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「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた

グレゴリー・J・クバー 訳・水谷淳 ダイヤモンド社 2022.5.31
読書日:2022.10.3

ネコが空中でなんの支点もなしに回転できる理由を多くの科学者が解き明かそうと奮闘した数百年の歴史を振り返る本。

いちおう本を開く前に、自分でネコが空中で回転できることを説明できるか考えてみた。しかし、どうしても角運動量保存則が絡んでくるので、非常に説明が難しい。いままで疑問に思ったことはなかったが、ネコが空中で足を下向きの方向に自由に回転できる理由が思いつかなかった。なるほど。確かにこれは難問である。

どこが問題か説明すると、空中で静止しているものが回転するとき、反対方向の回転も起きて、全部合わせて回転がゼロにならないといけないという物理法則があるのである。これを角運動量保存則という。空中に浮かんだ状態でなければ、床を蹴ったり、壁を押したりと別の物体との反作用として回転の力を得ることができる。しかし、なにもない空中で回転しようとすると反対の回転もおきるから、自由に回転できない。逆にある角速度で回転していたら回転し続けてそれを止めたりはできない。

この問題は数百年の間、何でも不思議に思う科学者の頭を悩ませてきただけだった。(科学者の好奇心の旺盛さには頭がさがる)。ところが、20世紀後半になって、これが突然重要な問題になったのだ。というのは、無重力の宇宙空間で宇宙飛行士がどうやって身体の向きを変えるかという、切実な問題が発生したからである。しかし、ネコの立ち直り反射(どんな姿勢からでも下向きになること)について研究が進んでいたので、科学者はどうすればいいかという問いに無事に答えることができたのである。というわけで、現在は宇宙ステーションでも、宇宙飛行士は身体をネコのようにくねらせて、向きを変えることができるのでした。

いったい何が役に立つか分からないものである。まるで科学における数学の役割の話を聞いているようだ。数学もなんの役に立つかわからないが、あとで物理に応用できることが分かったりする。

まあ、数百年の科学者の議論の歴史は本書を読んでもらうとして、結論に行こう。

基本的なモデルは2つあって、「タック・アンド・ターン」モデルと、「ベント・アンド・ツイスト」モデルだ。

「タック・アンド・ターン」モデルは、上半身と下半身を順番にひねるというものだ。このとき上半身をひねるときには前脚を縮め、後ろ脚を垂直方向に(回転軸から離れるように)伸ばす。すると、上半身が回っているときに、下半身は反対方向に回ろうとするのだが、後ろ脚を伸ばした分だけ下半身の回転角度が小さくなるので(角運動量は質量と回転軸からの距離がある方が大きくなるため)、ほぼ上半身だけが回ることになる。上半身が回転し終わったあと、今度は前脚を垂直方向に伸ばして、後ろ足を縮めるかあるいは真後ろに伸ばして、脚を回転軸に近づけると、下半身だけ回すことができるので、回転が完了する。

実際のネコの動作に近いのは、「ベント・アンド・ツイスト」モデルのようだ。これは身体を回すときに身体をくの字に曲げて身体をひねるというもので、このようにすると、見かけ上、上半身と下半身は反対方向に回るので、角運動量保存則を満たしたまま、身体を回転させることができる。身体を180度曲げることができ、上半身と下半身を重ねた状態なら完璧だが、それができなくてもある程度曲げた状態なら角運動量を相殺できて、回転できるようだ。実際には、90度回転したところで、一度身体を伸ばして、またくの字に曲げて回転するということをするらしい。(でないと腰を横方向に曲げることになりなかなか苦しいからだと思う。少なくとも人間には無理(笑))

この動作を高飛び込みの選手にさせてみたところ、空中で見事に身体の向きを変えることが確認できた。(写真付きでネコと同じ動きを再現して見せている。)

なるほどねえ。すごいね。

この問題解決に時間がかかったのは、ネコが身体を回転させるのは一瞬のことなので、どうやっているのか観察が難しかったからだ。これは高速度撮影技術が発達しないとなかなか解析が難しかったという。現在では、コンピュータによる解析も行われているし、立ち直り反射ができるロボットの制作も行われているそうだ。

実際にこの問題に関わった科学者でいちばん有名なのは電磁気学で有名なマクスウェルのようだ。へー、マクスウェルがねえ。

なお、立ち直り反射は、ネコだけでなくウサギもできるのだそうだ。

★★★★☆

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