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人類の起源 古代DNAが語るホモサピエンスの「大いなる旅」

篠田謙一 中公新書 2022.2.25
読書日:2022.10.6

発掘された人類(ホモ属)の骨のDNA解析からホモサピエンス(ヒト)の誕生、他のホモ属との交雑、出アフリカ後の移動の様子が分かるようになり、最新の情報について解説した本。

この本を読んでいるときに、今年のノーベル生理医学賞は古代人の骨から人類とネアンデルタール人が交雑していたことを突き止めた、スウェーデン出身で、ドイツのマックス・プランク研究所のスバンテ・ペーボ博士に決まったとのニュースが入ってた。個人的にはなんともタイムリーでございました。

DNAを使った研究は2010年代にものすごく発展して、この本に書かれていることは知らないことばかりだった。へーと思っているうちに読み終わってしまった。

たくさんの情報が書かれているが、わしがへーと思ったところをいくつかピックアップしてみよう。

わしはヒトとネアンデルタール人との交雑については知っていたが、デニソワ人というのがいて、ヒトはその人類とも交雑していたというのは知らなかったな。デニソワ人は2010年代に別の種と断定されて、ヒトとネアンデルタール人の共通祖先から分岐したのは104万年前なんだそうだ。デニソワ人についてわかっているのはDNAだけで、詳しい形態もよく分かっていないそうだ。デニソワ人はいくつかの骨の断片が残っているだけで、遺伝情報だけで新種と断定された初めての人類だという。

デニソワ洞窟で発見されたからデニソワ人なのだが、デニソワ洞窟に残されていた1万個以上の動物の骨をズーマス(ZooMS)という新技術で人類の骨を見つけ出して解析したら、新発見があったという。ズーマスとは、骨の中のコラーゲンのアミノ酸配列を質量分析装置で決定する技術だそうで、それによりその骨がなんの動物の骨かが分かる。ズーマスで解析したら、その中に1つだけ人類の骨が混じっていたんだそうだ。大変ご苦労なことである。そのDNAを調べてみると、なんとそれはネアンデルタール人とデニソワ人の混血だったことが分かったのだという。

というわけで、ヒトとネアンデルタール人、デニソワ人の3種の人類はお互いにあちこちで交雑していたわけだ。ヒトの2.5%ぐらいはネアンデルタール人由来の遺伝子で、数%はデニソワ人由来の遺伝子らしい。ただし、残っている遺伝子の割合は民族によって大きく異る。パプアニューギニアの人々の3〜6%はデニソワ人の遺伝子だというから、かなり驚きである。一方、ネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子をまったくもっていない、ピュアなホモ・サピエンスだけの遺伝子を持っている民族もいる。アフリカのカラハリ砂漠にいるコイ・サン族がそれで、このことから交雑は人類の出アフリカのあとでユーラシア大陸で起きたことを示している。

というわけで、人類は遺伝的には大変複雑な構成になっていて、単純に直線的には進化してはいない。

また、ネアンデルタール人、デニソワ人と分岐した60万年前から数10万年分のヒトに関するデータが極端に不足していて、実際にどんなふうにヒトが誕生して広がっていったのかがよく分かっていない。ヒトはアフリカで誕生したのは確実だが、どこで誕生したかも分かっていない。

ホモサピエンス同士の広がり方具合は、ヨーロッパを中心に理解が進んでいて、ヨーロッパには東の方から何度か人々がやってきて、遺伝子を置き換えるということが起きているらしい。

最初は狩猟採集民族の人々がヨーロッパに広がった。その後、農業が起きたトルコのアナトリアから人々がヨーロッパに広がり、次に黒海カスピ海周辺の牧畜をしていたヤムナヤ文化の人々がヨーロッパに広がった。ヤムナヤ文化は車輪と馬の文化を持っていて、強力に広がっていったらしい。これは言語学の研究とも整合的で、つまりヤムナヤ文化の人々がインド・ヨーロッパ語族のオリジナルの言葉を話していたと考えると、辻褄が合う。面白いのは、白人の肌の白さと目の青さは別の民族の遺伝子を引き継いでいることで、アナトリアの人々が青い目を持っていて、ヤムナヤの人々が白い肌を持っていたらしい。なので、昔はヨーロッパには褐色の肌に青い目の人たちがいたんだそうだ。へー。

ヨーロッパの方は比較的研究が進んでいるが、アジアの方はまだ漠然としか分かっていない。アジアへは、ヒマラヤの北と南の2つの経路で伝わった。南のルートではインドからアンダマン諸島を経由して広がった人々がいて(つまり海を舟で広がったらしい)、東南アジアでデニソワ人と交配して、その人々がパプアニューギニアに移動したらしい。ところが、南の温暖な気候のせいで、DNAがきちんと残っている化石がほとんどないので、よく分かっていない。この人々が東南アジアを海、または内陸を経由して北に向かい、東アジアの古代人のグループを形成したらしい。(一部が日本に到達して縄文人になる)。

アンダマンの人々はヒマラヤを超えて、チベットなどを経由して、バイカル湖付近で西の民族と混血したが、東アジアの人々が優勢の状況で、それがシベリアに広がり、さらにはベーリング海峡を超えてアメリカにヒトが進出する。ベーリング海峡超えは一度ではなく、何回に分けて行われているらしい。イヌイットは最後に到達した人たちだそうで、遺伝子が昔の化石で残っているものとは異なっているそうだ。

面白いのは、ポリネシアミクロネシアの人々は、台湾を出発して南下した人々であることが確実なんだそうだ。台湾、フィリピンを経由してポリネシアに達している。

まあ、こんなところかな。まだまだ不明なことが多いので、あと5年ほどしてこの手の本を読んだら、きっとまた驚くような話が聞けるんじゃないだろうか。ズーマスのような新技術もきっと生まれているだろう。

それにしても、恐竜とかのDNAはどうなんですかね。ネットで調べると、2020年にはじめて恐竜の化石からDNAが抽出されたみたいだけど、この辺の話も5年後ぐらいに読めるといいな。

★★★★☆

 

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