オードリー・タン(語り) クーリエ・ジャポン(編) 講談社 2020.11.17
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まだ台湾のデジタル担当大臣だったオードリー・タンにクーリエ・ジャポン編集部がインタビューした内容をまとめたもの。
彼女(オードリー・タン)は普段は英語で思考しているんだそうだ。というわけで、このインタビューは英語で行われたようだが、たった1時間のインタビューの内容とは信じられないほど濃厚だ。インタビューは猛烈な速度で進んだという。
オードリー・タンによれば、自由にはネガティブ・フリーダムとポジティブ・フリーダムがあるという。ネガティブ・フリーダムとは個人が何らかの束縛から逃れることで、自由の第一歩なんだそうだ。一方、ポジティブ・フリーダムは、自分だけでなく他の人も自由にしてあげることなんだそうだ。
まさに世界が彼女に期待しているのは、世界中の人間を自由にしてほしいからである。何度でもいうが、このようなビジョンを持っているIT関係者は少ない。IT関係者にはリバタリアンが多くて、個人の自由は最高水準で求めるが、他人に関しては無関心な人が多いのである。単純に自分が良ければそれでいいという考え方が中心だ。
彼女の発想の特徴は、たぶん異質なものを組み合わせることを不可能だとは思わないということではないだろうか。
たとえば、彼女は自分の政治的な信条を「保守的アナキズム」と説明する。普通は保守(昔からある制度や伝統を尊重すること)とアナキズム(無政府主義)は両立しない。しかし彼女の中ではそれは両立し、自然なのである。
彼女によれば、保守主義とはどれかひとつの伝統を守り、押し付けることではない。彼女の場合はすべての伝統を尊重することなのである。つまり保守主義という言葉は、究極的な多様性の尊重を意味している。このような多様性を確保した上で、共通の価値観を見つけることが保守主義なんだそうだ。
そしてアナキズムとは国家の権力を最小限にすることだが、これは国家がその権威で人々になにかを押し付けないことを意味するという。
つまり彼女の中では、保守的アナキズムとは、多様性が確保され、かつその安全が確保されている世界なのだ。
そうした世界でどのように政策を進めていくかというと、とりあえず大まかな合意さえ得ることができれば、先に進めていくことができるのだという。もちろん問題があればすぐに修正し、すべては透明で説明がなされる必要がある。こうして政策はジグザグに進んでいくという。ジグザグならば、ヨットのように風上に向かって進んでいけるというのだ。
そして、ITやAIの技術は、こうしたことを実現するためにある。すでに政治家よりもインターネット上のハッシュタグの方が影響力が大きい。だから、政治はそれだけスピードが必要だという。そしてそこには透明性、アカウンタビリティを兼ね備えていなければいけないという。
台湾のコロナ対策を見れば、ITをうまく使えば、いかに効果的かということがわかるだろう。
政治的に厳しい国家や社会もあるけれど、香港の人々の「水になれ」という言葉に共感を感じるという。この言葉は、誰でも一人ひとりがリーダーになりうるということを示しているという。ちなみにこれは道教のことばだ。
この本ではしばしば、道教の発想が顔をだす。
道教とは、権威を中心とした社会を唱える儒教に対抗する思想とも言える。そういうわけで、道教は、オードリー・タンの中ではアナキズムと同じ意味を持つ。つまり、多様性を肯定し、権威を押し付けない考え方である。
いろんな意味でマイノリティである彼女が、こういう世界を目指すのは納得できることである。
多様性を確保しつつ、実行のスピードをあげるには、知恵が必要だ。まちがいなく、AIはそういう人々を支援するためにあるべきだと言えるだろう。まあ、いまのAIではなんとも心もとないのではあるが。
★★★★☆

