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戦闘妖精・雪風〈改〉

神林長平 早川書房 2002.4.15
読書日:2025.6.27

(ネタバレあり、注意。だけどSFファンでこの作品の概要を知らない人っているの?)

地球は南極に開いた超空間の〈通路〉から、異星体ジャムの攻撃を受けている。地球側はジャムの攻撃を押し返し、通路の向こう側にあるフェアリイ星に基地を作り、FAFフェアリイ空軍)がジャムとの戦闘を繰り広げている。ジャムの正体が不明なため、情報を集める専門の〈特殊戦〉SAFがあり、13機のスーパーシルフが任務についている。SAFの任務は、仲間を見殺しにしてでも絶対に帰還して情報を持ち帰るという非情なものであり、パイロットの深井零は愛機・雪風とともにこの任務を遂行するのだが……。

非常に有名な作品でございますが、わしは読んだことがなく、しかも今回が初・神林長平でした。どうもすみません。

読んで思ったのは、まあ、やっぱり設定の絶妙さですね。SFってどんな設定でもなんとかなるものですが、どうしてそんな?という設定も、相手が謎の異星体ということならすべて解決です。

個人的には、超空間の通路を作るような科学力を持っているジャムが、普通の航空燃料で動作する地球の戦闘機に負けていいんだろうか、という気がしますが、実際になんとかなっているんだ、ということなら仕方ありません。武器もミサイルとか機関砲だし、まあ普通です。(透明な戦闘機を発見するための特殊なセンサというような、なかなかなギミックも出てきますが)。

地球側が戦闘機なのはわかるけど、ジャムの方もそっくりな戦闘機で攻めてくるんですね。ええ? それでいいの? って感じです。そもそもフェアリイ星に地球人が生きていける酸素があって、戦闘機が燃料を燃焼させて飛び回れるような大気を持っているという設定は、まあ普通に考えてありえないでしょう。もしもジャムが本気で地球人に勝とうと考えているのなら、そんな環境の星に通路を接続するなんてありえない。

というか、ジャムはそもそも勝とうと考えていないように見えます。ジャムは地球人のつくる機械に興味津々で、どうもわざわざ地球の戦闘機を模倣して、作り出しているようなんですね。一番最初のエピソードは、地球の戦闘機シルフィードにそっくりな戦闘機が出現するという話です。

一方で、ジャムはまったく人間には興味を示さない、というか、最初は人間の存在に気が付きもしなかったようです。最後の方にやっと人間に興味を持ち出したらしく、模倣人間のようなものが出てくるんですが、これがけっこうずさんなもので、簡単に偽物だとバレてしまうような出来で、しかも化学結合の右手系と左手系を間違えるというずさんさ(笑)。

なので、どうもジャムは機械のようなんですね。だからやっぱり機械に最初は注意が行ってしまうらしい。知性ある機械というわけです。戦闘機とかの機械に対する模倣の素晴らしさをみれば、ジャムはまるでスタニスワフ・レムソラリスの機械バージョンのようです。ソラリスの海のように模倣戦闘機を繰り出して、相手の戦闘機の反応を見ているのかしら。もちろん、ソラリスの模倣人間が殺されてしまうように、ジャムの戦闘機も相手にされず撃墜されてしまったりするのですが。

雪風には学習機能が備えられていて、人間のパイロットの操縦を学習して、最後には人間には耐えられないGを発生させるような動きをするようになって、人間は乗っているだけで邪魔という存在になります。

パイロットの深井零は他の人間とはコミュニケーションができず、愛機・雪風だけが心の通じあえる友とも恋人ともいえる存在だったのに、あっさり雪風に捨てられてしまいます。このへんの感情の機微がこの作品のキモなのかもしれませんが、個人的にはいまいちでした。なにしろ、AIが人間よりも賢くなって人間が捨てられる話は山のようにあるので。

しかしですねえ、最後に深井零をすてた雪風が偉そうに帰還するのですが、雪風ってぜんぜん偉くないですね。だって、燃料も整備も人間がいないと、いまのところ何もできないんですもの。人に何もかも面倒を見てもらってるのに、そんなに偉そうにするんじゃないよ、という気がしました。

戦闘機に人間が必要なのか、人間とはなにかというテーマとか、機械の知能がどうとかいうテーマも絡んでいますが、まあ、別に人間なんてそんなに大したものではないという気もしますし、わしはこのテーマにはあんまり興味がわかないなあ。(人間と人間以外の動物と機械を区別して、ことさら人間を特別なもののように考える意味がわからん)。

この作品の愛好家が多いのは、やっぱり、神林長平のメカニックの動作の描写がかっこいいからなんじゃないですかねえ。専門用語がバンバン出てきて、戦闘機の動きはまるで目に見えるようですもの。きっと神林長平は航空機オタク、武器オタク、なんでしょう。

さて、続編を読むべきでしょうか? うーん。

★★★★☆

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