カート アンダーセン 東洋経済新報社 2019年1月18日
読書日:2019年3月7日
自分の信じることは何でも正しいと信じ、自分を非難するすべての現象は陰謀であり、フェイクニュースと主張するトランプ大統領がいて、しかもそんな大統領を疑問に思わない国民がいる、そんないまのアメリカで何が起きているのか?
著者は、今のアメリカ人は合理的な判断を軽蔑し、非合理だろうが自分の信じたいものは何でも信じて構わないという、ファンタジーランドで暮らしているという。
著者の指摘するファンタジーはディズニー、VR、ゲーム、コスプレ、ガンマニア、UFO、ニューエイジ、オルタナティブ医療などほとんどのファンタジーを取り上げているが、この本で最も問題にしているのは、「キリスト教」と「陰謀論」である。この2つはアメリカの社会、政治に深刻な影響を与えているという。
もともと先進国でアメリカほど宗教的な国はないと言われてきたが、いま、それは異常なレベルになっているらしい。聖書にかかれていることは絶対であると信じる人が多数にのぼり、それ以外の可能性を考えようともしない。当然、進化論は認められるはずもない。
しかも、その信仰の方法がかなり異常で、魔術的な方法が主流になっている。ペンテコステ派は異言(母国語でない別の言葉を話すこと)が主要な信仰方法になっており、集会では次々に信者たちが異言を話し出すらしい。非常に人気なので、他の宗派の牧師も、自分も異言をはなすなどと言及したりする。この辺は日本にいると、ちょっと発想の枠外で、どんな感じなのかイメージするのがなかなか難しい。
陰謀論もキリスト教的な発想がもとになっているようで、もともとはクリスチャンが紛れ込んでいて、プロテスタントの社会を転覆させようとしているという恐怖から始まっている。さらにはフリーメーソンやイルミナティのヨーロッパ由来の悪魔系の秘密結社などの陰謀論が蔓延し、現代ではアメリカ政府自身やCIAなどの官僚組織が陰謀を働いていると強く信じられている。これは一般民衆のエリートを嫌う風潮と一致している。また「コースト トゥ コーストAM」のようなラジオ番組があり、UFO、心霊体験、世界的な陰謀について毎日何千万人が耳を傾けているという。
このようなアメリカのファンタジーランド化について、著者はアメリカの起源にさかのぼって検討しているが、アメリカのファンタジーランド化が決定的になったのは、ロナルド・レーガン以降、とくに1995年のインターネット普及が決定的になったという。
日本も十分ファンタジーランド化していると思うが、それが国の政治を乗っ取ってしまうレベルにまで達しているところが異なる。狂信的なキリスト教と陰謀論的な発想は、完全に共和党を乗っ取ってしまっている。今では共和党は合理的な発想は不可能になっているらしい。その総仕上げがトランプ大統領ということになる。
著者はアメリカの先行きを危惧しているが、過去の歴史を振り返ると、ファンタジーが国家を乗っ取って、歴史的事件を起こした例など枚挙にいとまがない。十字軍のような宗教戦争から、ナチスドイツ、共産主義国家、日本の大東亜共栄圏もある種のファンタジーと言える。アメリカがそうならないとは限らない。すでに共産主義ドミノの恐怖からベトナム戦争を起こし、ありもしない大量破壊兵器を口実にイラク戦争を起こした実績もある。
さらに言うと、そもそも理性的に判断できる人間などほとんどいないのであって、というか、人間は間違った直観にしたがって生きているのが普通である。啓蒙主義が主流であった時には、皆、合理的、理性的でないとちょっとまずいという心情が働いたので、なにか理屈をつけて説明する筋道を付けようとしていた。しかし、いったんそのタガが外れたら、もとの非合理な自分に自信を持って生きるようになるのが当然である。
いまはそういう時期になっているので、世界はもう一度中世に戻って、あらゆる愚行をやってみるべき時なのだろう。そうして、経験を積んだのちに、いろいろな考えが淘汰され、少しはましになるというのがせいぜい望めるレベルなのではないか。
日本もネトウヨとか炎上とか、非合理な状況に変わりないのであって、その非合理が政治を動かすようになってもあまり不思議ではない。
非合理などこかの政府が世界を滅ぼさないように祈るばかりだが、こういう発想自体が陰謀論の動機になってしまうので、この問題は実に悩ましい。
★★★★☆