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アイヌ学入門

瀬川拓郎 講談社 2015.4.1
読書日:2024.9.29

アイヌ学の現状を紹介する本。

『万物の黎明』を読む」を読んだときに、瀬川拓郎のアイヌの話が印象に残った。アイヌの首領は奴隷のような存在を使ってサケ漁の作業をさせるんだけど、こうした権力は家族を超えては影響力がないとか、そんな話だった。なるほどと思った。

それから気がついたのだけれど、わしが契約しているWEBマガジン、クーリエ・ジャポンの「今月の本棚」(毎月3冊、講談社の本が無料で読める)の9月分の1冊はこの瀬川拓郎の「アイヌ学入門」だったのである。こんな幸運はめったにない。というわけで、急いでこの本を読んだのだった。(なにしろ、9月中しか読めないから)。

この本を読んで最も驚いたのは、アイヌが中国の元と戦争をしていたという歴史である。1264年から1308年の約50年間、アイヌは元と戦争状態だったのである。これは元が北九州を襲った元寇(1274年、1281年)と同じ時期で、元の兵力は1386年の戦いでは兵力1万人、船1000艘だったというから、相当な大軍だ。対するアイヌ(軍?)は数百人だったそうだ(笑)。

この時期、アイヌはサハリンに拡張していて、元の攻撃はアイヌをサハリンから追い出すためだったらしい。元から見れば、攻められたからやり返したという防衛戦だったということか。これに対してアイヌ軍は大陸にも渡って、アムール川周辺を攻撃したらしい。すごい。結局、1308年に毛皮を納める貢納する条件でアイヌが元に服属する、という結果に終わったのだけれど、なんともびっくりだ。

というわけで、このころ(10世紀以降)のアイヌは「ヴァイキング」といっていい存在だったのだそうだ。

でも、やっぱり気になるのは、やっぱりアイヌと日本人の関係だ。何しろ、アイヌはかつては東北地方にもいたのだから。だから東北地方の縄文時代の遺跡はアイヌに直結する遺跡というこということになる。

遺伝的な調査では、日本にはかつて縄文人という人たちがいて、彼らが全土を覆っていたらしい。縄文人は1万年近くにわたって世界から孤立した生活を送っていたが、3000年前ぐらいに朝鮮からの渡来によって西日本に日本人(弥生人)が誕生し、アイヌと分離したということになるらしい。この本では弥生人古墳時代の人々、というふうに言われている。

言語的には、アイヌ語は周辺に共通の言語を持たない「孤立言語」なんだそうだ。日本語と語順は同じだけれど、日本語は語尾に変化を与えて区別をする接尾辞(神さま、子どもたちの「さま」「たち」)が優勢な言語なのに対して、アイヌ語は接頭辞(お母さんの「お」など)が優勢の言語で、この接頭辞優勢な言語はシベリアのケット語ぐらいしかないという。

こういうことから、アイヌ人は孤立していた縄文人の末裔と考えても間違いなさそうだ。

東北地方の地名には、アイヌの言葉の名残が残っている。アイヌ語で川を示す「ナイ」や「ペツ」がついた地名が宮城県より北に多く残っているから、かつては東北にいたのである。それが古墳社会の人々が東北にやってきて(中央の京都からは「エミシ」と呼ばれた人々)、アイヌは北海道に追いやられてしまった。

しかし、アイヌと古墳社会の人々との関係は絶えたわけではなくて、混じり合っている。宗教関係の概念や風習は、日本から取り入れたものが多い。カムイ(神)、タマ(魂)、ノミ(祈む(ノム))といった言葉がそのまま取り入れられていて、さらに宗教的な踊りなんかも取り入れられている。アイヌの人たちが行う行進呪術(足を踏み鳴らして前進し、剣を振り上げ、奇声をあげるような術式)は、日本の陰陽道の「反閇(へんばい)」そのままなんだそうだ。というわけで、どうも陰陽道のひとたちも、北海道に渡ったらしい。

貿易も盛んで、矢に使われるオオワシの尾羽や干鮭(からさけ、無塩の素干しの鮭)やラッコやシカの毛皮などが交易品として日本に渡っていたし、やっぱり注目は「金」でしょうか。漫画の「ゴールデンカムイ」か、という感じですが、実際に北海道は金がよく採れるようです。北海道にはゴールドラッシュが幾度も起きていて、奥州藤原氏の一団も北海道の日高に移住した可能性があるという。

で、日本からは、いろいろな宝も輸出されていて、戦国時代の鎧兜のようなお宝もアイヌの首長たちは喜んで集めたらしい。このような宝を手にいれるために、サケやシカを乱獲し、北海道から5歳以上のシカがほぼいなくなったそうだ(いま北海道でたくさんいるのは、その数少ない生き残りが増えたもの)。こういったサケが主産業になってしまい、サケが取れない川からはアイヌはいなくなったのだという。こういう産業に従事させられていた人々について、瀬川は「『万物の黎明』を読む」に書いたわけだ。(つまり奴隷扱いされていた人がたくさんいた)。

最後に伝説の小人、コロポックルについて。どうもコロポックルは千島列島に渡ったアイヌのことではないかという。土を盗む話とか、すぐに姿を隠すという行動が一致するという。またお話としてのコロポックルの起源は、遠くローマの博物学プリニウスの「博物誌」にあり、ローマから、中国、ニヴフオホーツク海人)を通してアイヌに入ってきたのではないかという、ちょっとほんまかいなという話もあった。

まあ、そういうわけで、アイヌの話はなかなか興味深かった。せっかく日本にアイヌの人達がいるのだから、もっと研究が進んでほしいなあ、と思った。

★★★★☆

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