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世界は変形菌でいっぱいだ

増井真那 朝日出版社 2017.11.17
読書日:2021.11.4

5歳のときに変形菌のことを知り、変形菌を育てるようになり、実験を行って学会にも発表する中学生(当時)が、変形菌との関わりや研究成果を述べた本。

たぶん、小学生の頃の著者がテレビで紹介されていたのを見たような気がする。変形菌を家の周りで発見して紹介していた。彼の両親は変形菌にまったく興味がなかったのに、両親を巻き込んでいて、すごいなあ、と思った。

増井さんによると、変形菌は粘菌の一種で、目に見えるほど大きくなって動き回るけれど、単細胞生物なんだそうだ。びっくり。

世界には900種ほどいるが、種の種類としてはそんなに大きくはない。これは胞子で世界中に散らばるが、適応力が高くて多様な環境に種として分裂しなくても対応できるかららしい。日本には世界中の変形菌の40パーセントぐらいがいて、変形菌大国(笑)なんだそうだ。

変形菌は動き回る変形体の形態と、胞子を撒くための子実体という形態があって、変形菌の愛好家は子実体の愛好家のほうが多いという。著者は、変形体派で、動き回る姿が可愛いようだ。

変形菌がどのように動き回るかというと、原形質流動を使うのだという。具体的には細胞内の原形質を特定の方向にぐっと押し出すようにして、移動していく。押し出したあと、いったん原形質を元の戻すのだが、そのときに押し出した分が戻らないように細胞の周りにはネバネバした液鞘という部分があり、その部分が摩擦となって、戻らないんだそうだ。

でも原形質を押し出すにはどうやってるんだろうか? なにかポンプのような構造が必要なのでは?

ランダムに押し出すのではなくて、方向のコントロールもしているようだ。たとえば違う環境に出会うと(たとえば塩分濃度とか)、そこで行こうかどうか迷うような行動を取るみたいなので、何らかのシステムで進む方向をきめているみたいだ。その意思決定の仕組みと特定の方向に原形質を押し出す仕組みがいまいちよく分からなかった。もしかしたら今でも解明されていないのかも。

著者の研究テーマは変形菌が自己と他者の違いをどのように認識するか、だそうで、変形菌を2つに分けても、相手を自分と認識すると融合してもとの1つに戻るという。他者だともちろん融合しない。そのはずだが、別のところから採取した変形菌が融合することもあるんだそうだ。たぶんそれはかつて別れた自分か、同じ変形菌からでた胞子、つまり兄弟か近い親戚なんだろうという。

変形菌はまわりをネバネバした液鞘で覆われていて、著者はこの駅鞘の成分で自他を区別できることを確認している。

わしはそもそも2つに切っても、なぜそれぞれが独立した変形体になれるのか不思議だったが、ネットで調べてみると、変形菌は単細胞生物だけど核を無数に(大きいものでは億単位で)持っているので、切ってもそれぞれが独立して存在できるのだった。なるほどね。そりゃ核が一個だけだったら、あんなでかい体を制御できるはずがないからね。

でもまあ、この本の魅力は、そんな変形菌がどうしたという話ではなくて、やっぱり小学校の時から変形菌に夢中になって、大人顔負けの実験をしている中学生という存在にあるんだよね。そしてそれに協力している両親の存在。

いまは大学生なんじゃないかと思うけど、変形菌の研究はどうなったのかしら。と思って調べてみたら、いまは慶應義塾大学環境情報学部に在籍して、研究は続行中のようです。講演やテレビ出演、協力も多数。

さすがです。

なんか粘菌会のさかなくんみたいな存在になるのかしらね(笑)。

著者ホームページ:https://mana.masui.jp/

★★★☆☆

 

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