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ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界

梶谷懐 高口康太 文藝春秋 2025.1.20
読書日:2025.2.19

中国経済には、新エネルギー車(NEV)の発展という肯定的な側面と不動産バブルの崩壊という負の側面が混在しており、現状を把握するのが難しいが、両者は同じもののコインの裏表の現象であり、今後も同じようなことが中国で続いていくと主張する本。

中国経済がわからない。

これはわしだけではなく、かなりの人がそうではないのか。不動産バブルが崩壊し少子高齢化が進み日本化しているという悲観的な部分と、EVの製造・販売が世界一でありディープシークという衝撃的な最先端低コストAIの登場などの明るい部分が混在していて、見方が難しいのである。さらには、中国共産党習近平の独裁に対する見方がどうも感情的になってしまうので、判断を誤りやすいように思える。

実際のところどうなのか。この本はその正負の両面は同じ原因から起きていると主張しており、いちおう統一的に全体を見ることに成功していると言えるだろう。

つまり、中国では供給が需要を上回るという状況が常態化しており、これが中国経済の宿痾(しゅくあ)なのだそうだ。不動産だろうがEVだろうが、常に需要以上に作りすぎるのである。

そうすると、足りない需要を補う何らかの方策が必要になる。

そこで中国では、不動産に対しては「合理的なバブル」という状態を作り出して、自分が使うためではなく投資用に不動産を購入するという需要を作り出して、需要を人為的に高めたのだという。

通常、バブルとは人々の合理性を越えた熱狂が作り出すと言われる。合理的なバブルとは、そうではなくて、人々が合理的に考えて起きるバブルのことだ。金利よりもGDP成長率が高く、資産の価格の上昇率がGDPの成長率と同じ程度の場合には、バブルと言い切ることもできない微妙な状態で、資産が上がり続ける。すると人々は合理的に考えて資産を買う。

中国政府は住宅ローン金利などで不動産価格がGDPの成長率程度におさまるように細かく調整してきたんだそうだ。こうして熱しすぎす冷めすぎずの状態を継続させて、合理的バブルを作り出し、長期にわたって住宅需要を作り出した。

製造業に関しては、圧倒的な生産力で他国よりも割安なものを作り出して、外国に輸出する。このときに国が必要と思った業種に対しては優遇政策で無駄とも言える大量に生産させることで、他国に真似できない効率的なサプライチェーンを構築するのだという。これを著者たちは「殺到する経済」と呼んでいる。

中国ではNEVが従来車よりも買われているが、これは補助金のせいではないという。すでにNEVのほうが従来の車よりもお得になっているからで、中国の大衆は合理的に判断してNEVを買っている。EV墓場ができるほどNEVを作らせたので、他国が真似できない効率的なサプライチェーンが中国内に構築されたのだ。

こうした圧倒的な生産量は国内の需要よりも大きいから輸出される。外国に対しては一帯一路などの政策で外国に購入資金を貸して中国製品を買わせる、などといった方法で需要を作り出す。かつてはインフラ投資だったが、いまは質の高い一帯一路2.0という戦略に転換している。それは、EV、太陽光パネル、車載バッテリー、のことだ。

ところで、供給>需要、の状態ならば通常の経済政策は需要喚起のはずだが、中国政府はその政策はとらないのだそうだ。それはこれまでの供給側の政策で成功してきた体験に囚われているからだという。

そして、興味深いことに、そのための理論として使われているのが、日本の竹中平蔵新自由主義的な構造改革の政策なのだそうだ。竹中平蔵の政策とは、つまり、合併や破綻で供給サイドの効率化を促し、そのためには労働者の解雇や非正規化を厭(いと)わない、という政策である。

というわけで、中国では竹中平蔵は非常にもてはやされているのだという。これは笑える。どう考えても不況を悪化させるだけなので、本当にやるんですか?という政策だけど、その結果が今のデフレ傾向の加速なわけだ。

著者たちは、結局のところ需要の創出が必要という結論になっていて、そのためには、年金制度や健康保険などの地道な社会制度の構築が不可欠なのだという。これもなかなか難しいんじゃないですかねえ。

というわけで、不動産バブルもEVも同じ経済の裏表ということはわかりましたが、それで中国経済が今後どうなるのかについては、やっぱりわからないのでした。

まあ、ピークアウトしたと言っても、中国経済はすでに超巨大ですから、その存在感は変わらないのでしょう。わしは中国経済はいまとあまり変わらない状態が続くと思っています。

★★★★☆

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