ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

2050年のメディア

下山進 文藝春秋 2019.10.25
読書日:2020.8.7

1990年代にインターネットが一般的になってから、いかにネットが既存のメディアを侵食し、新聞が衰退していったのかを、関わった人の動きを具体的に取材して検証した本。題名とは異なって、未来を語る本ではなく、過去の検証であることに注意。また、ほとんどの内容は、新聞側(ほぼ読売)から語られていて、いかに新聞が変われなかったのか、という内容になっている。

21世紀におけるネットメディアの発展と紙に頼る新聞の衰退は、大まかな流れは理解していたつもりだった。しかし、もちろん、そこに関わった人の具体的な名前は知らないし、とくに失敗したプロジェクトについてはそうである。だから、新聞側の動きは、当然ながらよく知らない。つまり、新聞側の動きは、ほぼ全て失敗しているからだ。

ヤフーに対抗した読売、朝日、日経の「あらたにす」とか、通信会社側の動きである共同通信社の「47NEWS」とかは存在すら知らなかった。

また、インターネット初期において、読売新聞が記事の題名だけを載せてハイパーリンクを貼ることに著作権を盾に裁判を起こして、結局、敗退していることも知らなかった。

また、読売新聞の渡邉恒雄が2018年の新年の挨拶で、恒例の「読売の経営は盤石」という表現をはじめて使わなかったことも知らなかった。(もっとも、ナベツネがそんな挨拶を毎年していたことも知らなかったが)。

一方で、日経が早くから電子版を始め、成功していることや、ニューヨーク・タイムズウォール・ストリート・ジャーナルが電子版を進めていることはもちろん知っていた。わし自身、日経電子版のかなり早いときに契約したのだし、ちょうどこの本を読んでいるときにもニューヨーク・タイムズの電子版の購読者数が430万人を超えたニュースがあった。

なぜ日経やニューヨーク・タイムズが電子版に成功して、読売ができなかったのかと言うと、全国的な販売網を持っていたかどうかどうかの違いに尽きると思う。

日経はそもそも東京以外は配達網がなく、読売や朝日の専売店に配達をお願いしていた。したがって、電子版によりほぼ無料で配達ができるということは、メリットはあってもデメリットは見当たらない。

ニューヨーク・タイムズも同じである。ブランド力は世界的だが、もともとニューヨークが地盤の地方新聞なのだ。電子版にすることで容易に全国紙になることができるので、メリットしかない。

とはいえ、日経もニューヨーク・タイムズも紙の文化が染み付いているから、社内を説得するのは容易ではなかったようだが、経営陣が電子版を進める方針にブレる理由がないから、それを押し切ることが可能だった。

一方の読売は、すでに全国的な販売網を構築してしまっている。もしも電子版を進めたら、販売店がそのぶん弱体化してしまうのだから、完全なカニバリズムである。こんな状況では電子化を大々的に進めることは不可能だ。全国的な販売が弱い、毎日や産経のほうが電子化に積極的なのは、当然の結果だ。

もっともこの2社は、どうやらそれも間に合うかどうか、微妙なのだが。じっさいにウォール・ストリート・ジャーナルは改革が間に合わずに、ニューズ・コーポレーションに買収されてしまった。

この本ではまったく記載されていないが、電子化を進めるには、販売店の進化が必要だろう。具体的には新聞の配達専業ではなく、配達機能を活かした地域密着型のビジネスを行わなくてはいけない。そういう意味では、例えば朝日新聞は、各地のASAを弁当宅配の出前館のビジネスに参入させているが、これが参考になるだろう。弁当の配達時間が新聞と重ならないから、非常に都合がいいのだ。

このように販売店の転換を進めながら、電子化を進めなくてはいけないのだが、そもそも、電子化したときに、読売新聞は特徴のある新聞になっているだろうか。

わしはよく近所のガストに朝食を食べにいくが(優待の消化のために(苦笑))、そこにはかつてテーブルに読売新聞が置かれていたことがあった。たぶん購読を促す宣伝の一環なのだと思うが、しかし、わしはそれを開いたことがない。読売新聞は、ちっとも面白くないからだ。(朝日よりはましだが)。

読売はたぶん生き残るだろう。なぜなら資産をたくさん持っていて、新聞が儲からなくても、その運用で食べていけうだろうから。朝日新聞はすでに新聞からの収入より不動産収入のほうが多いそうだが、そんな感じになるだろう。

そしてヤフーだが、本書で述べられているように、すでにメディア企業ではない。ニュースは提供するが、それは単にサービスの一環でしかなく、中国のアリババのビジネスを日本で展開する会社に変化している。むかしアメリカのビジネスを日本に輸入したように、中国のビジネスを日本化している存在だ。ヤフーはゼットホールディングスに進化し、ポータルサイトのヤフーはその一部門でしかあない。

しかし、ネット側の動きがほぼヤフーだけというのもなあ。結局、この本は、ただただ日本の新聞社の動きを追いかけた本でしかないわけで、興味深いけど、それだけです。

★★★☆☆


2050年のメディア (文春e-book)

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