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スケール:生命、都市、経済をめぐる普遍的法則

ジェフリー・ウェスト 訳・山形浩生、森本正史 早川書房 2020.10.15
読書日:2021.2.18

法則がないように見えることも、スケール則を通してみると数値化できて、科学的に解析可能になると主張する本。

昔、「ゾウの時間、ネズミの時間」という本を読んだことがあって、生物のスケール則についての話だった。そこで代謝の3/4乗則について書かれてあった。サイズが2倍になっても代謝は3/4倍しか増えず、大きくなるにつれて、代謝が効率的になっていくという話だった。どういう説明だったか忘れたが、たぶんその本を読んでその理由についてはそれなりに納得していたんだと思う。

ところが、この本では、なぜ3/4乗則になるのかについて、いちから考えているのでびっくりした。もう解決している話だとばかり思っていたから。しかし著者によると、そうではないらしい。体積と表面積の関係だけを考えると、2/3乗則になってもいいのに、なぜか分母に4が来る。この4はどこから来たのか。

で、その答えだけど、著者が言うには、身体のネットワーク構造にあるらしい。身体のネットワーク、例えば血管とかそういうのは、身体のどこをとっても同じ形に見えるフラクタル構造になっている。そのフラクタルにはフラクタル次元というものがあって、空間の3次元にフラクタル次元の1次元を足して3+1=4になるので、分母に4が来るんだという。

ほんまかいな。

もしかしたら合ってるのかもしれないけど、どうも納得できるように書かれていない。

しかも、血管がある生物ならともかく、単細胞生物代謝の場合はどうなるんだろう。3/4乗則は単細胞生物を含めて成り立つ話なのだ。単細胞生物と人間とで同じフラクタル次元を持っているんだろうか。単細胞生物フラクタル性はとても低いんじゃないかと思うが。

そして生命と同じように、都市や経済活動というのも、スケールに応じたx/y乗則というものがあるという。たとえば、85パーセントルールというのがあって、人口が2倍になっても必要な電気などのインフラは0.85倍だけ増やせばいいという。0.85というのは生物の3/4=0.75よりは大きいので、都市は生物よりもスケールで効率が良くなる割合が小さい。

生物や都市や経済活動の細かい事情を考慮しなくても、こういうサイズのスケーリング法則が成り立ってしまうというのは興味深いが、残念ながらその事実から斬新な発想が導き出されている、とは言えない。その辺が知りたいところなのに、スケーリング事例のオンパレードが続くのみなのだ。

そして、脱線が異常に多い。スケールの話はどうなったんだと思うくらい話がずれてイライラさせられる。面白くないことはないが、多分に自伝的な要素が多く含まれていて、読者がどのくらい関心が持てるか、かなり疑問。この手の脱線話が半分くらいあるような気がする。

おまけに明らかな間違いが多数ある。日本人的に許せない部分は、地震のスケーリングのところで、東日本大震災(本の中では福島地震と呼んでる)のマグニチュードが6.6とされていることだろう。なので、あまり大きくないとわざわざ言及している。本当は9.1でむちゃくちゃ大きいのに。(誰も校正してくれなかったのかしら?)

そして、どうも文章が読みにくい。訳者によると、原文は関係代名詞の嵐なんだそうだ。訳するのに非常に苦労したとか。まあ、それでも内容が充実していればいいんだけど、いまいちスケーリング則がある、というところから一歩も先に進まないので、だからどうした、と言いたくなる。

最後の方は自分が所長をしたサンタフェ研究所の宣伝みたいになってる。

まあ、著者は80歳で、これが最初で、そしてたぶんこれが最後の一般書らしいので、言いたいことを全部入れたのかもしれない。科学者が金融業に転じてクウォンツとして大金持ちになっていることをやっかんでいるらしいのも気になるなあ。

まあ、全体として、読むのに苦労した割には、実りの少ない本でした。

★★★☆☆

 


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