「若い読者に贈る美しい生物学講義」の最初に述べられるのは、そもそも科学とはなにか、ということである。そこで言われるのは、科学は仮説の集まりであるということである。
つまり科学とは観察(実験)から帰納的に仮説をたてて、その仮説がどれだけ普遍的に成り立つかを競う競技みたいなものである。
このことは今のわしには常識ではあるが、しかし、高校時代のわしには知らないことだった。なので、ずいぶん悩んだのである。いや、本当に。だから、科学の授業では、いちばん最初に、この本のように、そのことを説明しなくてはいけないのではないかと、思うのである。
高校で文系、理科系の選択で、わしは理科系を選んだ。理由は、文系の科目は自分でも勉強できる気がしたが、理科系は学校で習わないと自分で勉強しない気がしたからだ。
そしていきなり物理1の時間で悩んでしまったのだ。1時間目はニュートンの法則を習った。ニュートンの第2法則は運動方程式であり、次のようなものである。
f=ma (f:力、m:質量、a:加速度)
この式の意味は分かる。車に例えると、同じ力かけても、軽い車はすぐにスピードが上がるが、重い車ならなかなかスピードが上がらないことを示している。
わしが分からなかったのは、この式がどこから出てきたのか、ということである。わしはもっと根本的な原理があって、そこから導き出されたもののはずだ、と思いこんだのである。
とうぜんその話がされるものと思っていたが、そんな話はされなかった。
いまのわしなら、すぐに先生に質問しただろう。だが、その時は、なぜなんだろうと考えているうちに質問の機会を逸してしまった。
それからも物理の授業は容赦なく進んでいった。こんな状態で学んでいると、内容は理解はできたが、どうしても運動方程式が(そもそもなぜそうなっているのか)理解できないので釈然としない思いだった。
こうして1年が過ぎ、物理2に進んだ。
わしは物理の授業を聞きながら、やっぱり f=ma について考えていた。(しつこい(笑))
ニュートンはどうやってこの式を導き出したんだろうか。
ニュートンはリンゴの落ちるところを見て、万有引力(重力加速度g)を発見したという。そんなことを思い浮かべながら、わしは愕然とした。ニュートンがどうやってこの式を導き出したのか、突然分かったのである。
それは、「観測」によってである。
観測、実験からそういう関係になっていることを発見しただけで、なぜそうなっているのかはニュートンにも分からないのだ。
わしは直ちに、すべての科学の原理や公式がそうであることに思い至った。
すべての科学は観察や実験で得られた結果をなるべくよく説明するための仮説であって、それ以上ではないのだ。
そのことがわかるのに1年以上が経過していた。もしも最初にそうだと教えてくれたら、こんなに長い間悩まずにすんだのに。
でも、あのとき質問していたら、満足のいく答えが得られただろうか?
わしは疑問だ。
科学とは何かについて、たとえ物理の先生でもなかなかすぐには答えられないのではないだろうか。
追記:
おんなじことを以下の記事でも書いてました。すみません。たぶん、この内容は他にもどこかで書いた気がする。それだけ、わしには画期的な認識だった、ということで。