武村政春 講談社ブルーバックス 2017.4.20
読書日:2020.4.7
巨大ウイルスの観察を通して、細胞がウイルスを取り込んだ結果、細胞核が誕生し、真核細胞ができたと主張する本。
なにしろコロナウイルスが世界的にパンデミックを起こしているのである。安倍首相も緊急事態宣言をしたのである。首都圏ほぼ封鎖である。というわけで、このようなウイルス関連の本を手にとってみたのである。世間の流れに合わせて手に取る本も変わるのである。
2003年に常識をくつがえす巨大なウイルスがフランスで見つかった。というか、ずっと前から存在していたのだが、その大きさから誰もウイルスとは思っておらず、細菌だと思われていたのである。
細菌とウイルスの違いだが、細菌は代謝機能をすべて揃えていて、増殖も自分の中で完結している。いっぽうウイルスはそのような機能を持っておらず、細菌に取り付いて、細菌の代謝装置を用いて自己増殖を行う。具体的にはリボソームというタンパク質を合成するものが細菌にはあるが、ウイルスにはない。なので、ウイルスならリボソームの遺伝子を持っていない。
巨大ウイルスの遺伝子を確認したところ、そのリボソームの遺伝子が発見されなかった。それで、ようやく細菌ではなく巨大なウイルスであることがわかったのである。ミミウイルスと名付けられた。
いったん巨大ウイルスが存在することがわかると、世界中からその仲間が次々に見つかった。著者も荒川の水の中から、トーキョーウイルスという巨大ウイルスを発見している。
ウイルスは細胞に取り込まれると、活性化して、細胞内にウイルスを製造する工場のような領域を設ける。巨大ウイルスぐらいになると、このウイルス工場は細胞核くらいの大きさになる。2つ並んでいると、どっちが細胞核でどっちがウイルス工場なのかわからないくらいそっくりである。見た目ばかりでなく、その構造もそっくりである。
著者は特にリボソームの配置に注目している。リボソームはタンパク質を合成するタンパク質なのに、このウイルス工場なかには入れないのだ。そのかわり、工場周辺に待機していて、ウイルスから指令がでるとすぐにタンパク質を合成する。その理由はよくわからないが、たぶんウイルスに無関係なものは工場内に入れないのだろう。
ところが、リボソームは細胞核にも中に入れないのである。細胞核の中にあったほうがいろいろ便利な局面もあるのではないかと思われるのにそうなっていない。
そう考えると、もともとウイルス工場が細胞に取り込まれて、細胞核として発展したと考えるほうが筋が通っている、と著者は言う。その発展の道筋はまだ穴だらけのようだが、説明としては説得力がありそうだ。
そのほか、もともとRNAが遺伝子として活躍していたのに、DNAに変わったのにもウイルスが関わっているようだ、などの話がされている。
著者の認識では、普段われわれが思っているカプセル状のウイルスは植物の種のようなもので、細胞に入ってからの姿が本当のウイルスだということらしい。まあ、そうかもしれない。
ウイルスは分からないことだらけで、著者がわくわくしながら研究しているのがいいね。
★★★★☆