ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質

ナシーム・ニコラス・タレブ ダイヤモンド社 2009年6月19日
読書日:2009年08月17日

「反脆弱性」をアップした後、ブラック・スワンのレビューを載せていないことに気が付いたのでアップする。しかしこれを読むと、タレブはずっと言ってることが変わっていないのがわかる。しかし2009年のわしはすばらしいと感激しており、2020年のわしは当たり前じゃないかと言っているのが笑える。2020.4.12)

 

久々に感銘を受けた。

この本のなかに、金融関係の実務の人は、自分の意見に賛成してくれるのに、オフィスに戻るとまた間違った式でリスク計算をすると嘆く話が出てくる。まあ、金融関係のサラリーマンはそうするしかないだろう。そうするように求められているのだから。著者(かもしくは仲間の経済学者、いるとすれば)がノーベル賞でももらわない限り、無理だろう。一方、わしは金融関係のアナリストではなくエンジニアだから、この考え方は非常に参考になる。

著者が忌み嫌うのは、ベルカーブ、つまりガウス分布(とその兄弟たち)。リスク関係の計算はこの分布をもとにして行う。ところが世の中にはべき乗則が成り立つ世界がたくさんあり、ほとんどの経済活動はそうであるという。ガウス分布の世界では平均から外れたことはめったに起きないが、べき乗則の世界ではベルカーブでは異常とされる出来事が起こるリスクが圧倒的に高まってしまう。世の中に起こることは複雑系の科学の範疇のできごとなのだ。

ここだけなら、複雑性の科学の本でもいろいろ載っているかもしれないが、じゃあどうすればいいんだという話について、この著者が示唆を与えているところがよい。たとえば投資なら、超保守運用(国債とか)と超積極運用(デリバティブとか)を組み合わせる。割合としては超保守に85%、積極運用に15%で、積極運用の中身は小さくたくさんのものに投資する。積極運用のそれは、何か異常値が発生したときに異常に儲かるから小さくてよい。超保守運用で破産しないようにしながら、いっぽう異常値で儲けられるようにするのだ。

著者の運用会社は、2008年の100年に1度の金融混乱で、よく儲けたそうだ。というか、著者は長年トレーダーをしているのに、過去3回しか儲けていないという。1987年と1998年、2008年だけだそうだ。なるほど。

技術開発のときにも同じことが言える。何かしきりと小さなトライをたくさんして、なかみが多様性であれば、ものすごい開発ができる可能性が高まる。これはたぶんどこでも成り立つ話だろう。たくさん試すことができる環境を整えることが重要だ。(どう考えても実際問題そうするしかないのだが、本当に確率が高まると裏付けられていれば、勇気もわいてくるというものでしょう?)。

この中には何かすごい発見をもくろむ科学者の話が出てくる。毎日毎日、何事も変わらない日々をずっと過ごす。何か発見するぞと思いながらなにも起こらない。くじけそうになる。そういう発見はほとんど起こらない。そしてもし起こったとしても、それが世間に与える影響はその時点ではほとんどない。異常なものが出たときには、当たり前ぐらいにしか思われないことが多い(らしい)。影響を与えるには長い年月が必要なのだ。

人生もきっと同じだ。大きなバクチを打つのではなく、リスクの少ない小さなトライをたくさんしよう。投資ってことじゃなくて、いろんな人生の行動ね。きっといくつかは当たりになる。そうならわしの人生も御の字といえるだろう。

ちょっと気になったのは、知性もべき乗則で、ほとんどの知性はほんのわずかな人にしかないというくだりかな。そうかなあ、と思う。著者はきっと知性の意味をを限定しすぎているんじゃないだろうか? だってここだったら負けないという人はこの世の中にたくさんいる。知性も分野ごとに見れば、数人しかいなくても全ての分野を集めればたくさんの人になるんじゃないかなあ。

★★★★★ 


ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
 


ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質

 

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ