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私労働小説 ザ・シット・ジョブ

ブレイディみかこ 角川書店 2023.10.26
読書日:2024.3.18

(ネタバレあり。注意)

イギリスの労働者階級についていろいろ教えてくれるブレイディみかこが、自分の経験したシット・ジョブに基づいて書いた短編小説集。

全般的にとても面白かったです。こういう体験を読むのはとても興味深い。ブレイディみかこはたくさんのシット・ジョブの経験をしたんですね。ちなみにシット・ジョブの定義は、お金のためだけにする低賃金の報われない仕事。

小説の形ですが、ブレイディみかこの半生がなんとなくわかるような構成になっています。ということで、知りませんでしたが、ブレイディみかこって大学を卒業していなかったんですね。わしはてっきり大学で社会学を専攻した人だと思っていました。社会学の知識やフィールドワークの経験があるような記述が見え隠れしていますからね。それでイギリスの労働者階級について研究しているうちに、結局住みついちゃった人なんだと勝手に思っていました(笑)。

実際にはパンクロックにあこがれて、イギリスが自分の住むところと思い定めて、水商売とかも経験しながらお金をためてロンドンに行ってるんですね。へー。なんかKポップにあこがれて韓国に行っちゃった人みたいな。それがなんでいろいろ社会学を学んでいくことになったのか、たぶんこれまで出した本のどこかに書いてあるんでしょう。まあ、そのうち知ることができるんじゃないかと思います(←積極的に調べようとしていない(笑))。

ここで語られているのは、ほぼ仕事とそれをする人の尊厳の問題ですね。

水商売をしているとセクハラな言葉を浴びせられてもそれ自体が仕事だと達観しないとできないし、店の売り子の店員なら相手が求めている言葉をたとえ嘘でも浴びせればどんどん売れるし、さらに相手に感謝もされるけれどそのうち自分が耐えられなかったり、人間関係に疲れると誰とも話さなくてもいい工場の仕事が天国に思えたり、底辺にいるとちょっと強い立場に人からいいように使われてしまったりします。

いろんなバリエーションのシット・ジョブが語られていますが、わしが面白いと思ったのは、まったく賃金が絡んでいないボランティアの話ですね。ボランティアで、お金が絡んでいないから、みんな自分のペースでしか仕事をしないし、さぼりたいときにさぼるし、人間関係ではマウントとるみたいなこともするし、そんな感じなのにみんながこの仕事をするのは、ただ人と関係を持ちたいからだけだという働き方ですね。わしは将来的には食料や住居などが無料になる未来が来ると思っていますが、それでも仕事は残るんだろうな、と思います。人と関係を作るためだけでも。

一番切なかったのは、保育士の仕事のシャーリーの話ですね。著者がシット・ジョブと呼ぶような仕事に就くのさえも大変な人がいて、そんななか頑張っている、ちょっと融通の利かないかたくなな性格のシャーリーが追いつめられて、最後に指の関節を噛んで声を押し殺して泣くシーン、この子もそういう階級の子なんだと述べられているのですが、それは著者もそうだったからでしょうか? なんとも切なくなってしまいました。わしはこんなふうに社会に追いつめられて泣いたことはないのですが、それはとても幸運なことなんでしょうか。

そして最終的には、ケアの仕事にたどり着くわけですね。ケアの仕事こそ、エッセンシャルワーカーの仕事で、人にしかできない仕事で、きっと最後まで残る仕事でしょう。ケア従事者への褒賞と尊厳が少ないというのは問題ですが、それが改善される兆しがあるというのは、たぶんそれは正しいと思います。基本的に先進国では人口が減少していくので、ケア従事者の立場は強くなっていくでしょうからね。

ところで、「私小説」って「わたくししょうせつ」って読むんですね。初めて知りました(苦笑)。

★★★★☆

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