ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

勝率2割の仕事論 ヒットは「臆病」から生まれる

岡康道 光文社 2016.6.20
読書日:2020.8.8

非常に悲しい知らせだ。この本の著者、岡康道が亡くなったというのだ。

わしがこの本を買ったのは、アマゾンがキンドルで半額セールをしていたからだ。(わしは基本的に電子図書しか買わない)。買ったその日、7月31日に彼は亡くなったらしい。なんていうこと。そしてこの本を読んでいた8月7日に、わしは亡くなったことを知った。

死因は多臓器不全だそうだが、これって病因ではなく、単なる症例だよね。なんともいい加減だなあ。岡康道にはふさわしいのかもしれないが。

わしには非常に珍しいことだが、読みながら、何度か目頭が熱くなってしまい、涙を拭った。岡康道はこんなにわしの心の中に入っていたのか。

彼のことを知ったのは日経ビジネスオンラインの「人生の諸問題」を連載だ。連載開始から読んでいたから、ずいぶん長い付き合いになる。いつの間にか、小田嶋隆と岡康道、清野由美は、わしのお気に入りになっていた。(これらの連載はほとんど会社のパソコンで読んでいた。働かない社員で申し訳ない、、、とは別に思っていないな。そのころ日経ビジネスのサイト巡りは朝のルーチンだった)。

人生の諸問題はいくつか本になっており、わしも読ませてもらった。とはいえ、じつはCMのプロとしての岡康道については知らなかったので、実際にはこの本で初めて知ったのだった。どちらかというと、小田嶋隆を通して岡泰道を理解していたことになる。

この本はだいたい3つに別れていて、ひとつは現在のタグボートのビジネスのこと、次は自分の人生に絡めた過去の話、のこりはタグボートの作品の特徴や考え方が雑多な項目で語られという内容だ。

タグボートは日本でほぼ唯一の、CMのクリエイティブ部門の専門会社(クリエイティブ・エージェンシー)だ。どこが普通の広告代理店と違うかと言うと、普通の代理店は新聞、TVの広告の枠を持っていて、その枠を売るのが商売なのだ。なので、広告の内容はじつはどうでもいいのである。枠を売り切るのが商売なので、どんどんCMを大量生産して、枠に押し込まなくてはいけない。ほとんどの広告はあるパターンで大量生産されたものであり、発注する側もあまり広告にこだわりはないのがほとんどだから、これでなんの問題もないのである。

こうなると、ほとんどの広告は、有名人やかわいい女の子あるいは芸人が出てきて、商品を紹介するというパターンになる。

しかしそれは、そこにメッセージを込めたいという企業には、まったく不十分で困るシステムなのである。そこにタグボートの存在意義がある。

タグボートは4人だけの会社で、クリティブ・ディレクター(CD)の岡康道、アートディレクターの川口清勝、CMプランナーの多田琢、麻生哲郎の会社で、電通の仕事仲間が独立したものだ。この4人で、1年に50本、つまりほぼ週に1本制作しているという(この本の出版時2016年の話。以下も現在形で語るが、出版当時の話である)。そして毎年のようにCMの賞を受賞している。

驚くべき制作本数だけど、これだけこなすにはよほど仕事が早くないと、不可能である。そしてこのスピードで、賞を取るような広告を制作しているわけだ。

岡康道は、タグボートはプレゼンに勝つ勝率は2割に過ぎないという。それはほとんどの企業がCMにメッセージ性など欲していないということだ。普通のCMを求めている人にはタグボートは性能過剰なのである。だから低い勝率は当然のことだし、そしてこれ以上仕事を引き受けても、たぶん数的にはこれで限界だろう。

岡康道のCMの制作過程はちょっと変わってる。岡は商品の世界をいったん自分の人生に引き寄せて納得してからでないと作ることができないらしい。それはだいたい人の情念の奥底に関係するので、少し暗い作品になってしまうのだそうだ。本人は「本質をつく」手法と言っている。本質を衝いて、それに合わせてストーリーを考えるのだそうだ。必然的に、それはメッセージ性の高い作品になる。

そうすると、岡の持っている手法は基本的にはひとつしかなく、その一つの手法を繰り返し使っているみたいなのだ。それが長年にわたって通用したのは、誰も彼の手法を真似しようとはしなかったかららしい。たぶん面倒くさい方法なのだ。

本質が見えなくて悩むこともあるみたいだけど、最初のオリエンテーリング(発注側の説明)のときで、ほとんどの場合、アイディアは掴めるんだそうだ。この時の印象が間違っていたと後から気が付くときもあるという。しかしタグボートは制作が始まってからどうも違うと感じたら、内容を変えてしまうことに躊躇しないらしい。非常に迷惑な話であるが、本質を衝くことが一番の持ち味なのだ。

岡たちが電通を辞めてタグボートを作ったのは、電通にクリエイティブ部門の評価が低かったからだという。クリエイティブ部門から役員になった者はおらず、岡の尊敬する先輩たちは会社を辞めていった。ずっとクリエイティブ部門の仕事をしたかったら、辞めるしかなかったのである。

最初は5年持てばいいかなと思って始めたそうだ。メンバーそれぞれが力を持てば独立していくだろうし、てっきり他のクリエイティブ部門の人間も彼らの後を追って、次々独立するのだと思っていたのだそうだ。ところがそういうことはいっこうに起こらず、彼らはずっと弱小のままだった。こんな状況で4人は団結するしかなかったらしい。

一方、クリエイティブ部門しかないタグボートはメンバーとともにいつか消えていくだろうと、岡は言っている。岡がいなくなったタグボートはもしかしたら本当に存亡の危機の状態なのかもしれない。どうなってしまうんだろうか。

岡の話のうち、共感できるところがいくつもあった。

ひとつは父親が失踪した時、父親の借金は大学生の岡が対応しなくてはいけなかったが、何か他人事のように感じて、まったく悲壮感のようなものは感じなかったらしい。逆に自分にやっと起きた劇的な事件と捉えたそうだ。さらにお金に右往左往している大人たちがアホらしくて、滑稽に感じたそうだ。なんかこういう周りに起こっていることが他人事に思えるところって、非常によくわかる気がする。

それからディズニーランドの管理された清潔感が生理的に受け付けないというところも、似ているなあ、と思った。わしはディズニーランドもそうだが、とくにあのミッキーのニタニタ笑いが気持ち悪くて好きになれない。ディズニーランドが好きな人の気持ちは分かるけど、わしには無理で、たぶんあの聖地には2,3回しか行ってない。(それもしかたなく、である)。

というような、共感できるところもいっぱいある岡康道なのであるが、なにより、もう人生の諸問題を読むことができないのが残念なのである。

★★★★☆


勝率2割の仕事論~ヒットは「臆病」から生まれる~ (光文社新書)

 

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ