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日本の公立図書館の所蔵 価値・中立性・書籍市場との関係

大場博幸 樹村房 2024.4.11
読書日:2025.2.11

日本の図書館が、どのくらいの本を所蔵しているか、政治的に対立するようなテーマに対して中立的かどうか、書籍市場に影響を与えているかどうかを検証した本。

わしも昔は本をがんがん買っていたんですが、なかなか読めず積ん読になってしまうのが悩みでした。でも図書館を利用してみたら、期限が決まっているからどんどん本を読むようになったので、その後ほぼ完全に図書館に切り替えたわけです。しかしそうすると、わしが月に数千円とか数万円とか使っていたお金は出版業界に流れなくなってしまうわけで、それが気がかりでした。この本はその辺をかなり徹底的に検証しています。

しかしながら、この検証はかなり面倒くさい。たとえば、図書館の本に関しては、所蔵している冊数だけでなく、何回貸し出したかという情報が必要です。さらに本の売上に与える影響は、図書館だけではありません。中古本も影響を与えます。中古本は、価格と供給量が本によって異なるなど、データ的にはなかなか取り扱いが難しいようです。

本の形態も紙だけでなく、最近は電子書籍も普及していて、電子書籍の売上も影響しています。しかし、紙の方はどのくらいの供給があってどのくらい売れたかがわかりますが、電子書籍の方は統計を得るのが難しいらしく、この本では電子書籍版があるかどうかだけ(0 or 1)の考慮です。

さらに、そもそもその本に対する需要がどのくらいあるかを検証しなくてはいけません。なぜなら、売れていない原因がそもそも需要がないからなのかもしれないからです。需要があるのに需要から想定するほど売れていなければ、図書館の影響があるとなるわけです。

というわけで、図書館の影響を調べるといってもなかなか困難なので、そういうことを行う研究が少ないのです。著者は統計解析について何も知らなかったのに、この研究のために一から勉強したようです。どうも著者はこの研究が認められて、大学の教授になれたようですよ(笑)。よかったよかった。研究職として身を立てるには、人と違ったことをしないといけないということですね。

では、結論を。

パス解析という手法を用いた場合、図書館の新刊書の売上の影響は、ー0.0015%の低下だそうです。いや、これって、10万冊以上売ってようやく影響が見られるということだから、あるんだかないんだか、意外に影響が少ないという印象です。

一方、固定解析モデルという手法では、図書館の所蔵が1冊増えるごとに、0.06冊売上が減るという影響があったそうです。6%減というのはけっこう大きな影響です。解析手法によって、見え方が違うということになりますね。

売上が1万冊以上のタイトルについてはもっと影響があります。図書館の所蔵が1冊につき月に0.27冊の減少、貸し出し1冊について月0.19冊の減少だそうです。目に見えるほどの売上の減少につながっていると言えるでしょう。

(なお固定解析モデルというのは、ある期間の差分をとることで、個人差や地域差といった情報を消去して、その影響を考慮しなくてもいいという手法。解析が簡単になるし、結果がより正確になる。)

たしかに売上が大きいほど影響が大きいんだけど、逆に売上が少ないタイトルについては、売上は図書館が頼りということも多いんじゃないかな。わしが読む本なんかは、ほとんどのものは1万冊も売れるとはとても思えないし、まあ、図書館利用してもいいんじゃないかな(と自分を納得させてみる)。

書籍市場への影響以外の研究については、以下の通り。

全国の図書館の所蔵数をカウントすると、発刊された本の7割の本は全国どこかの図書館にあるそうだ。これはなかなかすごいことじゃないかしら。

中立性、つまり議論になるようなテーマについて本の所蔵に偏りがあるかどうか調べると、もちろんテーマによりばらつきがあるんだけど、概ね、肯定的意見、否定的な意見をバランス良く取り揃えているようで、中立性は保たれているようだ。

まあ、自分でぜったいに買って読まないような本も(この本もそう)、図書館のおかげで読めておりますので、今後とも図書館を利用していきたい所存です。

★★★★☆

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