浅田秀樹 講談社ブルーバックスB−2167 2021.3.20
読書日:2021.4.30
天体が3つ以上関係する三体問題は原理的には解けないが、特殊な状況では解くことができ、しかも最近ではスーパーコンピュータにより数値計算が可能となり、特異な解も見つかっていることを解説する本。
はじめで著者も述べているけど、三体という言葉は中国のSFですっかり有名になってしまった。このSFではアルファ・ケンタウリの恒星系に太陽が3つあって、複雑な軌道を巡っていることになっている。もちろん、このSFは三体問題を念頭に置いてこのようなタイトルを考えついたのだろう。
三体問題について、わしはきちんと考えたことはないけど、それが解けないことは知ってはいた。しかしこの本を読むと、二体問題ですらいろいろ工夫をしてやっと解けている状況なんだそうだ。具体的には、座標系を工夫して未知数を減らして、計算可能にしているんだそうだ。二体問題でもこれだけ苦労するので、三体問題はもう大変ということになる。数学的には解が求められないことが証明されるのだけれど、特殊な場合については天才のひらめきによって解が得られてきた。
たとえばラグランジュ点だ。ラグランジュ点もやっぱりSFによく出てくるんだけど、(たしかガンダムにも出てきたはず)、大きな質量のものが2つお互いに回っていると、その正三角形の地点にある物体は安定的にそこに存在できるという解だ。太陽と木星からなるラグランジュ点に実際に安定した小惑星群(トロヤ群)が発見されて、現実でもその解が成り立つことが確認できたのだという。
ニュートン力学ではラグランジュ点は正しいんだけど、これが一般相対性理論でも成り立つかどうかわからなかった。これは数値解析によって実際に成り立つことが分かったのだそうだ。
数値解析では、これまでにない解も見つかっている。もっとも不思議なのは8の字の軌道で安定な解があるということだ。8の字の軌道って現実にあり得るのか疑問だが、8の字の軌道からは特殊な重力波が出ているそうで、今後宇宙で重力波の観測ができるようになると、そういった星系があるのかどうか確認できるのだという。
そういった星が数十年後に見つかるのかもしれませんね。
三体問題とは直接の関係はないのだけれど、5次方程式の解の話も出ていて、わし的にはこちらのほうが面白かったかも(笑)。
★★★☆☆