小林武彦 講談社 2021.5.1
読書日:2025.6.26
死というプログラムを導入した種が結果的に生き残りに成功したので、多くの生物には寿命があると主張する本。
生物にはもともと死というプログラムは備わっていないんだそうだ。たとえば単細胞である細菌は栄養があるかぎり増え続け、寿命により死ぬということがないという。他にもプラナリアのようにもともと寿命がない生物や老化しても若返るベニクラゲという生物もいるので、寿命自体は生命にとって最初からあったものではないのだという。
ところが生物のうち寿命を設定して、死んでしまうものが現れた。これらのほとんどは、有性生殖をして遺伝子を交換するので、子孫はとても多様である。このような多様な子孫を残して自分が死んでしまう生物のほうが、種として生き残る可能性が高かったので、結果として、寿命という死のプログラムが定着したのだという。多様性があるということは、いろいろな環境の変化に対応できる個体がいる可能性が高く、ロバストネスなんだそうだ。
このように寿命が導入されたので、ほとんどの生物は子孫を残すと、もう十分とでもいうようにすぐに死んでしまう。しかし、大型動物の場合は子供が育つまで時間がかかるので、育て上げるまで親の寿命が伸びる。たとえばゾウなどはそうであり、人間もそうである。きちんと育てたほうが、種として生き残るからである。このように寿命が伸びた場合でも、子孫の方が多様性が大きく、価値が高いので、やっぱり親は死んでいくんだそうだ。
そういうふうに考えると、多様性を確保することがとても大切なので、教育でもあまり多様性を損なうのはまずいということになる。学校では基本的な生きていくすべを教えるくらいにして、単一の価値観で評価をせずに、なるべく個性を伸ばす教育のほうが望ましいのだそうだ。
まあ、そういうわけで、子孫のためにわしらは死んでいかなくてはいけないのだが、ほとんどの人は子供が大きくなって、さらに孫ができるようになると、それほど死にこだわりはなくなるんじゃないだろうか。(子供を持たない生き方を否定しているつもりはないので、念のため)。
さて、死がプログラムされているものだとすると、そのプログラムは改変できるのかもしれない。死のプログラムはあまりに基本的なので、いろいろなルートで仕組まれているだろうから、プログラムの改変は大変だろうけど、たぶんそのうち成功して、単なるアンチエイジングではなくて、人間は何百年でも長生きできるようになるんじゃないかな。
でも、そうなると、種としての多様性は確保できずに、人類は滅んでしまうのだろうか。一方、その頃にはAIが大きく発展して生物の進化の補助のように機能するのかもしれない。AIとの融合が人類の次の進化系ではないだろうか。わしはそう夢想する。
個人的にはシンギュラリティが本当に起きるか確認してから死にたいなあ(笑)。シンギュラリティが起きると言われているのは2045年です。とりあえず、長生きできるように、MNMでも飲む? でも、MNMって、ちゃんとしたやつは高いんだよね。
★★★★☆