーにゴリラがやってきたジョーク話をしていたが、落ちを話すところでヘリコプターが来て救出された。帰還すると、くたくただったのですぐに休みたかったが、ウェットスーツを脱ぐ間もなく提督からすぐ来るようにとの厳命を受けたという。詳細な報告が必要ということだった。しかたなく車に乗せられて連れて行かれると、そこには200名以上の司令部のスタッフが彼を待っていた。実は漂流位置を知らせるソノブイにマイクが仕込んであり、200名の司令部のみんながマクレイヴンのジョークを聞いていたのだ。ところが、落ちを聞くことができなかったので、提督以下の200名が気になって、マクレイヴンを呼び出したのだった。マクレイヴンが落ちをいうと司令部は爆笑に包まれたという。(笑)

子供の頃の初めての特殊任務の話も面白い。

父親も軍人だったので、基地の近くに住んでいたのだが、友達と一緒に基地のフェンスを乗り越えて中に潜入し、無事に帰還するというミッションを自分でこしらえて、それを決行したのだ。ところが発見されて騒ぎになり、おもちゃの拳銃をなくしたものの、なんとか逃げることができた。ところが家に帰ると、父親が待っていて、基地でこういう事があったがなにか言うことはないか、と問い詰められたという。著者は知らないと言い張り、父親はがっかりした顔をしたが、そのまま解放してくれた。ホッとして部屋に帰ると、そこには無くしたはずのおもちゃの拳銃がベッドの上に置かれていた、という落ちだ。

これに対して、21世紀に入って、特殊作戦全般を率いるようになってからのエピソードは、あまりに重責で、酒の席で語るには不適なものだ。実際の作戦はあまりに生々しすぎる。ネイビーシールズだけではなく、すべての特殊任務を担当し、陸軍など各軍の特殊部隊を使うので、いろいろ気を使う場面もありそうだ。

アフガニスタンの司令部では合板で作られた基地であり、そこで寝泊まりし、気晴らしはトレーニングルームで身体を動かすことぐらいしかなく、寝るときには睡眠誘導剤をつかうというような生活だ。驚いたことに、その頃は1日平均10件もの特殊任務を行っていたという。ほとんどはヘリコプターで急襲して、すぐに撤収するような任務なのではないかと思われる。テロなどの非対称な戦争では、特殊任務の出番が激増するのだ。そしてのちのち語り草になるような作戦も、こうした毎日の作戦のひとつでしかないという感じだ。

作戦は兵士が身に付けたカメラにより映像化され、オンラインで司令部だけではなくワシントンや他の基地ともリアルタイムで情報が共有され、休むときがない。たまに故郷に戻れても、すぐに自宅に設置された専用電話が鳴って呼び戻される。家族の協力なしには不可能なキャリアだ。彼は自分の妻の選択は間違っていなかったと、繰り返し妻に感謝を述べている。

米軍独自の雰囲気なのかもしれないが、米軍では仲間のためにという発想が本当に強いようだ。命を託し、託されるという関係なのだから当然なのかもしれないが、お互いの関係は極めて濃厚だ。ここまで濃厚な関係を築くと、もう他の世界は考えられないのかもしれない。兵士というのは常に前向きで、たとえ思い障害を背負ったとしても、誰一人として前向きさを失わない、と著者は断言する。

ビン・ラーディンの死体を確認して、正義が執行されたと言い切るのには、一般人のわしには少し違和感があるが、しかし著者にしてみれば当然のことなのだろう。敵を殺すのに躊躇しないのが彼らなのだから。ビン・ラーディンの死体は海上で水葬にされたという。きっと墓を作って聖地化させないための工夫なのだろう。

国に命を捧げる軍人というのは、自分たちの役目に疑問を持たずにすむという点で、ある意味幸せな人たちなのかもしれない。(国が大切に扱ってくれるならば、だろうけど)。

★★★★☆

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