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人生を変えた韓国ドラマ 2016〜2021

藤脇邦夫 光文社新書 2021.11.30
読書日:2022.2.17

ドラマに耽溺する著者が、近年の韓国ドラマの傑作とそのドラマ史における意義について、熱を込めて解説する本。

わしはドラマをほとんど見ない。わしも「愛の不時着」の評判を聞いて、ネットフリックスで見ようとしたことがある。でも第1話がすでにつまらなく、続きを見るのを即座にやめてしまった。そのくらいドラマに興味がない。結局、作り物のお話にはあまり興味がないのだ。事実のほうが創作よりも面白いと信じていて、主に見るのはドキュメンタリーである。

しかし、韓国のコンテンツが世界を席巻しているのはもちろん知っているから、韓国コンテンツ業界の状況については、ドキュメンタリーとして興味がある。それで、この本を手に取ったわけだ。そして読んでいるうちに著者のドラマにかける熱量にほとほと感心してしまった。

著者は韓国だけでなく、日本やアメリカのドラマも見まくっているようだし、海外のドラマの変遷に詳しいようだ。もちろん映画も見てるようだ。こんなにドラマに耽溺している人がいるんだなあ、と感心した。なるほど、マーダーボット・ダイアリーの弊機のような人は、この世にたくさんいるらしい。

まあ、人というのはあらゆるコンテンツにハマるようにできていて、それが音楽だったり、舞台だったり、小説だったり、ゲームだったり、アニメや漫画だったり、さまざまだ。そんなふうに何かにハマる人は幸いなのかもしれない。そしてハマった人は、熱く語る。著者の場合は2015年に定年退職してからドラマ視聴がより加速したようだ。

個々のドラマの内容にはあまり興味がないので(笑)、わしが読み取った全般的な傾向を書くと、次のようになるかな。

(1)産業としての関係者の多さ
著者は、韓国の俳優層の厚さを何度も指摘している。数十人の大量の俳優が必要な場合も、それぞれの役割に応じた個性的な俳優を集めることが可能なんだそうだ。俳優でそうなら、きっと脚本家や監督、プロデューサー、カメラマンなど関係者の数も多いのだろう。

やはり人数は力だ。日本でも、膨大な数の映画が作られてたくさんの人が関わっていた頃(世界のクロサワの時代?)は、世界的に映画の実力は高かったのではないか。今のアニメや漫画もそのなかに果敢に入っていく人が多いから、次々に新人が誕生して、その激烈な競争の中から新しいアイディアが生まれて、世界的な実力を保っているんだろう。

なぜ韓国ではコンテンツ業界に人が多いのかはよくわからないが、昔から韓国は芸能関係の力が強かったように思う。わしは昔ミュージカルをけっこうよく観ていたことがあったが、同じブロードウェイ作品でも日本バージョンよりも韓国バージョンのほうができが良い場合が多かった。いま日本の劇団四季でも主役を張れる人には韓国人が多い。さらにいうと、韓国人オペラ歌手が世界を席巻していることは昔からよく知られている。

韓国人と芸能は親和性が高いのかしらね。

(2)規制の少なさ
最近の韓国ドラマの優良作品は、ほぼケーブルテレビ局の作品のようだ。3大ケーブルテレビとして、tvN、JTBC、OCNがあげられている。

これらのケーブルテレビは表現の自己規制が少なく自由な表現ができ、しかも制作作品数もこれらケーブルテレビの参入で飛躍的に増えたから、多くのアイディアが投入されるようになった。また、作品本位のキャスティングが進み、新しい俳優や脚本家が抜擢されることが多くなった。

翻って日本を見ると、いまだに地上波が主力で、ケーブルテレビやネットテレビが台頭する様子は見られない。地上波は自己規制が多く、冒険しない体質なのは明らかだから、このような状況では、新しい俳優、新しいアイディア、新しい人材が出て来ないだろうし、まだまだ厳しい状況が続くのでしょうね。

なぜ日本ではアメリカや韓国のようにケーブルテレビが番組制作で台頭しなかったのか。この辺についてはわしは詳しくありませんが、地上波を独占しているマスコミの力が大きすぎて、行政への認可の圧力があったのではないでしょうか。いかにも日本で発生しそうな状況ですが。

こういう状態では、ネットフリックスのような日本と関係のない海外の配信系がもっと日本のドラマに投資してくれないと難しいような気がしますね。「全裸監督」のような作品なら、わしも見ますからね。

そう言えば、ドラマをめったに見ないわしですが、結構、東京テレビの深夜のドラマは見ることがあります。例えば「孤独のグルメ」はずっと見ていますね。東京テレビは少しは冒険ができているということかな?

(3)国の政策
金大中(キム・デジュン)がコンテンツの輸出に力を入れて、影響があったことは間違いありません。テレビドラマの方は知りませんが、映画の脚本に時間がかけられるようになったという話はよく聞きます。

でも、この本を読んでいると、確かに政府の政策は力になって、それをうまく利用できた面はあるが、もともとのポテンシャルがそうとう高かったというのが正解のようだ。

コンテンツ輸出政策でも、はじめから狙ったというよりも、世界的に情感あふれるストレートなドラマが求められているところに、世界的なレベルに達していた韓国のコンテンツがうまくはまったという気がする。

日本でも韓国のようにコンテンツ政策をもっと行うべきだという話がある。わしはこの考えには少々懐疑的だ。

日本では国がコンテンツに関わるとろくなことがないような気がする。東京オリンピックの開・閉会式の酷さは、それを表しているのではないか。オリンピックよりも低予算のパラリンピックの開・閉会式のほうがなぜかできが良いのは、日本では多くの人が関わりすぎて中身を台無しにすることが多いからなのではないか。そして漫画もアニメもゲームも、政府の規制がないからうまくいったのではないか。政府がお金を出すけれど口は出さない、というのならいいのですが、そうは絶対になりませんからね。

さて、著者は今後の韓国ドラマがどんなふうになるかを展望している。これによると、今後はアメリカと同様にSF的な題材が増えるんじゃないかということだった。その理由として、世界を目指すと韓国の呪縛を離れる必要があるからだそうだ。でもなぜか韓国とSFの相性は良くないという。

そして、ネットフリックスなどを経由して、近い将来、韓国ドラマがゴールデングローブ賞を受賞するのは、もはや必然なんだそうだ。

わしはドラマに興味はないが、やはり最大の傑作と言っている、「シグナル」は見ておこうかな。イッキ見で見なくてはいけないというので、何もする予定のない休日の隙間の時間にこっそりと見るかな(笑)。あと、「ボイス」もありかな。どちらも日本版もまったく見てないから楽しめるかも。

最近の3大作品、「愛の不時着」「梨泰院(イテウォン)クラス」「賢い医師生活」のうち、愛の不時着はわし好みでなかったが、他の2つはちょっと見てみてもいいかも。

★★★★☆

(追記 2022.4.7)

2022年3月末に著者が熱烈に支持する韓国ドラマ「シグナル」(韓国オリジナル版)をネットフリックスで観てみた。ちょうど平日休みで、家族も仕事や学校でおらず、著者が勧めるイッキ見ができたので、実行した次第。なお、シグナルのネットフリックス配信はこの4月で終了するそうで、なんとも絶妙なタイミングになってしまった。

わしはタイムスリップものが苦手で、なぜなら因果関係の複雑さがいくらでも捏造できてしまうからで、なんかインチキな感じがするからだ。しかしながら、この壊れた通信機でなぜか過去の所有者である刑事と連絡が取れるという設定は、それほど違和感がなかった。きっと、それぞれの時代の登場人物がそれぞれの時代で頑張っているからだろう。

過去が変わって現在の状況が変わったときに、登場人物が過去の記憶を持っているかどうかという問題があるが、シグナルでは通信機を使ったひとの記憶だけがそのまま残っているという設定で、そんなはずはないのだが、視聴者と同じ時間軸の人がいないと困るから、まあ、仕方がない設定ではある。

登場人物の過去と現在が濃密に結びついていて、その関係が次第に明らかにされるところはいかにも韓国ドラマっぽい。そういう韓国ドラマっぽいところは後半になるに従って濃くなる。たとえば政治家と政治家に取り込もうとするエリート、そして金持ちが悪人で、現場の普通の刑事たちが正義に燃えてそれに立ち向かうところなどはいかにもだが、それはそれでよかった。それはともかく、第1話目は韓国ドラマっぽいところは少なく、素晴らしい出来で、感心した。ドラマの導入部としては完璧じゃないでしょうか。

しかしですねえ、1話70分で、全16話というのは長すぎですわ。結局疲れてしまい、1日で見きれずに、2日かかってしまった。最終話に、次のシリーズに続くと見せかけて終わってしまうのも、なんか不完全燃焼で困ってしまったな。まあ、べつにいいけど。

韓国ドラマに耽溺する気持ちはわかるけど、これだけ時間を取られるとなると、わしは別にいいかな。なにしろ、読まなければいけない本がたくさんありますからのう(笑)。

 

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