ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

天才数学者、ラスベガスとウォール街を制す 偶然を支配した男のギャンブルと投資の戦略

エドワード・O・ソープ 訳・望月衛 ダイヤモンド社 2019.4.3
読書日:2023.3.4

世界で初めてブラックジャックのカウンティングの技術を発見し、オプションの価値を計算するブラック=ショールズの式を発表前から自力で発見し、適正価格から外れた銘柄をリスク・ニュートラルで運用して大金持ちになった数学者、エドワード・O・ソープの回顧録

この本は長らく読まなければいけない本に入っていたもので、ようやく読んだ。

わしはエドワード・O・ソープの名前を知っていたし、「ディーラーをやっつけろ」という本のことも知っていた。でも、エドワード・O・ソープがどんな人間かはまったく知らなかった。

この本を読んで、ソープの人柄を知ったが、思った以上に数学者なのだった。つまりお金儲け以上に数学の問題を考えるのが好きな人ということだ。ソープはお金持ちになっても数学的な論文を発表し続けているようだし、ブラックジャックのカウンティングの技術を発見してラスベガスで勝ちまくったけど、なぜラスベガスに行ったかというと自分の理論が本番で使えるかどうかを確認するためだった。ソープはなかなかナイスなやつだ。

面白いのは、あの大数学者のクロード・シャノンもギャンブルに強い関心を持っていて、やっぱりシャノンも理論が本当に使えるかどうかに強い興味を持っていたことだ。あのシャノンも実戦の人だったんだなあと感心する。

そんなわけで、ソープとシャノンは意気投合して、ルーレットの研究をする。そして世界初のウェアラブルコンピュータを作って、それを服の下に仕込んで、ラスベガスで実戦に臨む。このころソープの顔は知れ渡っていたので、あまり勝ちを重ねないうちにカジノから追い出されているのだが、十分実践に使えることが確認できたとして、実験をやめている。

で、ソープが考えていたのはどんなことだったのだろうか。ソープが考えていたのは、常に確率の問題だ。勝てる確率が数パーセント高くなる状況があるので、そういう状況になったときだけ大きくかければ、長くやっていると圧倒的に勝つことができるのだ。

カジノではいつも追い出されるようになったので、世界最大のカジノ場であるウォール街の市場で勝負するようになったのだが、やっていることは同じだった。つまり、勝つ確率を計算して、勝てるものだけにかけるということである。それはある銘柄について適正な価格から外れて歪んでいる場合ほど、勝てる確率が高くなるということである。

ソープは経済学者が信じているような、市場は完全だとはまったく思っていなくて、必ず歪みがあると信じている。歪みが大きくなればなるほど勝てる確率は大きくなる。たいていは数パーセント高くなるだけだったが、たくさんのそういう取引をすれば、統計的に大きく勝てる。なので、ソープはコンピュータを駆使してそういう銘柄を大量に取引したのだった。

そしてリーマンショックなどのブラックスワンがおきて歪みが大きくなると、他の人は大損しているのに、彼は大いに儲けることができるんだそうだ。

ソープはいわゆるクオンツの先駆けだったわけだ。

そうすると歪みの大きさを計算する必要があるが、そもそも適正な価格をどのように計算すればいいのだろうか。とくにオプションでそれを見積もる方法は知られていなかったが、ソープは自分でそれを理論的に求めたのだ。それはいわゆるブラック=ショールズの式として知られているもので、ブラックとショールズはこの功績でノーベル賞を取ったくらいだ。

ところで、ブラックがブラック=ショールズの式を発表する前、わざわざソープに知らせてきたのだという。なぜなら、ソープが基本的な考え方をすでに発表していたからだ。発表することを聞いた時、ソープはもう稼げないのだと確信したのだという。その式を知ってしまえば、誰もが同じことができるからだ。実際、そのとおりになり、次第にこの方法による投資のうまみが少なくなっていったそうだ。

まあ、そういう事もあって、ソープは実際の投資からは徐々に身を引いて、人生を楽しむことにカジを切っていく。足ることを知っている人なんだね。

ソープの投資の特徴は、まったくリスク・ニュートラルであるということだ。例えば、ある銘柄について、オプションと現物をズレが有るとする。すると、高い方をうり、安い方を買う。こうすると、もしも価格がとんでないことになっても、リスクは限定的だ。だからリーマンショックが起きても怖くないし、逆に大きく儲けることができる。

こういうソープの一番の理解者は妻のヴィヴィアンだったそうだ。彼女は本物を見抜く直観の強い人だったらしい。ブラックジャックの理論を作るときには何千枚もカードを配って実験に付き合っているし、ルーレットのときも玉を投げ入れる役をやってくれた。こういう自分をわかってくれる人と結婚できる人は、幸せだね。

この本は上下巻で構成されていて、上巻はこのような回顧になっているけど、下巻は一般的な投資の考え方を書いているだけで(例えば複利の力とか)、ちょっと退屈。もしかしたら、下巻はどこかの雑誌なんかで書いた記事の内容をまとめたものなのかもしれない。たぶん一般的な投資の話を知っている人は、下巻は読まなくてもいいと思う。まあ、復習で読むのはいいと思うけど。

ソープは楽しくていい人生を送ってていいなあ。わしもこうありたい。みんなもそう思うでしょ?

★★★★☆

 

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ