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個人投資家目線の読書録

良いデジタル化 悪いデジタル化 生産性を上げ、プライバシーを守る改革を

野口悠紀雄 日本経済新聞社 2021.6.18
読書日:2021.8.13

日本のデジタル化が進まないのは、日本の組織構造にあり、意識を変えない限り不可能と主張する本。

野口悠紀雄はわしの敬愛する経済学者で、仕事の生産性をあげようという意欲に溢れた人でもある。彼の手法は特殊なアプリを使うとかではなく、誰でも使える、使っているようなツールを最大限用いるのが特徴で、インターネット時代の今のお気に入りはグーグルの提供している各種無料のツールを使うというものだ。

わしもグーグルのツールを使っているが、まあ例えばこのブログはまずはグーグル・ドキュメントで書かれている。いつでもどこでも、どんなデバイスでも使って編集できるから便利。スプレッドシートも個人で使う場合はグーグル・スプレッドシートを使っていて、ほとんどの自分の個人情報はグーグルドライブに保存されているから、野口さんと同じように、グーグルになにかあると一瞬で何十年分の個人データを失ってしまうだろう。

まあ、そういう彼から見ると、日本のデジタルはまったく信じられないという状況なのであるが、その問題点はここ20年以上IT産業について言われ続けたことと一致する。具体的には、トップがITに無理解、理解してないので丸投げ、受注した方は下請けに丸投げ、だから責任の所在が不明確、などだ。

彼によると、メインフレームの頃は日本のITは世界の先端を走っていたのだそうだ。そうだったのか。一瞬でも世界の先端に立ったことがあったのか。たぶん1995年くらいまではそうだったのだろう。これはメインフレームの設計が日本の縦割りの組織に合致していたためで、なんの苦労もなく、適応したからという。

ところがパソコン、インターネットの分散、オープンの世界になるとそれは日本の組織に適合していないので、移行することができなかったという。それは今でもそうで、日本社会はまったく対応できていない。2001年に、日本はIT強国になることを宣言して、2005年までにすべての行政をデジタル化することが謳われたが、みごとに失敗した。そして、いまはDX(デジタルトランスフォーメーション)と言葉は変わったが、同じ問題をずっと言い続けている。

結局、日本の組織構造に根ざした問題なので、日本人の意識構造が変わらないと難しいという。じゃあ、どうしたらいいかということは野口さんにもわからないようだ。

技術的にいえば、IT化で一番の問題は個人認証なんだそうだ。中央集権的な個人認証、たとえば「IDとパスワード」的な認証をいくら精緻に設計しても、なりすましを完全に防ぐことはできない。それに、数年ごとに更新を行うという面倒な作業が避けられない。

そこで、分散的なブロックチェーン技術を使えば、ほぼ1回の登録でずっと認証が可能で、しかもプライバシーも確保できるという。

なるほど。

それは分かるのだが、実はわしはブロックチェーンについて根本的にわからない点があり、この本でもそれについては書かれていなかったので、ここに書いておく。その問いは以下のようだ。

ブロックチェーンの分散台帳を管理するサーバは誰が用意し、誰が管理し、そのコストは誰が負担するのか。

この問いの答えが知りたい。

原理的にはブロックチェーンを使う人が全員サーバを用意し、全員が台帳を保管するということになるのかもしれないが、そんなことは現実的にありえないから、多分サーバは台帳の規模により、数台とか数10台とか、あるいは数万台になるとかになるのだろう。しかし1台ということはありえない。それでは分散台帳の意味がない。

このサーバは誰が用意して、誰が管理するのだろうか。サーバは独立した存在が複数必要になるから、なにか複数の業者が必要になるのだろうが、実際どうやってるんだろうか。どこか、例えばブロックチェーンを受注したIBMなんかがひとりで複数のサーバを管理する、なんてことにはならないんじゃないかと思う。

費用自体はたぶんそのブロックチェーンの管理を委託した組織、例えば国市町村が税金から払うんだろうけど。

ブロックチェーンは、データのブロックごとにそのデータの内容から得られる数値に対応した素数を発見して、その素数でブロックを閉じる必要がある。いわゆるマイニングと言われる操作だ。ビットコインではこの数値を発見した人にはビットコインを報酬として与える。だからマイニングは自主的に行われるのだが、それ以外のブロックチェーンでは、その費用を誰かが払って計算をしてもらわなくてはいけない。その費用も負担しなくてはいけない。

ビットコインでは一番最初に数値を発見した人にのみ報酬が支払われるので、マイニングをする人には高速なコンピュータ使い、多くの電力を使う。でも例えば行政のデータに関しては、そんなに急ぐ必要はないから、きっとパソコンレベルで十分だろう。だからそれほどのお金はかからないかもしれない。

しかし繰り返すが、ブロックチェーンはお互いが独立している組織(または個人)がそれぞれサーバを管理していなくては意味がない。その数が多ければ多いほど改ざんされる可能性が減るので、ある程度の数が必要になる。その数をどうやって確保するんだろうか。

きっとブロックチェーン管理のための企業がすでに複数あるんじゃないかと思うが、いったいどんな業界になっているのだろうか。世界にはブロックチェーンで効率化した国もあるのだから、実際にどうなっているか調べるとわしの疑問もたちどころに解消するのだろうが、どうもこの辺について詳しく書いた文書をいまだわしは見たことない。

まあ、そのうち分かるんじゃないかと思ってる(←つまり積極的に調べる気がないんです(笑))。

★★★☆☆

 

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