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反脆弱性(はんぜいじゃくせい) 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

ナシーム・ニコラス・タレブ 望月衞・監訳 千葉敏生・訳 ダイヤモンド社 2017.6.21
読書日:2020.4.5

変動のあるものはオプション性があり、オプション性をうまく使うことで大きく資産や健康などの良いものを増やすことができると主張する本。ブラックスワンで有名なタレブが、魂を込めた一冊。単に経済、金融のことだけでなく、人生観や社会全般に問いかけている本になっています。

この本はずっと読みたい本リストに入ってましたが、なぜか読むことなくこれまで来ました。しかしコロナウイルスというブラックスワンが世界に蔓延し、世界GDPが前年比-30%に達すると噂されている今、この本くらい読むに値するものもないでしょう。

そもそも反脆弱性というのはなんでしょうか。タレブは脆弱性(ぜいじゃくせい)とか脆(もろ)さという言葉の反対語は存在しないといいます。普通、脆いとは何かショックやストレスがあったときに簡単に壊れてしまうことです。その反対語として頑健や強靭という言葉が思い付きますが、これは単に壊れにくいということを言っているだけで否定語でしかなく、反対語になっていないといいます。反脆弱性というのは、ショックやストレスがあったときに壊れるのではなく、反対にもっと強くさらに頑健になることをいうのです。

脆弱性を金融資産で実現するには、下がる場合には損失が限定されていて、上がる場合には天井知らずになっていればいいわけです。じっさいにそのように設計されている取引がオプション取引と呼ばれているもので、このオプション取引のような考え方で資産を構成すれば、脆くない金融資産を築けるというのです。

というような話を読んで、わしは違和感たっぷりでした。だって、ふつう、そういうふうに投資しませんか?

例えば超普通に行われている投資戦略として、安値で放置されている優良銘柄を発掘して投資するという方法があります。市場にはなぜか業績が優秀なのに放置されている銘柄があると言います。そういう銘柄では株価はすでに十分安いので、下がったとしてもわずかだと期待できます。つまり損失が限られているわけです。いっぽう、この銘柄がいったん市場で発見されると、価格が何倍にもなる可能性があります。明らかにこの投資方法は非対称性を利用しています。

これに限らず、投資の場合、単純にストップを設けてさえおけば損失を限定し、逆方向にはいくらでも伸ばすことができます。

つまり投資するというのは、なんらかの非対称性を見つけるということで、まあ、それがなかなか見つからないから苦労するわけです。

ところで、実際にブラックスワンが起きた場合はどうすればいいのでしょうか。こまったことに、それについてはタレブは詳しく語っていません。オプション性を利かせて投資していれば損失が限られているから問題ないということのでしょうか。

ストップをかけてある場合はそこで止まるわけですが、そうでない場合は、どうしようもありません。しかし、ブラックスワンにはいいこともあります。これは優良と信じ込んでいた銘柄が、実はそうでないことが発覚することがあるというメリットです。バフェットのいう、「潮が引いた時に誰が裸だったかが分かる」ということです。そのような銘柄はすぐに売って、安くなった別の優良と思われる銘柄に乗り換えることができます。

タレブによれば、このオプション的な考え方を職業の選び方とか、生きていくすべてのことに生かしていけるといいます。例えば、職業について例を出しています。

銀行員でいい給料をもらい、瀟洒な家を買い住宅ローンを払っているAさんと、建設の職人で生計をたてており、収入が不定期で安定していないBさんを比べる例が載っています。どっちが脆くてどっちが反脆い仕事でしょうか。

明らかにAさんの方が脆くて、Bさんの方が反脆いですよね。Aさんは銀行の業績が悪くなると簡単にリストラされる可能性がありますし、住宅ローンを抱えている身では上司に対して意見をいうなどと考えられません。Aさんはすべてを会社に依存しているため非常に脆いわけです。Bさんの場合はいやな仕事は断ることもできますし、仕事と趣味の時間配分も自由にできます。Bさんは反脆いといえるでしょう。

タレブの推奨する仕事の仕方とは、仕事を2つ以上持ち、安定した仕事を90%、自分の好きな仕事を10%にすることだそうです。でもこれも普通の戦略じゃないですか? サラリーマン投資家って多くは生活の安定と投資を両立させていると思いますよ。

しだいにこの本を読んでいる意味があるのかどうか分からなくなって来ますが、しかし、なにか判断に迷ったら、ヒューリスティックに頼るべきだ、みたいなことが書いてあって、これは納得。ヒューリスティックというのは理論的なものではなく経験則、試行錯誤の知恵のようなもの。

タレブによれば、少しずつ試行錯誤で確立した知識は、間違いがすでに除去されているので信頼性が高いとのこと。つまり完全じゃないかもしれないけど、損失が限定されている反脆弱な知恵になるのですね。

ヒューリスティックは未来予測にも有効だといいます。未来がどうなるか、普通は未来になにが付け加わるかを考えて想像しますが、タレブは何が消えるかを想像する方が簡単だと言います。すると遠い昔からあって今でも残っているものは今後も消えないだろうと予測でき、逆に最近のものは消えやすいと言います。今まで長く残ったものは今後も残りやすいという、ヒューリスティックを利用した考え方です。なるほど、ワインやチーズは今後も残るでしょうね。一方、情報端末はどうなるか分かりません。

さて、世の中には、損失が限定されているというオプションの性質を使って不当な利益を得ている人がたくさんいると言って、タレブは自分が嫌いな人間を実名をあげて非難しています。学問としては経済学が大嫌いみたいで、ニューヨーク大学スティグリッツを糾弾しています。彼はリーマンショックの直前にファニーメイフレディマック(どちらも住宅ローンの政府系の会社)を絶賛していました。しかしリーマンショックの後の著書で、この2社が破綻するのは分かっていたと書いて、タレブの逆鱗に触れたのです。学者はその時々で適当なことを書いて、それが間違っていてもまったく平気だと言います。つまり学者は発言に対して損失が限定されていて、反脆弱だというのです。学者が信頼できる人間かどうかのヒューリスティクとして、自分が言った通りのことを自分がやっているか、その行動を見ればすぐにわかると言います。

そのほかにも負のオプションが限定されている職業に政府の役人がいると言います。彼らは複雑な規制を悪用して、役所を辞めた後に金持ちの抜け道を指南していると言います。それなのに、彼らは金持ち以外のふつうの市民に優遇することは反対します。彼らはまったく自分たちの身銭を切っていないので、損失は限りなく限定しつつ、一般市民から金持ちに富を移転しているのです。

タレブによると、自然こそはヒューリスティックが詰まった叡知だというのです。自然は常に試行錯誤し、次の世代ではより強くするからです。つまり、その自然は我々が死ぬことにより、ヒューリスティックを高めているといえるのです。そういう意味では生物は死ぬことが計画に入っている存在で、死ぬことはやむを得ないということになるんでしょうね。彼は、人の精神をアップロードして永遠の命を得るという「シンギュラリティは近い」のレイ・カーツワイルのことは嫌いだそうです。(笑)

残念ながら、この本で述べていることは、わしには当たり前すぎてあまり参考になりませんでしたが、タレブのことは好きになりました。彼はトレーダーをして大金を稼いだ後、引きこもって研究の道に入りました。そして、この本を書いたのです。彼は誰にでも何でも言える立場を自分で作ったのです。

★★★★☆

 


反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方


反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

 

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