ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

富国と強兵ー地政経済学序説

中野剛志 東洋経済新報社 2016年12月9日
読書日:2019年5月2日

もしかしたらここ数年でもっともインパクトがあったと言えるかもしれない本。こんな本が2016年に出版されていたとは。ちっとも知りませんでした。

もともとは、いま流行っているMMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論) の参考になるかと思って読もうと思いました。MMTに関しては、まだ日本語で専門の解説する本がなく、この本の説明がよいと、どこかで読んだからです。MMTについては実際3章に書かれてあって、内容はよく分かったのですが、この本についていうと、それは出発点に過ぎませんでした。なにしろ地政学と経済学を融合させるという目的の本なので、経済学として信用貨幣説とそれを用いた現代貨幣理論を採用している、というのにすぎないのでした。

したがって、本の内容は、領土、通貨、資本主義、帝国主義、民主主義、国民国家などといった国家にまつわるそれぞれにについて、詳細に語っており、下あごをつかまれてぐらぐら揺すられるようなショックを受けました。はっきり言って、世界を見る目がまったく変わってしまったという気がします。そのくらいのインパクトがありました。おそらく、この本は、何かある度に、折に触れて読み返すような気がします。

とくに、グローバリゼーションはデフレを起こす結論にしかならないこと、保護貿易は悪ではないことについては、考え方が100%変わってしまいました。

この本の通りだとすると、いまトランプのやっている保護主義的な政策は正しいし、中国のやっている外国の影響をシャットアウトする政策はさらに正しいということになります。たぶん日本のやっているTTPだけが間違っていることになるでしょう。MMT的には、今の日銀のやっているリフレ政策は間違っていることになるし、面白いことにリフレ政策を批判している側も間違っていることになるでしょう。

とりあえず、私が知りたかったMMTについてだけ、ここでは述べたいと思います。

わしが知りたかったことは、経済について次の2つのようなことが言われていますが、本当でしょうか、ということです。

1)現在の日本は借金がGDPの200%を越えているが、これを解決しないと、借金が累積的に増えて財政が破綻し、その結果ハイパーインフレが発生し、経済が崩壊する。
2)いまに日銀は再現なく通貨を供給しているが、このようなことを行うと、ハイパーインフレが発生し、経済が崩壊する。

この2つはちょっと経路が異なっていますが、結局世の中にお金があふれると、ハイパーインフレが起こり、経済が破綻するという結論に至るということを言っている点では同じです。

MMTのもっともエキサイティングな結論は、国家が自分の通貨を発行していて、その通貨建てで国債を発行している限りは、その国債がデフォルトすることはないというものです。国債を自分の通貨建てで発行している限りは、お金を刷りさえすれば、返済はできるからです。(実際には刷る必要さえないのですが。さらにいうと、政府はお金を発行するのではなく国債を発行し、日銀がそれを引き受けるというかたちになるのですが、まあ同じことです)。

ここまでは、誰もが認めると思いますが、確実に正しいです。ここから見解が分かれるところなのですが、普通は、そんなことはできないという結論を出す人が多いのです。そんなことをすれば、ハイパーインフレが発生し、国家財政も日本経済も破綻するというのです。

しかし、インフレと国債の発行量には何の関係もないとMMTは考えるのです。そもそもインフレが起こる場合はどういう場合でしょうか。

インフレは単純に物の値段が上がることです。どのような場合にそれが起きるかというと、需要が供給を上回ったとき、つまり需要にたいして物が不足したときに値段が上がります。

紛らわしいのですが、インフレとは貨幣的な現象、つまりお金の価値が下がることであるという表現もされます。この表現では、お金が物に対してたくさんありすぎると、インフレが発生することになります。しかし、これはやはりおかしいです。いくらお金があっても、誰も物を買おうとしなければ、インフレになりようがないからです。お金が需要を引き起こす限りにおいて、インフレは起きるのです。

こう考えると、いまの日銀のリフレ政策は間違っていることが分かります。いま日銀は銀行から国債を買って、日銀の当座預金の残高をひたすら増やしていますが、このお金は銀行が貸し出さない限り国民にお金がいかず、そもそもインフレになりようがありません。ご存知のように、貸し出しは増えず、お金は日銀の当座預金口座に滞留したままです。

なので、インフレを起こすためには、お金を国民に直接配るか、あるいは政府が使って需要を増やす以外にあり得ません。そして、政府が使うためには、国債を発行するしかないのですから、借金を気にせずに、国債を発行すべきなのです。

この先は、微妙な議論になります。(微妙というか、人の感覚的には受け入れるのが難しいというべきか)

普通、借金をすると返済のためにさらに借金を行う、ということになり、歯止めが利かなくなるのではないか、という不安があるとは思います。サラ金地獄という言葉があるくらいです。返せなければ個人破産するしかありません。が、国の財政の場合はそんなことは起こりません。なぜなら、仮にインフレになるとしたらそれは好景気ということであり、税収が増えますし、かつて借りた国債の利率よりもインフレが増えるとすれば、それは借金がチャラになることを意味しているからです。そして、国債のデフォルトは起きようがありません。

もしも問題が起きるとすれば、需要が供給を上回ってインフレが実現したときに、そこで需要を膨らませることを止められるかどうか、でしょう。際限なく需要を膨らませたら、それはハイパーインフレになるかもしれません。しかし、好景気になり、税収が増えれば、国債の発行も減ると考えるのが自然でしょう。国内の供給力は非常に大きいので、この供給力を大幅に上回る需要を引き起こせるのかどうか疑問。戦争直後の供給力のない時代なら別ですが、デフレを引き起こしている過剰な供給力がある状況で、そんなことができるんでしょうか。

ともかく、GDPの何100%になったかなどという話は忘れることです。かつてイギリスはGDPの300%まで借金が増えましたが、国家は破産しませんでしたし、国は繁栄しました。国債の発行量と経済の破綻には何の関係もないのです。

冒険投資家として知られる某氏も、国債が発行され過ぎている日本の将来はないと踏んでいるようですが、MMTでは、それはあり得ない、ということになります。

いまのところMMTはゲテモノ扱いされていますが、議論は間違っていないので、世間が慣れるだけの問題なのではないかなという気がします。

 ★★★★★

 


富国と強兵―地政経済学序説

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ